円安から一転!“投機筋”はどこに?【経済コラム】

ジェットコースターのように激しく振幅を繰り返す円相場。7月14日に1ドル=139円台と24年ぶりの円安水準となったのもつかの間、一転して円が買われる展開となり、その後の3週間で9円近くも円高ドル安が進むという異常事態に。8月2日には1ドル=130円台をつけました。マーケット関係者からは、「ちょっとしたパニック状態」「どちらの方向に動くのか誰もわからない」との嘆き節も。7月中旬にかけて加速した円安相場、そして7月下旬から8月上旬の相場急変の局面で市場を動かしたのは誰だったのか、取材しました。(経済部記者 篠田彩)

“投機筋”って何者?

まず、振り返るのは7月中旬にかけて加速した円安ドル高の流れ。

いったい誰が主導したのか。マーケット関係者の多くが口にしたのは「投機筋」の動きです。

為替が急激に変動する際によく聞く「投機筋」ということば。短期の取り引きを繰り返して利益を得ようとする投資家というような意味ですが、この10か月、マーケットを取材してもどこにそんな投資家がいるのかわからないままでした。

正体不明の「投機筋」を追い求めて、まずはその動きをつかむデータがないか、為替ディーラーなどに聞いてみました。

プロが参考にする「IMM通貨先物」

プロも参考にしているデータとして紹介してくれたのがCME=シカゴ・マーカンタイル取引所で取り引きされている「IMM通貨先物」のポジション(持ち高)です。

CFTC=アメリカ商品先物取引委員会がこの「IMM通貨先物」について、各取引所に「売りポジション」と「買いポジション」の公表を義務づけ、集計したデータを毎週公表しています。

このうちの「ノン・コマーシャル」(非商業)の部門がいわゆる投機筋のポジションだとされています。

円が上昇すると予想する投資家は「買い」のポジションを積み上げ、逆に円が下落するとみれば、「売り」のポジションを多くします。このように売り買いどちらが多いかで投機筋の“読み”を探ることができます。

“投機筋”は一貫して円売りポジションを積み上げ

「IMM通貨先物ポジション」のグラフをみると、ドル円の先物取引で円は去年3月以降、一貫して売り越し。(「売りポジション」が「買いポジション」より多い)
そしてアメリカのFRBが0.75%の大幅な利上げに踏み切ったことし6月中旬以降は、円だけでなく、ユーロ、ポンド、オーストラリアドルのいずれも売り越しとなっています。「投機筋」は、ドルに対する主要通貨の「売り」ポジションを積み上げていたわけです。

これについてマーケット関係者は、「投機筋は、アメリカが当面、金融の引き締めを続け、これに伴ってしばらくはほとんどの通貨に対してドル高が続くとみていた」と解説します。

一転して円高ドル安方向に

ところが「投機筋」のシナリオに暗雲が垂れこめる事態が。
アメリカのFRBが7月27日までの会合で、0.75%の大幅な利上げを決めましたが、パウエル議長が会見で、「利上げのペースを緩めることが適切になる可能性がある」と発言。

市場では、急速な利上げによって、アメリカ経済が景気後退に陥るのではないかという懸念が強まりました。

さらに28日、アメリカのことし4月から6月までのGDP=国内総生産の伸び率が2期連続のマイナスに。

「テクニカルリセッション」ということばが市場を駆け巡りました。

29日の東京外国為替市場では、アメリカ経済の先行きへの懸念が一気に強まり、円相場は3円以上値上がり。

8月2日には、アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問すると伝わったことで、米中対立への警戒感から、円相場は1ドル=130円台まで大きく値上がりしました。

円の売りポジションはどうなったのか

このときに「IMM通貨先物」の売り買いのポジションがどうなったのか。

このコラム執筆時には円高ドル安方向に転じたときのポジションのデータがまだ公表されていないので、投機筋がどう動いたのか定かなことはわかりません。

結局、7月下旬に為替市場の流れが変わった局面で誰がマーケットを動かしたのかは分からずじまいですが、その直前まで、投機筋の多くが円を売りポジションで持ち続けていたのは事実で、この投資スタンスが変わったのかどうかが焦点となります。

三菱UFJ銀行の平松誠基アナリストは、「アメリカの大幅な利上げが続くと予想していた投機筋の動きが調整され、円高ドル安を加速させたのではないか。ファンダメンタルズだけでは説明がつかない」と指摘します。

投機筋はいまどこで何をしているのか。その動きを探り、検証する取材を続けたいと思います。

注目予定

8日には日本と海外との製品やサービス、資産の取引状況を示す「国際収支」が発表されます。6月分の経常収支やことしの上半期分が発表されますが、燃料価格の高騰で貿易収支の赤字が続く中、経常収支の結果に注目です。

10日、アメリカの消費者物価指数が発表されます。前回・6月分は、前の年の同じ月と比べて9.1%の上昇と、およそ40年半ぶりの高い水準となりました。大幅な利上げが、消費にどのような影響を及ぼしているのか、今後のFRBの利上げペースに影響を及ぼす指数の1つでもあり、注目が集まっています。