ウクライナ侵攻5か月 小麦輸出再開は不透明 東部は戦況こう着

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で5か月となりました。
ウクライナ産の小麦などの輸出再開に向けて、ロシアとウクライナが国連などの仲介で合意した翌日に南部の輸出拠点がロシアによるミサイル攻撃を受け、合意が確実に履行されるのか、早くも不透明な情勢となっています。

ロシアは、ことし2月にウクライナへの軍事侵攻を開始し、24日で5か月となりました。

ロシア国防省は、東部2州のうちルハンシク州の全域を掌握したと主張したあと、ドネツク州の全域掌握もねらって激しい攻撃を続けていますが、ウクライナ軍も徹底抗戦し、戦況はこう着しているものとみられます。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は23日の分析で、ドネツク州にあるウクライナ軍の拠点の1つ、シベルシクの東側やバフムトの南側で、ロシア軍の地上部隊が進軍を試みて、局地的な戦闘が行われたと指摘しました。

こうした中、ウクライナ軍などは黒海に面する南部の港湾都市オデーサで23日、ロシア軍が巡航ミサイルで港を攻撃し、けが人が出たほか、インフラ施設が被害を受けたと発表しました。

オデーサの港はウクライナ産小麦の輸出拠点で、ロシア軍による封鎖で輸出が滞っていましたが、ウクライナとロシアはトルコと国連の仲介のもとで22日、輸出再開に向けて合意したばかりでした。

攻撃についてロシア国防省の報道官は24日、「港の敷地内で、ウクライナ軍の艦艇と、アメリカが供与した対艦ミサイル『ハープーン』の保管庫を巡航ミサイルで破壊した」と主張しました。

食料供給の安定に向けて関係各国が合意を歓迎したやさきの攻撃で、合意が確実に履行されるのか、早くも不透明な情勢となっています。

一方、ロシアは、軍が掌握したと主張する地域で支配の既成事実化を図る動きを加速させています。

このうち南東部ザポリージャ州では、親ロシア派の幹部が24日、ロシアの国営通信社に対して州の警察トップにロシアから派遣された人物が着任したと主張したほか、将来的には軍の常駐を求めたいという考えを明らかにしました。

イギリス国防省は24日に発表した分析で、ロシアのラブロフ外相が、ウクライナの南部や南東部の掌握も視野に入れていると明らかにしたことについて「ロシアは戦争を『拡大』したのではない。こうした地域を含めて長期的な支配を維持することが、軍事侵攻の当初からの目的であったことは、ほぼ間違いない」という見方を示しました。

ウクライナでロシア軍の戦争犯罪 捜査続く

ウクライナでは、ロシア軍の戦争犯罪を追及するため検察や警察が捜査を続けています。検察によりますと、ロシアによる戦争犯罪とみられるケースは、今月22日の時点で2万4000件以上に上るということです。

ウクライナ当局が行っている捜査を現地で支援したオランダ軍警察の捜査チームの責任者、ムールマン副司令官が、NHKの取材に応じました。

この捜査チームは、ことし5月からおよそ3週間、ウクライナの首都キーウ近郊のボロジャンカなどで、住民から証言を得たり、ウクライナ当局がロシア軍の捕虜などから押収した携帯電話の通信記録や画像を調べるなど、証拠の収集を行ったりしました。

捜査の状況について、ムールマン副司令官は「ウクライナの司法システムは機能してはいるが、捜査すべき事案の数が膨大なのでまだまだ人手が必要だ」と訴えました。
そして、戦争が続くなかで、すでに戦争犯罪をめぐる捜査が行われている現状について「これまでは事案が起きて何年もたち、戦争が終わってから捜査が始まることが多かったが今回は事案が起きて数週間で捜査ができ、証拠も多く残されている」と述べ捜査に有利だという認識を示しました。

ただ、ムールマン副司令官は「通常の犯罪現場は封鎖されるが、今回は、遺体が収容されたり、捜査が行われる前に周辺がきれいにされたりしてその過程で現場に残されたDNAが混ざり合う可能性なども考慮しなくてはならない。どうすれば信頼に足る証拠を集められるかが課題だ」と指摘しました。

ムールマン副司令官は、より詳細な捜査を行うため今後もほかの国から捜査チームが派遣されることに期待を示したうえで「より多くの人員が派遣されるようになれば、より統率のとれた連携が必要になる」と述べ、戦争犯罪を1件でも多く立件していく上でウクライナと各国当局の連携が鍵になるという認識を示しました。

イギリス参謀総長 “プーチン大統領の健康不安 希望的観測”

イギリス軍の制服組トップのラダキン参謀総長は、今月17日のBBCのテレビ番組で、一部の欧米メディアがロシアのプーチン大統領について健康不安を指摘する見方を伝えていることに関連して「希望的観測だ」と否定しました。

そのうえでラダキン参謀総長は、「ロシアは比較的安定した政権であり、プーチン大統領は反対勢力を一掃することができる。上層部は、プーチン大統領にたてつく野心は持っていない」と述べ、強権的な体制が継続するロシアは、イギリスにとって脅威であり続けると強調しました。

また、ラダキン参謀総長はロシア軍の損害について「われわれはロシア軍が陸上における30%以上の能力を失ったとみている。5万人のロシア兵が戦闘により死亡するか負傷し、1700台の戦車と4000台近くの装甲車が破壊された」と明らかにしました。

そして、ウクライナ各地で民間施設を標的にしたロシア軍による攻撃が相次いでいることについては「プーチン大統領は民間人の犠牲を承認している」としたうえで「ロシアは、心理的な圧力をかけなければならない状態になっている」と指摘し、徹底抗戦を続けるウクライナの市民に対して精神的な圧力をかけて士気をくじくねらいだと分析しました。