ロシア政府「サハリン2」事業を引き継ぐ新会社設立決定と発表

日本の大手商社も出資するロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」をめぐってロシアは3日、事業を引き継ぐ新たなロシア企業を設立することを決定したと発表しました。日本の商社は今後、ロシア側の求める条件に応じるか、対応を迫られることになりそうです。

日本にLNG=液化天然ガスを供給しているサハリン2の事業主体「サハリンエナジー」社はロシアの政府系ガス会社ガスプロムのほか、イギリスの石油大手シェルが27.5%、日本から三井物産が12.5%、三菱商事が10%をそれぞれ出資しています。

プーチン大統領は6月30日、「サハリンエナジー」社を新たに設立するロシア企業に変更し、その資産を新会社に無償で譲渡することを命じる大統領令に署名していました。

ロシア政府は3日、事業を引き継ぐ新たなロシア企業をサハリン州の中心都市ユジノサハリンスクに設立することを決定したと発表しました。

2日付けの政令で3日以内に必要な登録手続きを行うことを求めています。

大統領令では外国企業に対して設立から1か月以内に株式の譲渡に同意するかどうかロシア側に通知する必要があるとしています。

日本の商社は今後、ロシア側の求める条件に応じるか、対応を迫られることになりそうです。

「サハリン2」日本のLNGの輸入量全体に占める割合は7.9%

日本は天然ガスをマイナス162度まで冷やしたうえでLNG=液化天然ガスの形で船で国内まで運んでいて、ほぼ全量を海外から輸入しています。

財務省の貿易統計によりますと日本が輸入するLNGの量を国別の割合でみると2021年の時点で
▽オーストラリアが35.8%、
▽マレーシアが13.6%、
▽カタールが12.1%、
▽アメリカが9.5%、
▽そしてロシアは8.8%となっています。

ロシアからの輸入のほとんどは「サハリン2」で生産され、日本のLNGの輸入量全体に占める割合は7.9%です。

「サハリン2」で生産されるLNGの量は年間およそ1000万トン。このうち日本はおよそ600万トンを輸入しています。

ロシアの極東、サハリンは中東などの供給国と比べると日本との距離が近く、3日程度で運ぶことができ、輸送ルートに紛争地域もないため事故などのトラブルにあうリスクを抑えることができるということです。

こうしたことから「サハリン2」は、比較的安い価格で長期的にLNGを確保できる供給拠点として日本にとってエネルギー安全保障上、重要なプロジェクトと位置づけられています。

今後の展開は

ロシア政府が出した今月2日付けの「大統領令に関する決定」によりますと、ロシア政府は今回の決定から3日以内に新会社の設立に向けた必要な手続きを行うとしています。

こうしたことから経済産業省は、今月5日までに新会社が設立される可能性があると見ています。

そして、日本側はロシア企業が設立されてから1か月以内に今の出資割合で新会社の株式を取得することに合意するかどうか、ロシアに通知するよう求められています。

サハリン2の事業主体である「サハリンエナジー」は、ロシア政府との間で開発する区域を定めた上で、生産された原油や天然ガスの取り分を決めるPSA=生産物分与契約と呼ばれる枠組みのもとで、生産を続けてきました。

今回のロシア政府の決定では、PSAの枠組みに基づく権利や義務は、新たに設立されるロシア企業に移転され、あらかじめPSAで定めた条件に従って事業が行われると明記されています。

日本政府や商社は、ロシア側が示す条件などを分析したうえで、新会社の株式を取得することに合意するかどうか慎重に判断することにしています。

専門家「権益が正当な権利とロシア側に主張か」

日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「日本の企業にとってこの権益が正当な権利であるということをロシア側にしっかり主張することになると思う。ロシア側から具体的にどのような条件が示されるのかどのようなことを日本側に望んでくるのかはまだ分からないが、日本政府もしっかりとサポートしていくことが必要だ」と述べました。

