「全国旅行支援」開始 “早速利用” “条件に戸惑い” 各地は

政府の新たな観光需要の喚起策「全国旅行支援」が始まったのに合わせ、各地の空港や駅、観光地ではキャンペーンを利用して訪れた人たちの姿が見られました。

「全国旅行支援」は、東京都を除いて11日から始まり、1人1泊当たり8000円を上限に、旅行商品の料金の40%の割り引きを受けることができるほか、土産物店などで使えるクーポン券を、1人当たり▽平日は3000円分、▽休日は1000円分受け取ることができます。

沖縄 那覇空港ではミス沖縄らが歓迎

那覇空港では到着口で、沖縄観光コンベンションビューローの関係者やミス沖縄などが訪れた人たちを歓迎しました。

ロビーには家族連れや修学旅行生が続々と到着し、発熱した場合の相談センターの電話番号が書かれたカードなどを受け取っていました。

沖縄観光コンベンションビューローの試算によりますと、国内から沖縄を訪れる人は今月は65万人、来月は64万5000人になる見通しで、新型コロナの感染拡大前、3年前を初めて上回ると予測されています。

沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎会長は「国内の観光に加えて、海外からの観光が本格的に回復することで沖縄観光全体の回復につながると思っています。まずはしっかり国内のお客さまを迎え、観光業界のみならず、県民の皆さんにも国内外の観光客を温かく迎えていただければと思う」と話していました。

石川 JR金沢駅では

JR金沢駅には、午前中から早速旅行かばんなどを持って観光に訪れた人たちの姿が見られました。

東京から料理の勉強を兼ねて観光に来たという50代の男性は「旅費が安くなったのでよかったです。旅行を決めるきっかけにもなると思うので、いいキャンペーンだと思います」と話していました。

愛知県から観光に来たという30代のカップルは「もともときょうから旅行する予定でしたが偶然支援が始まるタイミングが合ったので利用しました。コロナで長らく旅行をしていなかったので楽しみです」と話していました。

一方、旅行支援が適用される条件が分かりにくいという戸惑いの声も聞かれました。

東京から母親と2人で観光に来たという20代の女性は「システムが分かりにくく、予約した時期で対象から外れると言われ利用できませんでした。せっかく旅費が安くなるチャンスだったのでもっと早く仕組みを知っていればと残念です」と話していました。

鳥取 境港「水木しげるロード」では期待の声

「全国旅行支援」は、鳥取県では「ウェルカニとっとり得々割」と名付けて行われ、全国からの観光客を対象に旅行代金が最大で1人1泊当たり8000円割り引かれるほか、土産物などに使えるクーポン券が、休日は1000円分、平日は3000円分配布されます。

境港市の観光名所「水木しげるロード」では、ことしの観光客が先月まででおよそ73万人と去年の同じ時期と比べおよそ50%増えていますが、年間300万人が訪れていた感染拡大前と比べると30%ほどにとどまっています。

水木しげるさんの作品にちなむグッズなどを販売している「鬼太郎の里わたなべ」の原田幸代さんは「夏休み以降、お客さんが徐々に増えてきた中、支援が全国に拡大されるので期待しています。もっともっとたくさんの人に来てもらいたいです」と話していました。

一方、「水木しげる記念館」は、鳥取県が独自に設けた観光施設などの「割引券」の対象にもなっていて、早速、入り口に割引券が利用できることを知らせるチラシをはり出し、訪れた人に声をかけていました。

「水木しげる記念館」の住吉裕館長は「まだまだピークまでは戻っていないので、今回の旅行支援でもっとたくさんのお客様にお越しいただき、引き続き消毒や検温などの対策をしながら楽しんでもらいたいです」と話していました。

群馬 草津温泉の旅館 支援今月末までで影響に懸念も

群馬県有数の観光地、草津町の草津温泉にある創業420年余りの老舗旅館では、全国から予約が入り、来月末までほぼ満室の状態となっています。

ただ、群馬県は「全国旅行支援」の実施期間を今のところ今月末までにしていて、その後は新型コロナの感染状況などをみて判断するとしているため、旅館では今後の見通しが立たず、対応に苦慮しています。

旅館には実施期間などについて問い合わせの電話が相次いでいますが、来月以降については明確に答えられず、今後の予約状況に影響が出るのではないかと懸念しているということです。

旅館の黒岩裕喜男社長は「客が戻ってきて大変ありがたいが、群馬県には今後について早く判断してもらえると現場は助かります」と話していました。

岐阜 下呂温泉 早速支援利用した人も “手続き面倒”という人も

岐阜県下呂市の下呂温泉は、新型コロナウイルスの感染拡大前には、毎年、宿泊者を100万人ほど受け入れてきましたが、令和2年度はおよそ51万人、令和3年度はおよそ58万人に落ち込んでいます。

90年余り前の昭和6年に開業し、建物の一部が国の有形文化財に登録されている老舗旅館でも、宿泊者が減って、厳しい状況に追い込まれていましたが、「全国旅行支援」が発表されてからは、宿泊についての問い合わせが相次いで寄せられるようになったということです。

