【詳しく】コロナ 全数把握見直し 4県で始まる どんな変化が?

新型コロナ感染者の全数把握を見直し、詳しい報告の対象を高齢者などに限定する運用が2日から4つの県で始まりました。政府はいずれは原則、全国一律の運用に移行する方針で、今後の感染状況を見極めながら移行の時期を判断することにしています。

4県ではどのように運用が変わったのか? 詳しくまとめます。

2日から運用の見直しを始めたのは、宮城、茨城、鳥取、佐賀の4つの県です。このうち仙台市宮城野区にある耳鼻科の草刈千賀志 院長は患者情報の報告が大幅に減り、入力の負担が軽減されたと歓迎しました。

一方で、報告の対象外の人が自宅療養中に体調が悪化するおそれもあり、現場の医師が今後の対応について丁寧に説明する必要があるとしています。

草刈院長は「事務作業が減ってそういう意味ではよくなった。しかし、患者さんがいざというとき、きちんと医療機関につながるよう説明し、患者が重症化して亡くなるということがないようにしなければならず、現場の責任は重くなった」と話していました。

全数把握 何がどう変わる?

都道府県ごとに毎日公表されている新型コロナの新規感染者数。

その「全数把握」は医療機関が作成した患者の「発生届」をもとに行われています。感染症法は、新型コロナウイルスを診断した医師に対し、すべての患者の氏名や年齢、連絡先などの情報を「発生届」として保健所に提出するよう義務づけています。
国や自治体は「発生届」を集計して全国や地域ごとの感染状況を把握してきたほか、保健所などが「発生届」をもとに健康観察や入院先の調整を行っています。

「発生届」の提出は国が導入した「HER-SYS」と呼ばれるシステムを使用して行われますが「第7波」で感染者が急増し、入力や確認の作業が医療機関や保健所の業務負担となっていました。
今回の見直しでは、自治体の判断で「発生届」が必要とする対象を、高齢者や重症化リスクが高い人などに限定できるようにし、若者など対象外となった人については感染者の総数と年代別の人数を把握するとしています。

感染者数の集計は続けられることになるため、感染状況は引き続き把握できます。一方で、「発生届」の対象外の人が自宅療養中に体調が悪化しても気づきにくくなるなどの懸念もあります。

医療機関 “負担減る”と評価の声

全数把握の見直しが始まった鳥取市内の小児科のクリニックでは、2日も朝から発熱などを訴える子どもが次々に受診し、新型コロナの抗原検査を受けていました。

これまでこのクリニックでは、医師のメモをもとに事務員が「HERーSYS」に患者1人につき5分ほどかけて入力していました。多いときには1日10人前後の届け出をしていましたが、全数把握の見直しでほとんどの患者について入力の必要がなくなる見込みです。

クリニックの大谷英之 医師は「保健所も含め全体的な医療システムの負担は減っていくのではないか」と評価しています。

その一方で大谷医師は「保健所のフォローがなくなる重症化リスクが低い人でも、急に脱水症状になったりけいれんが起きたりすることがある。本当に適切な時期に医療機関の治療が受けられるのか心配だ」と指摘し、かかりつけの患者については、毎日電話で健康状態を確認するなどクリニックとして新たな対応を行っていくとしました。

帰宅が深夜になっていた佐賀の病院は

佐賀市の志田内科では、発熱外来は予約制ですが、多いときには1日におよそ15人を診察してきました。通常の診療や新型コロナのワクチン接種も平行して行っていることから、休憩時間を削るなどしても帰宅は午後11時を過ぎることがあったということです。

病院では、全数把握が見直されたことで発生届の提出はこれまでの2割程度まで減少するとみています。
志田内科の志田正典 院長は「今回の見直しで入力作業が簡素化され、かかる時間は短くなる。特に発生届を多く出している規模の大きな病院は負担が減る効果が大きいだろう」と話し、見直しを歓迎しました。

一方で、発生届の対象外となる重症化リスクの低い感染者については「急に容体が悪くなった場合の対応が難しくなる。そうしたケースに備えるため、陽性になった患者はなるべく県の陽性者登録センターに登録して健康管理を受けることをおすすめしたい」と話していました。

茨城 南部の保健所 入力作業が4分の1に

茨城県南部の9つの市町村を管轄する竜ケ崎保健所では、医療機関から提出される「発生届」が、8月は1日あたり200件から多いときで900件ほどに上ったということです。

また、このうち3分の1は発生届がファックスで届き、保健所の職員らがおよそ20人がかりで国の「HERーSYS」に患者の詳しい情報を入力していたということです。

2日にこの保健所に午後4時の時点で届いた発生届は110件で、このうちファックスで届いたのは30件ほどにとどまりました。入力作業もこれまでの4分の1の5人で対応できているということです。

保健所では、削減できた人員を高齢者など重症化リスクが高い人への対応に充てていくことにしています。

竜ケ崎保健所の石田久美子所長は「入力のために費やす人手や時間は非常に大きいものがあった。連日、高齢者施設などからクラスターが発生したという報告があるが、十分な対応が取れずにいたので、今後は重症化リスクが高い人に重点的に対応できると思っている」と話していました。

発生届 対象外の感染者 対応窓口も

全数把握の見直しに伴って、鳥取県は発生届の対象外となった感染者の対応に当たる「陽性者コンタクトセンター」の運用を2日から始めました。

鳥取県の新たな方式では、発生届の対象外となった感染者には、スマートフォンやパソコンから「My HER-SYS」というシステムに名前や住所、発症日などの情報を登録したうえで、体温や体調なども定期的に入力してもらい、コンタクトセンターが健康観察を行います。そして、症状が悪化した時には受診可能な医療機関を案内することにしています。

センターは総勢100人程度の態勢で、県庁の会議室などで分散して業務に当たることになっています。

鳥取県新型コロナ対策本部事務局の西尾浩一局長は、「鳥取県では、発生届の対象外となる人の病状にも目を行き届かせることでこれまで通りフォローアップを続け、誰1人取り残すことのない体制を整えていきたい」と話していました。

見直しの申請 4県以外からも

全数把握の見直しの申請は、2日に2回目の締め切りとなりました。
NHKのまとめで、新たに三重県と長崎県が申請したことがわかりました。新たに申請を行った理由について三重県は「医療機関の負担を軽減するため」、長崎県は「医療のひっ迫を回避し、重症者に対する診療により専念できるため」などとしています。

政府は、いずれは全国一律の運用に移行する方針で、必要となるシステムの改修を今月中にも終えられるよう作業を急いでいます。そして、夏休みが終わって学校が再開されたあとの感染状況を見極めながら専門家の意見も踏まえて、移行の時期を判断することにしています。

一方で、一律の運用に移行したあとも、全数把握を続けたいという自治体については、例外的に認めることも検討しています。

今後 「定点把握」試験導入も

新型コロナ感染者の全数把握の見直しをめぐり、厚生労働省は、事前に指定した医療機関からだけ感染者について報告してもらう「定点把握」を、ことし秋にも一部の自治体で試行的に導入することになりました。

厚生労働省は、自治体で試行した結果を検証しながら、「定点把握」の精度の向上に向け、検討を進めていくということです。

厚生労働省幹部は「今はその時期ではないが、新型コロナの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同じに引き下げる時には、全面的に『定点把握』に移すかどうか議論しないといけない。今のうちから研究しておかなければならない」としています。