東京五輪1年 競技団体の7割が普及に成果感じていないと回答

東京オリンピックの開幕から、23日で1年になるのに合わせて、NHKが大会に参加した競技団体にアンケートしたところ大会後の競技人口が「変わらない」という回答が50%を超え、「減少した」と合わせて70%以上が成果を感じていないことが分かりました。

背景には新型コロナの影響や大会が無観客になったことがあると見られ、スポーツ界は自国開催のオリンピックのあと、大きな課題に直面しています。

東京オリンピックの開幕から1年になるのに合わせて、NHKは大会で実施された33競技の35団体を対象にアンケート調査を行い、34の団体から回答を得ました。

この中で、施設整備の状況について尋ねたところ、「改善した」が44%に上り、「変わらない」が56%、「悪化した」という回答はありませんでした。

東京オリンピックをきっかけに人気が出たスケートボードのパークが全国で作られるなど、大会によってさまざまな競技でハード面の整備が進んだ実態が裏付けられる結果となりました。

一方で、競技人口やすそ野の広がりについて尋ねたところ、「増加した」が21%だったのに対し、「変わらない」が56%、「減少した」が18%で、合わせて70%以上が、成果を感じていないという回答でした。

その理由としては「無観客となったことで会場でのアピールの場が失われた」や「認知度は高まったが、競技人口の増加には結び付いていない」といった声が寄せられました。

また、新型コロナの影響で国内大会の開催ができなかったことを競技人口が伸びない理由として挙げた団体も複数ありました。

整備が進んだ競技施設をどう活用し、競技人口の拡大につなげることができるのか、スポーツ界は自国開催のオリンピックのあと、大きな課題に直面しています。

東京五輪開催経費の半分以上は競技会場関係

東京オリンピック・パラリンピックの開催経費1兆4238億円のうち競技施設の整備など会場関係の支出が半分以上の8649億円を占めています。

大会後も活用できる恒久施設の整備費は3491億円で、国立競技場の整備が1670億円、東京アクアティクスセンターと海の森水上競技場、有明アリーナ、カヌー・スラロームセンター、大井ホッケー競技場、夢の島公園アーチェリー場の整備が1822億円となっています。

一方、仮設の施設の施行と撤去にも2827億円がかかりました。

ただ、スケートボードや自転車のBMXフリースタイルなどが行われた「有明アーバンスポーツパーク」は、仮設の施設の予定でしたが、大会のあと地元の江東区の要望をうけて東京都が都市型スポーツの拠点として整備することになりました。

スケートボード 競技根付かせるきっかけに

東京オリンピックで新たに採用されたアーバンスポーツの中でも最も注目を集めた競技がスケートボードです。

アンケートで競技団体は「施設の整備が改善した」としたうえで、競技人口についても「増加した」と回答しました。
男子ストリートで金メダルを獲得した日本のエース、堀米雄斗選手はオリンピックでの盛り上がりを競技の普及につなげようと考えています。

パリオリンピックで2連覇を目指す堀米選手は6月都内で開かれたイベントで招待された小学生たちと一緒にスケートボードをして交流しました。
イベントの中で堀米選手は「オリンピックという機会があって、知ってもらったと思うので、もっと盛り上げる活動がしたい。子どもたちも育てたいし、スケートボードをいろいろな人に広げていって、楽しさを伝えていきたい」と話しました。

そのうえで、東京オリンピックについて「スケートボードが初めて認められた日だと思う。今でも自分が勝ったことが夢みたいな感じだが、あのときに、スケートボードだけで食べていけるんだと、わかってもらった瞬間だと思う」と話していました。

堀米選手は、日本でスケートボードを根づかせるため今後は、子どもたちを対象にしたスクールや、街なかでの普及イベントを行っていきたいとしています。

BMX 競技人口「変わらず」 普及の課題に直面

一方で、同じアーバンスポーツでも自転車のBMXは普及の課題に直面しています。

競技団体の日本自転車競技連盟はアンケートで「施設の整備が改善した」としたものの、競技人口については「変わらない」と回答しました。

BMXができる施設はスケートボードと併用のものが多く、このうち、ことし4月にオープンした千葉市の施設は、週末の多いときで150人ほどが訪れます。

施設によりますと、9割がスケートボードの利用者でBMXは1割にも満たず、大きな差があるということです。
日本自転車競技連盟、BMX部会の出口智嗣部会長は「施設を造れば人が来るというのは間違いで、過去には人が集まらず閉鎖されたものもある」と危機感を示しています。

そこで連盟では、施設を新設する際には指導者を置いて初心者向けのスクールを行うことや、トップ選手と一緒にプレーできる交流の場を設けることを自治体などの施設の設置者に提案しています。

こうしたソフト面の充実を図ることで少しずつ競技人口を増やし、定着させていきたい考えです。

出口さんは「もしかしたら遅いぐらいかもしれないが、施設を造りたいというニーズに急ピッチで応えながら、ソフト面を充実させていかなければいけないと思っている。その施設のローカルライダーを増やしていきたい」と話していました。

ホッケー 新たな競技施設を活用し普及目指す

ホッケーは東京オリンピックでは大きな注目を集めることはできませんでしたが、新たに造られた競技施設を活用した普及のための取り組みを行っています。

品川区と大田区にまたがる「大井ホッケー競技場」は、東京大会のために都がおよそ48億円かけて整備した競技場で、年間7万5000人がホッケーをするためにこの施設を訪れると見込まれています。

日本ホッケー協会は、過去に利用者の減少によって、施設をほかの競技に譲ることになった苦い経験から、この利用者数を最低ラインと考えています。

大阪市にあるサッカーJ1のセレッソ大阪のホームスタジアム「ヨドコウ桜スタジアム」は、かつては人工芝の施設で、ホッケーの試合会場として国際大会も行われましたが、利用者が伸びず、セレッソ大阪のJ1昇格に伴って2010年に天然芝の施設に改修されました。

これを教訓に、日本ホッケー協会は坂本幼樹事務局長が中心となり4年前から自治体や日本代表選手と協力しながら、学校でのホッケー体験や、住民との交流の場を設けるなど、周辺の地域に対し、ホッケーを少しでも知ってもらおうという取り組みを行ってきました。

さらに、ワールドカップの試合を観戦するイベントの企画や、東京オリンピックに出場した選手を品川区の職員にしてホッケーの普及に当たってもらっています。

このうち、ホッケー女子の東京オリンピック代表だった浅野祥代さんは「ホッケーを知ってもらう環境がすごく整っているので、もっと普及できるように頑張っていきたい」と話しています。

競技が地域に根づいてきたことで、競技人口の拡大の兆しも見え始めています。

今月行われた体験教室には1080人の応募があり、抽せんで150人が参加しました。

競技場の近くに住む小学5年生の池田大和くんは、ホッケーの道具に触れたこともありませんでしたが、この競技場で行われた日本代表の紅白戦を見てホッケーに興味を持ち、体験教室に参加することを決めました。

池田くんは「オリンピックが行われた場所が近くにあるのはすごいことで、また来たいです」と話していました。

日本ホッケー協会は今後も競技場を活用して大会やイベントを定期的に行いながら、競技の普及につなげていく考えで、坂本事務局長は「普及に手応えは感じている。『大井なくして、日本ホッケーの未来なし』ということで、協会や選手、携わる人たちがこの競技場を大事にしていくことがいちばんだ。体験教室に参加してくれた子どもが、オリンピアンの種になると思っている」と話していました。