【詳しく】過去最多の感染者数 拡大の大きな要因は「BA.5」か

新型コロナウイルスの一日の感染者数は、7月21日に全国で18万6000人余りと過去最多を更新しました。
政府分科会の尾身茂会長はNHKのインタビューに対し「感染の拡大がまだ続いている。おそらくすぐにピークアウトは起きない」と話しています。
感染拡大の「第7波」に大きく関わっていると考えられているのが、オミクロン株の1つ「BA.5」です。

感染力や感染した場合の重症度はどの程度なのか。
今後、どこまで拡大するのか。
わかってきたことをまとめました。

過去最多 “第7波” 背景に「BA.5」

過去最多の感染となっている「第7波」

オミクロン株の「BA.5」への置き換わりが進んでいることが拡大の大きな要因となっていると考えられています。
政府分科会の尾身茂会長は「第7波」の背景には
▽「BA.5」の感染力が従来のオミクロン株よりも高いこと
▽「BA.5」にワクチンや感染による免疫をかいくぐる「免疫逃避性」があること
▽3回目のワクチン接種から数か月たち免疫の効果が下がってきていること
▽高齢者の4回目接種もまだ途中で若い年齢層の接種率もまだ低いことがある
と指摘しました。

そして尾身会長は「感染の拡大がまだ続いている。おそらくすぐにピークアウトは起きなくて、第6波のピークの2倍くらいに増えてもおかしくない勢いだと考えています。」と述べました。

「BA.5」感染力は?

「BA.5」はオミクロン株の一種で、2022年2月に南アフリカで確認されたあと、5月以降、欧米を中心に広がりました。

現在、世界で検出される新型コロナウイルスのほとんどはオミクロン株で、WHO=世界保健機関によりますと「BA.5」は7月10日までの1週間で前の週から2ポイントほど増えて53.6%を占めています。

アメリカでは7月16日までの1週間で全体の77.9%を占めています。

WHOのテドロス事務局長は、7月19日の記者会見で「この6週間で世界の感染者数はほぼ倍増している。死亡者数は感染者数の増加ほどには増えていないが、今後数週間は感染者数が増えることで入院者数や死亡者数の増加が見込まれる」と述べ、厳しい感染状況が続いているという認識を示しました。

また「BA.5はこれまでに検出された変異ウイルスの中で最も感染力が強い」とも話しています。

イギリスの保健当局の6月24日の発表によりますと「BA.5」は「BA.2」と比べて35.1%速く広がっているとみられるということです。
国立感染症研究所の分析では、国内で「BA.5」の占める割合は今週の時点で96%に上っているとみられ、8月の第1週には全国で100%になると推定されるとしています。

京都大学の西浦博教授が厚生労働省の専門家会合に示した資料によりますと、東京都内のデータをもとに分析した結果、「BA.5」はこれまで主流だった「BA.2」と比べて27%速く広がっているとみられるとしています。

免疫を逃れる特徴も

「BA.5」はウイルスの表面にある突起で、細胞に感染する際の足がかりとなる「スパイクたんぱく質」に「L452R」や「F486V」と呼ばれる変異が起きています。

これらの変異によって、「BA.5」は免疫を逃れる性質を持つに至ったと見られています。

WHOによりますと「BA.5」はウイルスの働きを抑える中和抗体の効果が、当初広がった「BA.1」に比べて7分の1以下になったという実験結果があるということです。

また、アメリカ・コロンビア大学のグループが7月5日、科学雑誌「ネイチャー」で発表した論文によりますと、新型コロナのmRNAワクチンを3回接種した人などの血液を使った実験では、「BA.4」と「BA.5」は「BA.2」に比べて中和抗体の効果が4分の1以下になっていたということです。

さらにワクチン接種や感染によって得られた免疫が時間の経過とともに弱まってきていることも、感染の拡大につながっているとみられています。
7月21日の厚生労働省の専門家会合で、京都大学の西浦教授が示した試算の資料によりますと、オミクロン株の『BA.4』と『BA.5』に対する免疫を持つ人の割合はいずれの年代でも下がってきているということです。
免疫を持つ人の割合は7月20日の時点で
▽20代で30.1%
▽30代で29.2%
▽40代で28.0%
▽50代で28.6%
▽60代で25.4%
▽70代以上で25.1%
などとなっています。

西浦教授は7月中旬の段階で「相当な割合の人が『BA.4』や『BA.5』に感染しやすい状態になっていると考えられる。ブレイクスルー感染や再感染が起こりやすい厳しい状況だ」とコメントしています。

再感染は?

