軍事侵攻半年で“ウクライナ疲れ”も? 各国の対応に変化は?

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で半年となりましたが、現地での戦闘は、長期化する様相と緊迫の度合いが強まっています。

ウクライナやロシアの現状や各国の支援をめぐる対応などについてのほか、「ウクライナ疲れ」とも指摘されている、現地への関心の低下についてもまとめました。

【現地での戦闘は】

●ウクライナ軍は反転攻勢強める

ロシアが軍事侵攻を続けているウクライナでは、東部では戦況はこう着していますが、ヘルソン州など南部では、ウクライナ軍が欧米から支援された兵器を効果的に活用してロシア軍の弾薬庫や補給路を破壊するなど、反転攻勢を強めています。
今月に入ると、ロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアのロシア軍基地で爆発が起き、黒海艦隊の航空部隊が打撃を受けるなど、戦線はクリミアにまで拡大しているもようです。

●ロシア軍 深刻な兵員不足指摘も地方から新たに派遣か

一方のロシアは、ウクライナ軍の施設だけでなく、市街地へのミサイル攻撃も続けるとともに、掌握している南東部にあるザポリージャ原子力発電所を盾にして攻撃を激化させているともみられています。
ロシア軍は、深刻な兵員不足が指摘されていますが、プーチン政権は、国民の強い反発が予想される総動員は避けながら、ロシアの地方などで兵士を募集して戦地への派遣を進めているとされています。また、ロシア側は、掌握したとする東部や南部ヘルソン州、南東部ザポリージャ州などで支配の既成事実化を強め、早ければ、ロシアの地方選挙が行われる来月にも将来の併合をにらんで住民投票を実施する準備を進めているとみられます。

●ロシアでは依然「軍事作戦に高い支持」か

独立系の世論調査機関レバダセンターは、先月下旬ロシア国内の1600人余りを対象に対面形式で調査を行いました。それによりますと、「ロシア軍の行動を支持するか」という質問に対して「明確に支持する」「どちらかといえば支持する」が合わせて76%で、ことし3月と比べて5ポイント下がったものの、依然として高い支持を保っています。

NHKの取材に対し、調査を行った独立系世論調査機関のレバダセンターのデニス・ボルコフ所長は、プーチン政権による軍事作戦への支持が依然として76%と高い支持を保っている背景については「無条件の支持は45%程度で、30%ほどは留保付きで支持するグループだ。作戦は必要なかったかもしれないと答える一方で、大統領が決定を下した以上、支持しなければならないという考えだ。留保付きの支持のうち10%程度は、作戦への反対を打ち明けることを恐れているのだろう」と分析しています。
そして「社会の安定こそがこの先も特別軍事作戦を継続させることにつながる」と述べ、プーチン政権としては、軍事作戦の継続のためにも社会の秩序と安定の維持に懸命になっていると指摘しました。

【対ロシア制裁】 効果に懐疑的な見方も

フランス国際関係戦略研究所のパスカル・ボニファス所長は、欧米などによる制裁は「ロシアの経済成長や社会のダイナミズムに大きな打撃を与える」としています。
ただ「最大の欠陥は、制裁に参加しているのが、日本やオーストラリアなど欧米の同盟国にとどまっていることだ。アフリカやラテンアメリカ、アジア諸国などは制裁に加わっておらず、ロシアの政策に変更を促すほどのインパクトがないのは明らかだ」と述べました。さらに「歴史を振り返っても国の死活的な利益がかかっている場合に他国による制裁がその国の政策を変えたことはない」という見通しを示しました。
ボニファス所長は、ロシアよりも、制裁を加えているヨーロッパ諸国の方がはるかに大きな影響を受けるだろうとしたうえで、「今のところ欧米の世論がプーチン大統領に屈する様子はないが、早晩、本当に制裁を続けるべきかどうかという意見が出てくる可能性はある」と述べました。

またロシアの外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏はNHKの取材に対し、プーチン大統領は、軍事侵攻の長期化に伴って欧米と完全に決別する方向にかじを切り、中国やインドなど、非欧米諸国との関係強化に軸足を移しているという見方を示しました。そのうえで経済制裁の影響については「短期的な影響は、予想以上に小さかった」と主張しながらも、今後については「経済全体の大規模な立て直しが求められる深刻な危機を迎える」と危機感を表していました。

