新型コロナ“感染者の全数把握簡略化”きょうから全国一律開始

新型コロナ感染者の全数把握を簡略化し、詳しい報告の対象を重症化リスクが高い人に限定する運用が、26日から全国一律で始まります。軽症者が重症化した場合に、速やかに医療機関で受診できる体制を整えられるかが課題となります。

政府は、新型コロナ対応にあたる医療機関などの負担を減らすため、今月2日から都道府県の判断で、感染者に関する報告を簡略化できる運用を始めました。

具体的には、詳しい報告の対象を、65歳以上、入院が必要な人、妊娠中の女性など重症化のリスクが高い人に限定し、これ以外の人は、年代と総数の報告のみとしています。

この運用は、すでに9つの県で導入されていて、26日から全国一律で始まります。先行導入した県からは、現場の負担が軽くなったという声が出ている一方で、医師会などからは詳しい報告を求めない軽症者が重症化した場合に、速やかに受診できる体制を整える必要があるという指摘が出ています。

政府は都道府県に対し、軽症者の症状が急変した時に健康フォローアップセンターなどを通じて適切に対応できる体制を作ることや、これまでどおり軽症者にも一定期間の外出の自粛を求めることを要請していて、その実効性が課題となります。

全数把握の簡略化 課題は

全数把握の簡略化はオミクロン株の感染が拡大する中医療機関の負担を軽減し、高齢者など重症化リスクの高い人に重点的に医療を提供する目的で導入されました。

これまで医療機関は「HER-SYS」(ハーシス)と呼ばれるシステムで、すべての患者の名前や発症日、連絡先などを保健所に報告していましたが、今後は65歳以上の高齢者や入院が必要な人などに限定されることになります。

詳しい報告の対象外の人も年代と総数が報告できるよう「HER-SYS」が改修され、感染者の総数の把握も継続されます。

簡略化の導入にあたっては、抗原検査キットのインターネット販売の解禁や、都道府県が設置する健康フォローアップセンター、オミクロン株対応のワクチン接種など、詳しい報告の対象外の人が安心して自宅で療養できる体制を整備したほか、今後の感染拡大への備えを強化したとしています。

そのうえで詳しい報告の対象外で症状がない人や軽い人については自分で検査を行って陽性だった場合は、健康フォローアップセンターに登録することで、医療機関を受診せずに療養を開始することができるようにしました。

また、希望する場合は宿泊療養や配食などの支援を受けることができるほか、自宅で療養中に症状が悪化した場合には健康フォローアップセンターが連絡や相談を受け付け、医療機関につなぎます。

ただ、これまでのように保健所による健康観察ができなくなるため、▽症状が悪化した際に医療機関の紹介などを迅速に行えるよう健康フォローアップセンターの連絡先などを周知することや▽外出自粛の要請など感染対策をどう呼びかけるかが今後の課題となります。

また厚生労働省は詳しい報告対象が限定されることで、今後、クラスターの把握が困難になるとしていて、高齢者施設などでは引き続き拡大防止に向けた取り組みを行うよう各都道府県に求められます。

国の一連の政策は

国は新型コロナウイルスの特性の変化やワクチン接種の進捗(しんちょく)に応じて、症状がない人などの自宅療養への転換や、国民の行動制限や経済活動の制限を見直すなど状況に応じて、政策を展開してきました。

この中で、オミクロン株については、▽若者は重症化リスクが低いことや▽感染の中心が飲食店から高齢者施設や学校などの施設や家庭内感染へと変わってきたことから、新たな行動制限を行わず、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図る方針に転換しました。

そのうえで▽オミクロン株に対応したワクチン接種が開始されたことや▽海外で社会・経済活動の正常化の動きが進んでいることなどを踏まえ、今回、▽感染者の全数把握を簡略化して高齢者など重症化リスクのある人に医療の重点をおくほか、▽患者の療養期間の見直しや▽水際対策の緩和などを行い、新型コロナ対策の新たな段階への移行を表明しました。

国は今後、感染拡大が生じても、保健医療を機能させながら社会経済活動を維持できるようにするとしていて、今後の世界的な感染の動向を踏まえ専門家の意見も参考にさらにウイズコロナに向けた感染対策の在り方について引き続き検討していくとしています。

専門家「医療体制維持のための1つの転換点」

感染症対策に詳しい国際医療福祉大学の松本哲哉主任教授は新型コロナ感染者の全数把握が全国一律で簡略化されたことついて、「今回の変更はインフルエンザとの同時流行など今後、感染拡大が起きても医療体制を維持していくための1つの転換点だ。以前と違う方法で新型コロナウイルスと向き合うことになるため、コロナについての社会のとらえ方も変わってきている状況にあるといえる」と評価しています。

そのうえで、今後の課題について「陽性となった場合は自宅で一定期間療養することなど、患者自身が責任を持って対応しなければならないことを国や自治体は周知する必要がある。また、今後どういうふうな道筋でコロナへの対応策を変えていくのかを国民に対して分かりやすく説明しながら進めていくことが求められる」と指摘しています。