日本政府の対応は

サハリン2をめぐっては、これまでの事業主体の「サハリンエナジー社」にロシアの政府系ガス会社「ガスプロム」が50%、イギリスの「シェル」が27.5%、日本勢では「三井物産」が12.5%、「三菱商事」が10%それぞれ出資していました。

ことし6月30日にロシアのプーチン大統領が署名した大統領令では、ロシア政府が新会社を設立したあと、サハリン2に参画する外国企業に対して、1か月以内に出資を続ける意思があるかどうか回答するよう求めています。

政府は、「サハリン2」を日本の電力やガスの安定供給の観点から重要なプロジェクトだと位置づけていて、日本企業の権益を守り、現地で生産されるLNG=液化天然ガスの安定供給が確保できるよう官民一体で対応する方針です。

ただ、新会社に参画するための詳細な条件などが不透明なことから政府は、ロシア側の出方を見極めたうえで今後の対応について判断することにしています。

日本はG7=主要7か国と歩調を合わせてロシアへの経済制裁を強化していて、こうした姿勢を続けながらサハリン2の権益をどう守るのか難しい対応を迫られています。

萩生田経済産業相「サハリン2の権益の維持目指す」

ロシア政府が「サハリン2」の事業を引き継ぐ新たなロシア企業の設立を決定したことについて、萩生田経済産業大臣は4日午前、記者団に対して「政府としては中身を精査中で、今の段階で予断を持ってのコメントは控えたい」と述べました。

そのうえで「国内企業とこの間、さまざまなシミュレーションをしてきたので、基本的な方針は変わらない。わが国のエネルギーの安定供給のために極めて重要な拠点であり、維持を続けていくことに変わりはない」と述べ、サハリン2の権益の維持を目指して、ロシア側が示す出資の条件などを精査して対応していく考えを示しました。

三菱商事「事業パートナーや日本政府と連携して対応検討」

「サハリン2」をめぐって、ロシア政府が事業を引き継ぐ新たなロシア企業の設立を決めたと発表したことについて、事業に出資する三菱商事は、「政府の決定が出たことは認識していて、内容をこれから精査する。そのうえで、今後の対応については事業パートナーや日本政府と連携して検討していく」とコメントしています。

三井物産「影響や内容を確認・分析している」

また三井物産は「政府の発表や関連の報道に関しては認識していて、その影響や内容を確認・分析している。引き続き、日本政府やパートナーを含むステークホルダーと、今後について協議し、適切に対応していく」とコメントしています。

日本の電力会社やガス会社が契約

日本の電力会社やガス会社は、サハリン2の運営会社「サハリン・エナジー」と長いものでは20年以上の契約を結んでLNG=液化天然ガスを調達し、発電用の燃料として使ったり都市ガスとして供給したりしています。

サハリン2から調達する年間のLNGの量を多い順にみると東京電力と中部電力が出資するJERAが200万トン。

東京ガスが110万トン。

東邦ガスが50万トン。

九州電力が50万トン。

広島ガスは21万トン。

大阪ガスは20万トン。

西部ガスは6.5万トン。

サハリン2からの調達量はこのようになっています。

契約期間は、それぞれ4年から11年残っている状況です。

これらの会社は、長期的な契約によって安定した価格でLNGを調達してきました。

仮に「サハリン2」からのLNGの調達が滞った場合、その代わりとなる調達先を見つけることは簡単ではありません。

これまで天然ガスの調達をロシアに依存していたヨーロッパなどが「脱ロシア」を進め、各国によるLNGの調達競争が激しくなっているからです。

このため、市場の取り引きでその場で成立する「スポット」と呼ばれる価格で調達することも選択肢の1つとなります。

ただ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、アジアのスポット価格は高止まりしていて関係者によりますと、サハリン2の長期契約の価格の2倍以上の水準になっているということです。

仮にスポット価格での調達を余儀なくされた場合、私たちの電気料金の値上がりにつながる可能性もあります。