初めて見つけた!私が自信を持てること

大阪の野球チーム・ビッキーズ。
監督、コーチ、子どもたちのほとんどに聴覚障害があり、みんなが手話でコミュニケーションをとっています。

全国でも珍しいこのチームとの出会いによって、自信を持てることが見つかった女の子がいます。
(大阪放送局ディレクター 高木佑透)

「きこえへんもん!」

ビッキーズのメンバーの西田咲菜(えみな)さん、10歳です。
聴覚に障害があり、補聴器を付けています。
咲菜さんは補聴器をつけると会話することができます。
しかし、聴覚に障害のない聴者と同じように聞こえているわけではありません。

例えば、学校に行くときは「行ってきま」
お母さんが「行ってきま『す』やで」と教えると・・・
「行ってきま『すー』」ととても強調するように。

サ行が聞こえにくく、自分の聞こえている音と自分の発音を一致させるのに苦労しているそうです。

ほかにも「てにをは」などの助詞や、聞きなじみのない単語など、「聞こえる」けど「聞き取れない」こともしばしば。

体を動かすことが好きで、水泳やダンスも習ってきましたが、先生の指示を聞き取れないことも。そんな時は不安げに周りの様子をうかがい、聴こえる子たちに合わせてきました。
なかなか自信を持てず、自分の思いや考えを伝えられないことも多かったといいます。

「きこえへんもん!」
「わからへんもん!」

お母さんに怒ったり、泣いたりすることもありました。

ビッキーズとの出会い

心の底から習い事を楽しむことがなかなかできなかった咲菜さん。
1年ほど前にビッキーズと出会います。

監督、コーチ、子どもたちのほとんどに聴覚障害があり、みんなが手話でコミュニケーションをとっています。
友達の紹介で見学に行ったところ、その帰り道には「グローブを買って!」とお母さんにせがむほどにビッキーズのことを好きになったそうです。

自分がちゃんと聞き取れているのかどうか不安がらなくても良い。
自分の思いも監督や友達に伝えられる。
ビッキーズは、咲菜さんが安心できる場所でした。
咲菜さんの母・未来恵さん
「先生の指示が聞き取れていないと、いつも周りの様子を見て行動せざるを得なくて、いつも一歩行動が遅れてしまう。その不安やもどかしさがビッキーズではないので、楽しいんだと思う」

かつては監督も同じ体験を

ビッキーズの監督は、自身もろう者である早川恭二さんです。
約1年半前に監督に就任し、手話で野球を教えています。

早川さんも、咲菜さんと同じような体験をしたことがありました。
早川さんはろう学校で野球を始めましたが、当時の監督は手話を使えず、言っていることが分かりにくかったそうです。また、手話が使えないため、言いたいことが言えず、もどかしさを感じていました。

しかし卒業後に入ったろう者の社会人野球チームでは、手話でコミュニケーションをとることができました。
監督や仲間同士の間のコミュニケーションがスムーズになり、野球をさらに楽しめるようになったと言います。
2000年にはろう者の野球の日本代表として世界大会にも出場し、今でも野球を続けています。

早川さん
「手話があると本当に気持ちいいです。野球に集中できます。この上ない喜びでした」

考えて手話で話し合って

試合に勝つことを目指す前に、まず野球を楽しんでほしい。
そのためにも手話は欠かせない。

早川さんが監督となってから、ビッキーズのメンバーは4人から16人にまで増えました。
早川さんの指導は子どもたち自身で考え、話し合ってもらうことを大切にしています。

例えばボールを遠くに飛ばすことを目的とした練習でも、最初は遠くに飛ばすコツは教えません。
子どもたちに自分なりに練習してもらったあと、早川さんはみんなに手話で質問します。
「みんなの様子をみて思ったことを説明します。遠くへ飛ばす方法わかる?」

すると、子どもたちも手話で答えます。
「ボールを転がしたほうが遠くに行く」
「この辺で打ったほうが遠くへ飛ぶ」

手話があるから、相手の言葉が分かる。
手話があるから、自分の思いが伝えられる。

「分かる体験」と「伝わる体験」を重ね、子どもたちは自分らしく成長しています。

自信が持てた

ビッキーズへの入団後、咲菜さんに変化が見られるようになりました。
積極的に自分からコミュニケーションをとるようになり、最近ではほかのメンバーに教えてあげることも増えたそうです。
咲菜さんの母・未来恵さん
「野球のやり方を教えてあげるということは、自信がついてきたということなのでは」

咲菜さんの成長はグラウンドの外でも。

家に帰るとグローブの手入れはお母さんに任せず、自分で行います。グローブを柔らかくするために手でよく揉んだあと、お気に入りのヘアバンドを巻くそうです。
さらに、最近は得意なキャッチボールを弟の悠大くんに教えるようになりました。
捕球する時のグローブの向きや、姿勢、そして野球のマナーまで。
自信をもって教えているようです。
撮影クルーのほうにボールが転がり、拾って悠大くんに渡してあげたところ・・・
「ありがとうって言うねん!」
「ありがとう」
悠大くんにお礼を言うように促してくれました。
咲菜さん
(ビッキーズどう?)
「楽しい、分かりやすい。手話とかあるから」

(これからの目標は?)
「ピッチャー、上手になりたい…違う、バッティング」

苦手なバッティングも上手くなりたいと語った咲菜さん。
手話で話せる野球チームは、子ども達の新たな挑戦の舞台にもなっています。

手話を使って遊べる場所を

手話を使って子どもたちがスポーツをしたり、遊びながらコミュニケーションをとったりできる場所は全国でも多くありません。
たとえ、補聴器や、音を電気信号に変えて直接聴神経に伝える人工内耳を付けている人でも、聴者と同じようにはっきりと音を聞き取るのは簡単ではありません。

ろう者にとって手話は大切な言語です。

ビッキーズには、聴覚に障害のある子のきょうだいも新たに参加して、一緒に手話を使いながら野球を楽しんでいるといいます。
聴覚に障害がある人もない人も一緒に手話で話せる社会へ。
NHKには手話を初歩から楽しく学べる「みんなの手話」という番組のほかに、手話を調べられる「NHK手話CG」というホームページもあります。

皆さんも手話について学んでみませんか。

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