
真夏の夜の夢?なぜ海外マネーが日本に【経済コラム】
日本のマーケットで存在感を増している海外投資家。その動きがときに投資家の方向性を大きく左右します。7月に海外勢が投資先として目を向けたのが日本国債と日本株。このうち長期国債の買い越し額は過去最大となりました。なぜマネーは日本に向かったのか取材しました。(経済部記者 古市啓一朗)
海外勢の日本国債の買い越し額が過去最大に
日本証券業協会が8月22日に発表した7月の国債売買高では、海外投資家が日本国債を大きく買い越していたことがわかりました。

買い越し額は実に5兆3582億円。データがある2004年以降では最大です。
国債市場では、この前月の6月、海外投資家と日銀との激しい攻防がありました。
世界的な物価上昇が続く中、日銀も欧米の中央銀行のように政策変更を余儀なくされるのではないか、こうした思惑から海外投資家が日本国債を売り浴びせ、一時、日銀が示す長期金利の上限を超える事態となったのです。
これに対し、日銀は国債を無制限に買い入れる「指値オペ」で応戦。1か月間に買い入れた長期国債は16兆円を超え、前の月の2倍を上回る空前の規模となりました。
国債市場では、この前月の6月、海外投資家と日銀との激しい攻防がありました。
世界的な物価上昇が続く中、日銀も欧米の中央銀行のように政策変更を余儀なくされるのではないか、こうした思惑から海外投資家が日本国債を売り浴びせ、一時、日銀が示す長期金利の上限を超える事態となったのです。
これに対し、日銀は国債を無制限に買い入れる「指値オペ」で応戦。1か月間に買い入れた長期国債は16兆円を超え、前の月の2倍を上回る空前の規模となりました。
指値オペって、なに?

6月の攻防戦のあと海外投資家は一転して投資スタンスを変え、日本国債を買う姿勢を強めたことになります。
この結果、6月17日に一時、0.265%まで上昇した長期金利は7月下旬には一時、0.175%まで低下しました。
いまや日本の長期国債の市場で海外投資家の売買シェアは2割近くとなり、その存在感は高まる一方です。
この結果、6月17日に一時、0.265%まで上昇した長期金利は7月下旬には一時、0.175%まで低下しました。
いまや日本の長期国債の市場で海外投資家の売買シェアは2割近くとなり、その存在感は高まる一方です。
日本株も買い越し 日経平均株価上昇
続いて海外投資家の売買シェアが7割にのぼる株式市場ですが、東証が発表した7月の売買動向を見ると、海外投資家は、現物、先物の合計で1兆7388億円の買い越しとなりました。

部門別では最大の買い手となっています。
日経平均株価は7月の1か月間で1400円余り上昇しており、海外勢が、この間の株価の上昇を支えたことがわかります。
日経平均株価は7月の1か月間で1400円余り上昇しており、海外勢が、この間の株価の上昇を支えたことがわかります。
理由はアメリカからの波及
これまでのマーケット取材では、日本国債は投資家がリスクを避けるときの投資先として、一方、日本株はリスクをとって投資する対象として取り引きされていたという印象がありました。
それではなぜ海外投資家は7月に日本国債と日本株を同時に買い進めたのか。
市場関係者に聞いたところ、アメリカの景気減速とインフレのピークアウトを見込む投資家が増え、FRB=連邦準備制度理事会の利上げペース鈍化という観測が広がったこと、複数の人がこのことを理由にあげました。
この間、アメリカでは、4ー6月のGDP=国内総生産の伸び率が2期連続のマイナスとなるなど景気減速を示唆する経済指標の発表が相次ぎましたが、利上げのペースが緩められるのではないかという期待から株価は上昇。
これが日本にも波及し、海外投資家は日本株を買う姿勢を強めたとみられています。
一方、アメリカの金融政策に対する見方の変化は長期金利の低下を招き、これに連動する形で日本の金利への下押し圧力も強まりました。これが海外勢が日本国債に回帰する動きにつながったとみられています。
それではなぜ海外投資家は7月に日本国債と日本株を同時に買い進めたのか。
市場関係者に聞いたところ、アメリカの景気減速とインフレのピークアウトを見込む投資家が増え、FRB=連邦準備制度理事会の利上げペース鈍化という観測が広がったこと、複数の人がこのことを理由にあげました。
この間、アメリカでは、4ー6月のGDP=国内総生産の伸び率が2期連続のマイナスとなるなど景気減速を示唆する経済指標の発表が相次ぎましたが、利上げのペースが緩められるのではないかという期待から株価は上昇。
これが日本にも波及し、海外投資家は日本株を買う姿勢を強めたとみられています。
一方、アメリカの金融政策に対する見方の変化は長期金利の低下を招き、これに連動する形で日本の金利への下押し圧力も強まりました。これが海外勢が日本国債に回帰する動きにつながったとみられています。
“周回遅れ”の日本に脚光?
もう1つ興味深い理由をあげた市場関係者もいました。
欧米ではいち早くウィズコロナへとかじを切り、経済活動の正常化が急ピッチで進んできましたが、日本でも今後、水際対策の緩和などによって経済の正常化が一段と進展するのではないか。
欧米ではいち早くウィズコロナへとかじを切り、経済活動の正常化が急ピッチで進んできましたが、日本でも今後、水際対策の緩和などによって経済の正常化が一段と進展するのではないか。

