ウクライナへの軍事侵攻半年 戦闘長期化 緊迫の度合い強まる

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で半年となり、ウクライナ軍は欧米の軍事支援を受けながら南部を中心に反転攻勢に乗り出しています。
一方、ロシア軍は、戦況のこう着が続く中、掌握した原子力発電所を盾にして攻撃を激化させているともみられるなど、戦闘が長期化する様相と緊迫の度合いが強まっています。

ロシアが軍事侵攻を続けているウクライナでは、東部では戦況はこう着していますが、ヘルソン州など南部ではウクライナ軍が欧米から支援された兵器を効果的に活用してロシア軍の弾薬庫や補給路を破壊するなど反転攻勢を強めています。

今月に入ると、ロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアのロシア軍基地で爆発が起き、黒海艦隊の航空部隊が打撃を受けるなど戦線はクリミアにまで拡大しているもようです。

一方、ロシアはウクライナ軍の施設だけでなく、市街地へのミサイル攻撃も続けるとともに、掌握している南東部にあるザポリージャ原子力発電所を盾にして攻撃を激化させているともみられています。

ロシア軍は深刻な兵員不足が指摘されていますが、プーチン政権は国民の強い反発が予想される総動員は避けながら、ロシアの地方などで兵士を募集して戦地への派遣を進めているとされています。

また、ロシア側は、掌握したとする東部や南部ヘルソン州、南東部ザポリージャ州などで支配の既成事実化を強め、早ければロシアの地方選挙が行われる来月にも将来の併合をにらんで住民投票を実施する準備を進めているとみられます。

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて24日で半年となりますが、戦闘が長期化する様相と大規模な原子力事故への懸念も含めて緊迫の度合いが強まっています。

ウクライナの軍事専門家「和平交渉で終わることはない」

ウクライナの軍事専門家はNHKのインタビューで「この戦争は和平交渉によって終わることはないだろう」と述べ、双方の交渉による停戦は困難で戦闘は長期にわたって続くという見通しを示しました。

ウクライナの軍事専門家、ミハイロ・サムス氏はNHKのインタビューで、侵攻から半年となる現在の戦況について「ウクライナが高機動ロケット砲システム=ハイマースを本格的に使い始めた7月以降、各地でロシア軍は大きく進軍できていない。ウクライナ軍がロシアの補給路を攻撃し、進軍を妨げている」と分析しています。

また、ロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアで攻撃や爆発が相次いでいることについて「ロシアの黒海艦隊の司令部にドローン攻撃が行われたことはロシアの防空システムを乗り越えたことを意味する。つまり、ウクライナ側による有効な諜報活動が行われていることを意味する」と分析したうえで、司令部への攻撃はロシア軍にとって心理的な打撃が大きいとしています。

一方、今後の展開については「この戦争は和平交渉によって終わることはないだろう」と述べ、ロシアが一部地域を占領したままの状況では交渉による停戦は困難で、戦闘は長期にわたって続くという見通しを示しました。

ロシア外交評論家 プーチン大統領は欧米と完全に決別する方向

ロシアの外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏はNHKの取材に対し、プーチン大統領は軍事侵攻の長期化に伴って欧米と完全に決別する方向にかじを切り、中国やインドなど、非欧米諸国との関係強化に軸足を移しているという見方を示しました。

ルキヤノフ氏は、このところのプーチン大統領の演説で注目していることとして「特に西側支配への完全な否定に重点を置いている。それは以前もあったが、今では、一切の反論を許さない断固としたものになった」と述べました。

そして「ソビエト崩壊後の目標は、西側が主導する世界のシステムにロシアの居場所を見つけることだったが、一連の理由で失敗した。今や、その目標は存在しないという決定が下された」と述べ、欧米との関係は冷戦時代より激しい対立状態にあると指摘しました。

そのうえで「ロシアが『西側中心主義』に戻ることはない。今や中国だけでなくアジア全体が世界の出来事の中心になりつつある」と述べ、プーチン大統領は、中国をはじめ、インドやイランなど非欧米諸国との関係強化に軸足を移しているという見方を示しました。
また、もうひとつプーチン大統領の演説で注目していることばとして、ルキヤノフ氏は「歴史的ロシア」という表現を挙げ、プーチン氏が帝政ロシア時代のピョートル大帝にみずからを重ね合わせながら「ピョートル大帝は何も征服しなかった。彼は領土を取り戻したのだ」と発言したことにも注目しているとしています。

この発言の背景としてルキヤノフ氏は、31年前のソビエト崩壊を挙げながら「ロシアは不当に失った一部の領土を取り戻さなければならないという理屈に立っている。歴史的にロシアの拡張領域に属していた地域であるウクライナは、その主要な部分だ」と述べ、プーチン大統領は「歴史的ロシア」という思想を侵攻の正当性に結び付けているという見方を示しました。

一方、軍事侵攻が半年に及んでいることについてルキヤノフ氏は、プーチン政権にとって誤算だったとしたうえで「具体的な軍事目標はなくなっているかもしれない」と指摘しました。

そして「領土をゆっくりと占領しながら、激しく、血まみれになって前進している。到達すべきラインがどこにあるのか明確な理解はなく、前進できるだけ進んでいる状況だ」と分析しました。

また、経済制裁の影響については「短期的な影響は、予想以上に小さかった」と主張しながらも、今後については「経済全体の大規模な立て直しが求められる深刻な危機を迎える」と危機感を表していました。

そして、ルキヤノフ氏は、プーチン政権が総動員令の発動を避けて多くの国民をできるだけ軍事作戦に引き込まないかわりに、国民から作戦へ支持を取り付け侵攻の継続を可能にしているという見方を示しました。

そのうえで「ロシアもウクライナも武力によって事態を変えられると考えている。将来の平和を期待することは全くできない」と悲観的な見通しを示しました。

日本政府 ロシアへの制裁とウクライナ支援を継続

事態のさらなる長期化が懸念される中、日本政府はロシアに対する制裁やウクライナへの支援を継続する方針です。

ウクライナ情勢をめぐり、政府は23日、関係閣僚会合を開き、最新の戦況や関係国による外交交渉の状況などの情報を共有しました。

軍事侵攻以降、政府は「力による一方的な現状変更の試みは許されない」などとロシアを強く非難し、G7=主要7か国と足並みをそろえる形で、ロシアと同盟国のベラルーシに対し政府関係者らの資産凍結や輸出入の制限などの制裁を科してきました。

また、ウクライナに対しては経済面での支援や破壊されたインフラの復旧などを進めてきたほか、避難した1700人以上を受け入れ生活を支援しています。

事態のさらなる長期化が懸念される中、政府はG7をはじめとした国際社会と連携しながらロシアなどに対する制裁やウクライナへの支援を継続する方針です。

一方、ウクライナ侵攻を背景とするエネルギーや食料などの価格高騰は、国内経済や国民生活に影響を広げています。

政府は、▽輸入小麦の売り渡し価格の据え置きや、▽地方創生臨時交付金の増額などの支援策を来月上旬をめどにまとめることにしていて、今後も実情を踏まえながら追加の経済対策を講じ、国内への影響を最小限に抑えたい考えです。