【各国の動きは】

●アメリカ 軍事支援総額99億ドル=約1兆3000億円

バイデン政権はロシアを過度に刺激してアメリカとの衝突につながらないよう、供与する兵器を慎重に選びながら戦況に合わせて軍事支援を行ってきました。

侵攻開始当初は対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」など、兵士が1人で持ち運べる機動性を兼ね備えた兵器を供与し、首都キーウ近郊などで活用されました。
その後、ロシア軍がウクライナ東部に作戦の重点を移したのに合わせて建物などの障害物が少ない開けた場所での大規模な砲撃戦に対応できるよう長距離から攻撃できる兵器を供与しています。▼ことし4月からは大口径の砲弾を敵の陣地などに撃ち込むりゅう弾砲を、▼6月からは射程がさらに長く、精密な攻撃が可能だとされる高機動ロケット砲システム=ハイマースを送っています。
さらに、欧米のメディアは23日、アメリカがウクライナに対し近くおよそ30億ドル日本円にして4000億円余りの追加の軍事支援を発表すると伝え、半年前に侵攻が始まって以降、1度の支援額としては最大になる見通しです。

●欧州各国 支援かロシアとの対話か 違い浮き彫りに

ロシアと地理的にも近いバルト3国やポーランドではウクライナと同様に軍事的な脅威にさらされる危険性があるとの警戒感が根強く、ロシアへのエネルギー依存からの脱却を急ピッチで進めてきたこともあり、ウクライナへの軍事的支援を継続して徹底抗戦で臨むべきだという立場です。
一方、ロシアにエネルギーの多くを依存するドイツやイタリアは、ロシアからの天然ガスの供給が大幅に減って国民生活にも影響が出ていることを踏まえ、ロシアに対して強硬姿勢で臨むだけでは事態を打開できないといった国内世論を背景に難しい立場に立たされています。

またフランスのマクロン大統領は今月20日にもプーチン大統領と電話会談を行うなど、ロシアとの対話を重視する姿勢を崩していません。
ヨーロッパでは、ロシアに対して対立姿勢を鮮明にする国と対話での解決を模索する国との間で立場の違いが浮き彫りになっていて、今後、各国がウクライナへの支援で結束していけるのか見通せない状況になっています。

●中国 一貫して“ロシア寄り”

中国がロシアとの関係を重視する背景には、アメリカに長期的に対抗していくためにもロシアとの連携強化は有益だと考えていることがあります。
経済面で、中国は、ロシアとの間でこれまでどおり貿易を続ける考えを示していて、ロシアからのエネルギーの輸入増加が続いています。中国が先月、ロシアから輸入した原油の量は去年の同じ月と比べて7.6%、LNG=液化天然ガスの輸入量は20.1%それぞれ上回り、いずれも4か月連続で増加しました。
一方、軍事面では、ことし5月、両国の空軍が日本海や東シナ海の上空で合同パトロールを行ったほか、今月下旬から来月上旬にかけてロシア極東で実施される大規模な軍事演習に中国軍が参加すると発表するなど軍事的な結び付きを深めています。
しかし中国は、欧米などからみずからが制裁を受けるような事態は避けたいとみられ、ロシアに対する軍事的な支援などには慎重な姿勢です。中国は、5年に1度の共産党大会を控え、習近平国家主席が党トップとして異例の続投を見据える中、停戦に向けた仲介に乗り出してリスクを負うことには消極的とみられます。

【国外避難の状況は】

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ウクライナから国外に避難した人の数は、今月16日の時点でおよそ1115万人に上ります。
主な避難先は▼ポーランドがおよそ543万人▼ハンガリーがおよそ118万人▼ルーマニアがおよそ104万人▼スロバキアがおよそ69万人▼モルドバがおよそ57万人などとなっています。
また、ロシアに避難した人はおよそ219万人となっています。

日本の出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難した人は8月21日時点で1775人となっています。