こうした期待が高まったことで海外投資家が日本の資産を買う姿勢を強めたのではないかという見方です。
この市場関係者は「海外投資家がいわば“周回遅れ”の状況にある日本に注目し、伸びしろの大きさに期待したのではないか」と分析します。
別の市場関係者からは、「アメリカや中国の景気減速によって原材料価格が低下すれば、原材料を調達しやすくなり、日本経済にとってプラスに働く可能性もある」という見方もでていました。
この市場関係者は「海外投資家がいわば“周回遅れ”の状況にある日本に注目し、伸びしろの大きさに期待したのではないか」と分析します。
別の市場関係者からは、「アメリカや中国の景気減速によって原材料価格が低下すれば、原材料を調達しやすくなり、日本経済にとってプラスに働く可能性もある」という見方もでていました。
真夏の夜の夢となるのか?
ただ、8月の下旬になってこうした楽観的な見方は後退しているようにも見えます。
アメリカの金融引き締めが加速するのではないかという警戒感は根強く、日本の株式市場、国債市場とも方向感が見えにくい展開となっています。
「海外勢の日本への期待が相対的に高まっているといっても結局はアメリカの金融政策に左右されるという構図に変わりはないのではないか」「世界経済の減速懸念が強まる中で、7月に海外勢のマネーが日本に向かったのは、“真夏の夜の夢”のようなものだ」
市場関係者からはこうした声も聞こえてきます。
海外投資家が今後どこに向かうのか?その行方を注意深く見ることで日本のマーケットの方向性を探っていきたいと思います。
アメリカの金融引き締めが加速するのではないかという警戒感は根強く、日本の株式市場、国債市場とも方向感が見えにくい展開となっています。
「海外勢の日本への期待が相対的に高まっているといっても結局はアメリカの金融政策に左右されるという構図に変わりはないのではないか」「世界経済の減速懸念が強まる中で、7月に海外勢のマネーが日本に向かったのは、“真夏の夜の夢”のようなものだ」
市場関係者からはこうした声も聞こえてきます。
海外投資家が今後どこに向かうのか?その行方を注意深く見ることで日本のマーケットの方向性を探っていきたいと思います。
注目予定

まず注目されるのは、29日以降の金融市場の動きです。
26日からアメリカのワイオミング州でジャクソンホール会議が開催されますが、FRBのパウエル議長の講演で今後の金融引き締めのペースについてどのような言及があるのか、世界の市場関係者が注目しています。
週の後半にかけては、アメリカで重要な経済指標の発表が相次ぎます。製造業の景況感を示す指数や、雇用統計の内容が注目されます。
26日からアメリカのワイオミング州でジャクソンホール会議が開催されますが、FRBのパウエル議長の講演で今後の金融引き締めのペースについてどのような言及があるのか、世界の市場関係者が注目しています。
週の後半にかけては、アメリカで重要な経済指標の発表が相次ぎます。製造業の景況感を示す指数や、雇用統計の内容が注目されます。