過去最大の介入の効果は?懐疑的な“投機筋”も【経済コラム】

9月22日、加速する円安に対し、政府・日銀がついに動きました。実に24年ぶりとなるドル売り円買いの市場介入。円相場は一時、円高方向に大きく値を戻しましたが、再び円安が進む事態となっています。「投機による過度な変動は決して見過ごすことはできない」。この政府・日銀のメッセージを市場はどう受け止めたのか、取材しました。(経済部記者 真方健太朗)

過去最大規模の円買い介入

まずは注目されていた市場介入の規模についてのデータから。

財務省が30日に公表したところによると9月に実施した市場介入の総額は2兆8382億円にのぼりました。

1か月間に行ったドル売り円買いの市場介入の額としては、24年前の1998年4月に行った介入の額、2兆8158億円を上回り、過去最大となりました。

介入の直後、円相場は5円以上値上がりし、一時、1ドル=140円台前半まで円高が進みました。

しかし、その後は再び円が売られ、144円台後半まで値を戻しました。

市場の受け止めは?

今回の介入について市場関係者の評価は分かれています。

「市場への警告になった」「介入がなければ1ドル=146円、147円と急ピッチで円安が進んだ可能性がある」とそれなりの効果はあったという受け止めがある一方、「巨額の資金をかけた割には効果が長もちしなかった」「日米の金利差が拡大する中では円安の流れは変わらない」などと効果を疑問視する声も相次ぎました。

政府・日銀が意識する「投機筋」とは

ところで市場介入にあたって政府・日銀が注目していたのは「投機筋」の動きでした。

鈴木財務大臣は、介入にふみきった9月22日の記者会見で、「投機による過度な変動は決して見過すことはできない」と強い口調で警告。
財務省の神田財務官も「ファンダメンタルズ=経済の基礎的条件から外れた投機的な問題だった場合は是正する必要がある」と今回の市場介入を正当化しました。

同じ日、日銀の黒田総裁は、「円安が進んできたことは、一方的であり、投機的な要因もあるのではないかと考える」と述べています。

このように政府・日銀が円安を主導するプレーヤーとして名指しする「投機筋」。

そもそも「投機筋」「投機的」とは何を意味しているのか。

当局者の1人は、「市場で大量の資金を動かし、短期的な売買を繰り返して利ざやを稼ごうとする投資家のことで、具体的には海外のヘッジファンドなどが想定されている」と答えました。

ヨーロッパのヘッジファンドが答える

それでは今回の市場介入は、政府・日銀が意識する投機筋をけん制する効果があったのか。

私は「投機筋」とされるプレーヤーの考え方を直接聞きたいと考え、国内外の複数のヘッジファンドに取材を申し込みました。

このうちのほとんどが「コメントできない」と回答。

そんな中、ヨーロッパのヘッジファンドの担当者が取材に応じ、次のように答えました。

「市場介入はまったく評価していない。アメリカの金利が下がらない限り、円安の流れは変わらないだろう。日本政府は、ドルの外貨準備を急速に枯渇させ、効果がほとんどないことに気付くまで介入を続けるだろう」

政府・日銀はさらなる介入も辞さない構えですが、このヘッジファンドは仮に第2、第3の市場介入があっても円安を食い止める効果はないとあくまで強気です。

次の市場介入のタイミングは?

そもそも市場は次の介入のタイミングをどうみているのか。

今回、国内のアナリスト10人に話を聞きましたが、このうちの6人は、1ドル=145円が事実上の防衛ラインとして意識されているとみています。

確かに市場介入以降、じりじりと円安が進みましたが、介入への警戒感からか、1ドル=144円台の後半でとどまっています。

一方、10人のアナリスト全員が口をそろえるのが円安が進むスピードの問題です。

1ドル=145円を超えて円安が進み、1日の変動幅が「2円、3円」にのぼる場合には市場介入の可能性は十分あるというのが多くの市場関係者の見方です。

投機筋の関心はどこにあるのか

ただ、多くのアナリストは、ヘッジファンドなど「投機筋」のいまの関心は、日本よりむしろイギリスに向いているとも指摘します。

イギリスでは、トラス政権が大型減税を柱とする経済対策を打ち出しましたが、巨額の国債増発を表明したことから財政悪化への懸念が広がり、国債の価格が下落。
利回りが急激に上昇しました。
また、通貨ポンドもドルに対して急落し、一時、1972年の変動相場制に移行した後の最安値を記録しました。

その背景に「投機筋」がどこまで影響しているのかは定かではありませんが、アナリストの1人は「国の政策に矛盾がないか、国力に弱点が見られないかを虎視眈眈(こしたんたん)とうかがい、そこにねらいをつけるのが投機筋のやり方だ」と話していました。

先ほど紹介したヨーロッパのヘッジファンドは、「日本が巨額の債務を抱えている現実は、日本が急速に危険な状況に陥る可能性があることを意味している」とも指摘します。

政府・日銀は、為替レートは経済のファンダメンタルズ=基礎的条件を反映して安定的に推移することが望ましいと繰り返し主張していますが、まさにそのファンダメンタルズが揺らいで市場に弱点を突かれることがないのか、日本経済を形づくる条件に加え、政府・日銀の今後の政策も含めてしっかり見ていきたいと思います。
来週は、3日に日銀の短観=企業短期経済観測調査が公表されます。

民間のシンクタンクなどの予想では、大企業・製造業の景気判断は改善するとの意見が多い一方、新型コロナの第7波の影響などで大企業の非製造業の景気判断は悪化するとの見方も出ています。

また7日に発表されるアメリカの雇用統計にも注目です。

アメリカの金融引き締めが長期化し、景気がさらに減速するのではないかという懸念も出ていますので、こうしたアメリカの経済統計の結果に市場は注目しています。