●隣国ポーランドでは

このうち隣国のポーランドでは、今も120万以上の人がポーランドに滞在しているとみられています。
ただ、NHKが8月15日、ポーランドとウクライナの国境の様子を取材したところ、いまも避難してくるウクライナの市民はいましたが、当初のように国境付近が避難者で混み合う様子は見られず、支援活動の拠点となっていたテントも多くが撤去されるなどしていました。
ポーランドの首都ワルシャワには、3月初めから避難者に食事を提供しているテントが今もありましたが、軍事侵攻から半年が経過する中で、活動を支えてきた個人や企業などからの寄付は、減っているといいます。当初は、多い時で300人分用意できた食事もこの日は、25人分しか作れませんでした。
また、企業などから寄付された食品や衣服を避難者に提供してきた別の団体も、資金不足でこの取り組みを6月に打ち切りました。団体のメンバーは「人々は、今も物資や支援者を必要としています。ただ、私たちもボランティアでやっているので 支援を受けなければ活動は続けられません」と話していました。
ポーランド政府は、ウクライナからの避難者に一時金を支給したほか、避難者を受け入れた家庭や団体には資金面で支援することで避難者の滞在先を確保しようとしてきました。しかし、今では「人道的な支援」から避難者の「自立を目指す支援」に力点を置く方針に変わっています。ただ、避難生活を続ける人たちの中には、自立が容易ではない人も少なくありません。

●現地で支援のNGOへの寄付落ち込みも

自然災害や紛争などの被害にあった人を支援している国際NGOの「アドラ・ジャパン」は、軍事侵攻が始まった2月24日の翌日から募金を受け付け、ウクライナの人たちに生活必需品を送るなどの支援を続けています。
3月には、募金やチャリティーグッズの販売などを通じて日本国内で19万5000件余り、金額にしておよそ4億8000万円の寄付が集まり、4月から6月にかけても月に1500件から4700件ほどの寄付が寄せられたということです。
しかし、先月は870件、今月もこれまでに880件余りと、3月の1%以下にまで落ち込み、NGOは、侵攻が長期化するなか、日本での関心が低下しているおそれがあるとしています。
一方で現地では今も日用品や医療品などが不足し、今後は冬に備えて衣服なども必要になるため、継続的な支援が必要だと訴えています。
「アドラ・ジャパン」の杉本亜季さんは「1人ができることは小さくても集まれば大きな支援につながるので、関心を持ち続けてもらい、できる範囲で行動を起こしてほしい」と話しています。

【「ウクライナ疲れ」指摘の中で今後の見通しは】

支援を含めた関心の低下は「ウクライナ疲れ」とも呼ばれています。
23日にはゼレンスキー大統領も言及し“その状態になるなら世界は破滅する”として支援継続を強く訴えました。

国際関係が専門でアメリカのジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授は「バイデン大統領はロシアの軍事侵攻への対応をめぐって国民の強力な支持を得てきたが、国民の間には『ウクライナ疲れ』の兆しが見える」と述べ、軍事侵攻の長期化がガソリン価格の上昇など国民生活に影響し、ウクライナ支援への関心が低下する兆しがあると分析しました。
そのうえで今後のバイデン政権の対応については「戦闘の終結を最優先し、ウクライナへの武器の供与を停戦や領土をめぐる交渉に向けた外交戦略と結び付けることが重要だ」と指摘しています。

「関心持ち続けて」日本に避難している人たちの思い

ウクライナへの関心の低下は、日本に避難した人たちも感じとっています。しかし取材に応じてくれた人たちからは今後の平和のために日本を含めた世界の人たちにも関心を持ち続けてほしいと願う声が聞かれました。
京都市に避難しているマルハリタ・ニクリナさん(18)は「ことしのうちに終わるとは思いません。激しい戦闘がずっと続いているからです。もし戦いが続いていることが忘れられたら、戦闘は止まることはありません。それだけはあってはならないと思います」と話していました。
鹿児島県に避難しているカテリナ・ヴォズニュクさん(20)は「ウクライナに関するニュースは以前に比べて減りましたし、人々の話題にも上らなくなくなっていることはとても悲しいです。関心が薄れていくことはしかたのないこととはわかっています。でも、ウクライナのことにもっと声を上げてほしいし、支援してほしいです。ウクライナの人たちに平和が訪れることを祈っています」と話していました。