小田急線での乗客切りつけ事件1年 無差別の襲撃どう防ぐか課題

走行中の小田急線の車内で、乗客が切りつけられるなどして10人がけがをした事件から6日で1年です。
その後も鉄道の車内をねらった事件や、みずからの不満や絶望などから、やけになって無差別に襲撃する事件が相次いでいて、どう未然に防いでいくかが課題です。

去年8月6日、東京 世田谷区を走行していた小田急線の車内で、乗客が刃物で次々と切りつけられるなどして男女10人が重軽傷を負った事件から6日で1年です。

この事件では、殺人未遂などの罪で起訴された無職の對馬悠介被告(37)が、乗客が逃げられないよう、止まる駅が少ない快速列車をねらったとみられるほか、火をつけようとしていたとみられ、閉ざされた鉄道車内での対策が課題として浮き彫りになりました。

また、捜査関係者によりますと、被告はアルバイトを転々とする中、生活に困窮するなど、やけになって事件を起こしたとみられ、逮捕当時の調べに対し「幸せそうな人を見ると殺したくなり、誰でもよいのでたくさんの人を殺そうとした」などと供述したということです。

この事件のあとも、去年10月には京王線の車内で乗客が刺され、車内が放火される事件が起きるなど、みずからの不満や絶望などから無差別に襲撃する事件が相次いでいて、どう未然に防いでいくかが課題です。

被害に遭った女性 今も続く恐怖の感覚

4人の乗客が切りつけられた車両に乗り合わせ、自身もけがをした40代の女性が取材に応じ、今も電車に乗る際、被害に遭うかもしれないと恐怖を覚えるという心境を語りました。

女性は、当時、突然、悲鳴や「逃げろ」という声が聞こえ、慌てて先頭車両の方向へ逃げましたが、その際に転倒して頭などを打つけがをしました。

事件から1年がたった今も当時の恐怖心が忘れられないということで「初めて死ぬかもしれないと思いました。周りの人も自分もパニックになりながら、どの方向に逃げればいいのかも分からない状態でした」と振り返りました。

そして、今も電車では、すぐに助けを求められるよう乗務員が見える最後尾の車両に乗っているということで「たまたまその電車に乗っていただけで事件に巻き込まれてしまった。隣に居合わせただけの人が、突然刃物を振り回したり、変な液体をばらまいたりするかもしれないと考えてしまいます。この感覚は、今後も変わらないと思う」と話していました。

この事件のあとも、無差別の襲撃や面識のない人を巻き込む事件が相次いでいることを受け「同じような事件が起きるたびに当時の電車内の光景を思い出して苦しくなります。事件に巻き込まれた人や、事件を起こした人の家族もずっと嫌な思いを持ち続けなければならない。他人を巻き込んでほしくないと強く思います」と話していました。

「もっと話をすればよかった」被告の父親の後悔の思い

被告の父親が取材に応じ「もっと話をすればよかった」と後悔の思いを語りました。

被告は派遣やアルバイトなどの仕事を転々としたあと、事件の半年ほど前からは仕事に就かず生活保護を受けていましたが、事件当日に缶ビールなどを万引きしたとして起訴されています。

父親が被告から最後に連絡を受けたのは事件の数か月前で、生活保護を受けると聞きましたが、特に変わった様子は感じられなかったといいます。

父親は「生活費が足りないのではと思い、大丈夫なのかと聞いたら、自分で工面して、何とか生活を立て直すと言っていた。苦しいとか、大変なんだと言われたら、一緒に暮らしてみるかと話すつもりだったが、結局、そういう話はしなかった」と話していました。

そのうえで「他人を巻き込むのは弱い人間のすることだ。事件を起こしたことには腹が立つし、被害者に申し訳ない」と話していました。

父親は、事件を起こすのを止めることができなかったのか、今も考え続けているということで「最後に話をしてからこんなに短期間で、事件を起こすようなことになるとは思わなかった。生活の状況と事件がどうつながるのかはまだ分からないが、心配している気持ちをもっとストレートに話せばよかった。被告と話せたら『もっと早めに話をすればよかった』と伝えたい」と後悔の思いを話しました。

鉄道各社は対策を強化

鉄道における凶悪な事件をどう防いでいくか、鉄道各社は対策を強化して模索を続けています。

このうち、小田急電鉄は列車内で乗客が襲われる事件が相次いだことを受け、去年11月から内容を事前に知らせずに緊急時の対応を試す、いわゆる「ブラインド訓練」を運転士や車掌などを対象に新たに始めました。

訓練では、車内で突然男が刃物を振り回し、逃げようとする乗客が非常用のドアコックを使い始める中、列車をどこで停車させ、乗客をどう安全に降ろすか、判断しながら対応に当たっていました。

訓練のあとには反省会を行い、司令所の司令員や車掌などが訓練で感じた点や課題について意見を出し合い、万が一の事態を意識して対応力の向上に努めているということです。

一方、走行中の車内を警備員などが巡回する「警戒添乗」を拡充するなどして列車内の警戒を強める動きも出ています。

京成電鉄では、ことし4月から都内と成田空港を結ぶ特急の「スカイライナー」などに常時、警備員を新たに配置しています。

これにより、特急料金が最大50円値上げとなりましたが、京成電鉄は「警備員の配置にコストがかかるため値上げの判断をしたが、安全安心のためにもご理解いただきたい」としています。

国は防犯カメラの設置義務の方針も 議論は難航

事件を受けて、国は新たに導入する車両への防犯カメラの設置を義務づける方針を示していますが、専門家などからは効果への疑問や反発の声が相次ぎ議論は難航しています。

国土交通省は去年12月、鉄道での襲撃事件が相次いだことを受け、対策の1つとして鉄道事業者に対し新たな車両を導入する際はすべての車両に防犯カメラの設置を義務づける方針を示しました。

しかし、国土交通省と鉄道事業者や専門家などによる検討会では、小田急線の事件では車両に最新のカメラが設置されていたにもかかわらず防げなかったとして、設置義務化を前提に対策が進められることへの反発や、防犯カメラの効果について疑問の声が相次いでいます。

ことし6月の検討会では、国は防犯カメラの設置を義務づける範囲について、東京、名古屋、大阪などの三大都市圏を中心とした都市部の路線と、新幹線のすべての路線を対象とする案を示しましたが議論は難航しています。