老舗旅館の長谷川豪営業部長は「全国各地に加えて、海外からの予約もあり、今月と来月の予約はコロナ前の水準に迫っています。全国旅行支援でお客様の数が増え、温泉街がまたにぎわうことを期待しています」と話していました。

宿泊客の中にも「全国旅行支援」を早速利用した人もいて、愛知県蒲郡市から家族旅行で訪れた40代の夫婦は「ホテルの人に割引きの手続きをしてもらい、1人5000円もお得に泊まることができました。1人3000円のクーポンももらえたので、土産物に使いたい」と話していました。

「全国旅行支援」では、土産物店や飲食店で使えるクーポンが付与されることから、温泉街の土産物店も期待を寄せています。

3年前の3月にオープンしたプリンの専門店は、地元産の牛乳を使用してさまざまな味の手作りプリンを販売していましたが、コロナ禍の影響で、おととし、およそ2か月間の休業を余儀なくされました。

店主の戸谷陽香さんは「これまでの東海北陸地方の住民対象のキャンペーン期間中も、クーポンを使う買い物客が多かったので、これを機会にさらに買い物客が増えることを期待しています」と話していました。

一方、観光客の中には、利用するための手続きが面倒だという声もありました。

愛知県小牧市から訪れた70代の夫婦は「割引のあることは知っていたが、手続きが面倒そうで使いませんでした。高齢者には難しいと思います」と話していました。

また、大阪から訪れた40代の女性は「割引を使うにはワクチンの3回接種の証明書などが必要ですが、面倒なので今回は使いませんでした」と話していました。

島根 出雲大社 「神在月」のにぎわいに期待

政府の新たな観光需要の喚起策「全国旅行支援」が始まり、島根県内で最大の観光地、出雲大社では、さらなるにぎわいが期待されています。

出雲大社の参道にある神門通り商店街では、年間600万人の観光客が訪れていましたが、新型コロナの影響でその数は大きく減りました。

新型コロナの感染が落ち着くとともに徐々に人出が戻りつつある中、商店街では、県外からの観光客や修学旅行生など、多くの人がお土産を買ったり、お菓子の食べ歩きをしたりしていました。

東京の知人と一緒に大阪から来たという女性は「何度来ても新鮮な気持ちになり、いいところです。以前から予約していましたが、旅館から“全国旅行支援を適用できる”と連絡があり、たまたま重なってラッキーでした。今後も予定が合えば支援を使って旅行したいです」と話していました。

出雲市では、旧暦の10月が神々を迎える「神在月(かみありづき)」として観光シーズンにあたることから、商店街の関係者からは、全国旅行支援が始まってさらなるにぎわいを期待する声が聞かれました。

ことし7月から出雲大社周辺で人力車の営業を始めた糸賀太郎さんは、「旅行支援が始まって行動制限もなくなる中、観光客が増えるのはとても喜ばしいです。先週末からの3連休は予約でいっぱいになる日もあり、来週以降も期待できると思います」と話していました。

斉藤国交相が東京駅を視察

「全国旅行支援」は、東京を除く46の道府県は11日から、東京は今月20日からスタートします。これに合わせて斉藤国土交通大臣が11日、東京駅を訪れ、旅行需要の拡大で利用の増加が見込まれる公共交通機関の感染対策などを確認しました。

斉藤大臣は、JR東日本の深澤祐二社長から、新幹線での感染対策について、消毒を繰り返し行っていることや空調設備などを使い車内の空気を数分ごとに入れ替えていることなどの説明を受けました。

全国旅行支援では、一日当たりの割引額が新幹線やバスなどが付いた旅行商品の場合、上限が8000円と宿泊だけの利用よりも3000円高くなっていて公共交通機関の利用促進も期待されています。

斉藤大臣は、視察のあと記者団に対し「換気など、万全の感染対策を行っていることを確認した。公共交通機関を使って安心して旅行を楽しんでほしい」と話していました。

専門家 “旅行先でも感染対策続けて”

厚生労働省の専門家会合のメンバーで東北大学の小坂健教授は、11日から始まった「全国旅行支援」について「旅行する人が増加し、旅先で、大勢で飲食をするなど、リスクの高い行動をとれば、感染が拡大する可能性がある。旅先での感染リスクを減らして、旅行を楽しんでもらうことが必要だ」と指摘しました。

小坂教授は今後、新型コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されることから、
▼旅行前に新型コロナとインフルエンザのワクチン接種を済ませることを推奨したうえで、
▼屋内に大勢の人が集まる場所ではマスクを着用することや、
▼なるべく換気のよい場所で過ごすといった感染のリスクを減らす対策が必要だとしています。

小坂教授は「全国的に感染は減少傾向だが、これから変わってくるおそれもある。旅行先の感染状況を注意深く見ておくほか、旅行前に体調不良を感じたら勇気をもってキャンセルすることも考えてもらいたい」と述べました。

このほか、個人の外国人旅行客の入国解禁など、11日から水際対策が大幅に緩和されたことについて、小坂教授は「海外からの訪日客に日本での感染対策をしっかり伝えるほか、新たな変異株が流入していないかどうか、ウイルスのモニタリング体制も、これまで以上に整える必要がある」と指摘しました。