“ロシア軍 戦闘拒否の兵士を拘束し虐待” 兵士が告発

ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍が、ウクライナ側の徹底抗戦に苦戦し、ロシア側でも多くの死傷者が出ていると伝えられる中、戦闘を拒否した自国の兵士を不当に拘束し、強制的に戦場に戻そうと虐待を加えている実態が、兵士の告発などから明らかになってきました。

NHKは、ロシア軍による虐待を受けたと主張する20代の兵士の告発文書を入手しました。

それによりますと、この兵士は、北方領土の国後島に駐留する部隊に所属し、ことし6月13日から1か月余り、ウクライナ東部のルハンシク州で戦闘に参加していたということです。

兵士はウクライナ軍の砲撃を受けて右手をけがしましたが、手当てを受けさせてもらえず、指を動かせない後遺症を負ったということで「司令部の戦術的な誤りや、部下に対する安全や健康の軽視から、指揮官への信頼が揺らいだ」として、戦闘への参加の継続を拒否したとしています。

ところが、先月19日、同じように戦闘への参加を拒否した兵士合わせて25人とともに連行され、翌日には、ルハンシク州の親ロシア派が事実上支配する地域のブリャンカにある施設に強制的に収容されたということです。

施設にはほかにもおよそ80人が収容され、食事は1日1回で衛生用品も与えられなかったとして、兵士は、告発文の中で「民間軍事会社『ワグネル』の戦闘員の管理のもと、ロシア軍の将校が、一人一人に対して戦闘の継続を強要した。脅迫を受けたり別の場所へ連れ去られたりしたほか、原因不明で死亡した兵士もいた」と訴えています。

この兵士は、先月29日になって他の負傷兵4人とともに軍の病院に移送され、逃れることができたということで、軍の検察や捜査当局に対して、深刻な人権侵害に対する責任の追及を求めています。

ロシア 大統領の諮問機関が兵士の権利侵害訴える文書

こうした状況について、ロシアの大統領の諮問機関「市民社会と人権の発展に関する委員会」の委員5人は、先月28日、軍の検察庁宛てに、兵士の権利の侵害を訴える文書を送りました。

この中では、戦闘の継続を拒否した兵士が拘束され、拷問などの非人道的な扱いを受け「大勢の兵士が不当に投獄されている」と訴えています。
委員の1人で文書の提出を主導したナタリヤ・エフドキモワ氏は、NHKのインタビューに対し「今この国で起きているすべての人権侵害を根絶しなければならない」と強調しました。

エフドキモワ氏によりますと、兵士の多くは厳しい経済状況に置かれた地方出身で、年間の平均給与に相当する報酬にひかれたり、「敵は弱い」などといったプロパガンダに乗せられたりして、戦闘に動員されるケースが多いということです。

そして「兵士たちは、これがピクニックではなく本当の戦争なのだ、あすには終わる特別作戦ではないと知った時、はたと目が覚める」と述べ、現地で戦闘の厳しい現実を知り、逃れようとしても、不当に拘束され、心理的、身体的な虐待を受けて引き戻される例が後を絶たないということです。

この人権委員会は、大統領に国内の人権状況を伝え、改善策を提言するため1993年に設立された諮問機関で、エフドキモワ氏は2年前、多くのNGOやメディアが、いわゆる外国のスパイを意味する「外国の代理人」に指定される法律をめぐり、プーチン大統領に対して「社会の分断につながる」と直接、懸念を訴えていました。

しかしその後、政権は外国の代理人の指定の対象を個人にまで拡大し、ウクライナ侵攻における情報統制の強化につなげていて、エフドキモワ氏は「当時改善を約束したプーチン大統領には、だまされた気分だ」と批判しました。

そして「プーチン大統領にとって最大の失敗は、戦争を始めたことだ。いまさら国民に『誤りだった』と言えるわけもない。誰も知らない『目的』が達成されるまで、国民を脅し、沈黙させ、軍事行動を続けるだけだ」と述べ、侵攻の長期化に伴ってプーチン政権が軍を撤退させる理由を見いだせない中、死傷者がさらに増えることに懸念を示しました。

エフドキモワ氏によりますと、検察側から文書に対する回答はないということで「それでも黙ってはいられない。声をあげ続けていかなければならない。それが私たちの役割だ」と決意を示していました。