一方、WHOは7月20日に出した週報の中で、再感染のリスクについて「以前に『BA.2』に感染した人は感染から守られる」としていて、中東・カタールでの査読前の論文の研究結果を引用しています。

それによりますと「BA.4」や「BA.5」への再感染を防ぐ効果は
▽オミクロン株より前の新型コロナウイルスに感染した人では28.3%と低かったのに対し
▽オミクロン株の「BA.1」や「BA.2」に感染した人では79.7%だった
としています。

研究グループは「『BA.1』や『BA.2』に感染した人では、『BA.4』『BA.5』に対しても守られる効果は強い」としています。

重症化しやすい?

感染した場合に重症化しやすいかどうかについて、WHOは7月20日に出した週報でも「現在までに得られている科学的な研究結果では、『BA.2』と比べて重症度に差があるとは認められていない」としています。

その一方で「BA.5」は100か国で報告されていて、感染者数や入院や集中治療室での治療に至った人の数が増えているとしています。

またECDC=ヨーロッパ疾病予防管理センターも「重症度が増しているという証拠はない」としたうえで、感染者数が増えると入院者数や死亡者数が増える可能性があると指摘しています。
海外の感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「ヨーロッパでは日本よりも少し先に『BA.5』の感染が拡大していて、フランスやイタリア、ドイツなどの西ヨーロッパの状況が日本の今後の参考になるのではないかと考えている。今のところ、感染者数は増えているが、重症者数はそれほど増えていない。感染者全体が増えていくことによって、特に高齢者を中心に重症者が増加していくことを懸念している状況だ」と話しています。

薬の効果は?

「BA.5」に対して、現在ある薬が効くのか。

7月20日、新たな研究結果が報告されました。
東京大学医科学研究所の河岡義裕特任教授らのグループは、実際のウイルスを培養細胞に感染させ、治療薬でウイルスの増殖がどの程度、抑えられるのか調べた結果を国際的な医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表しました。
それによりますと、点滴で投与する「レムデシビル」と飲み薬の「ラゲブリオ」、それに別の飲み薬の「パキロビッド」の成分については、「BA.2」に対してよりもウイルスの増殖を抑える効果が高かったということです。

一方、抗体を使った治療薬については当初のウイルスへの効果と比べて、大幅に効果が下がっているものがあったということです。

河岡特任教授は「『BA.5』の病原性はまだ十分、分かっていないが、実験では日本で使える薬でも高い効果がみられたため、その点で安心ではないか」としています。

ワクチンの効果は?

ワクチンについて、イギリスの保健当局は6月24日に出した報告書で初期データの解析結果を示しました。
それによりますと5月下旬までの1か月余りの間に感染した人のデータを分析したところ、「BA.5」に感染した人に対するワクチンの効果は、「BA.2」に感染した人に対する効果と比べて大きな違いはなかったと報告しています。

また、アメリカ・ワシントン大学のグループは7月19日、科学雑誌「サイエンス」に「BA.5」の特徴を再現したウイルスを人工的に作り、mRNAワクチンを接種した人の血液を使って中和抗体の働きを調べた結果を報告しました。

中和抗体の効果は、2回の接種ではこれまで主流だったウイルスに比べて23分の1以下になりましたが、3回の接種では6分の1程度だったということです。

グループは「『BA.5』では、2回接種までではワクチンの効果はかなり下がるが、3回目の追加接種をすることで『BA.1』に対する効果と同じレベルにまで回復できる」としています。

一方、アメリカのFDA=食品医薬品局は、6月30日、この秋以降に行う追加接種のワクチンについて、いま使われているワクチンの成分に加え、「BA.4」や「BA.5」のスパイクたんぱく質を加えたものを開発すべきだと、製薬会社に対して推奨したと発表しました。

ただ、今のワクチンは新型コロナに感染した場合に重症化するのを防ぐ基盤になるとして、いま行われている接種については変更を求めないとしています。
東京医科大学の濱田特任教授は「ワクチンの有効性について、まだデータが出そろったわけではないが、少なくとも2回の接種だけではあまり効果はない。3回目の接種をすることで、ある程度の感染予防効果があるし、重症化を防ぐ効果が接種から半年近くは残るということは重要な点だ。4回目の接種をすることで重症化予防効果をさらに上げていくことが大切だ。日本でも、秋以降の感染拡大はいまよりも本格的なものになる可能性がある。秋以降の接種の考え方や、ワクチンの確保について、国レベルで議論を進めるべきだ」と指摘しています。

感染拡大はどこまで?

名古屋工業大学の平田晃正教授はAI=人工知能を使って分析した今後の感染者数・死亡者数の予測の結果を示しています。

「BA.5」の感染力がこれまでの1.3倍だと想定し、過去の感染者数の推移やワクチンの効果、それに人流などのデータをもとに、直近の感染の急拡大を踏まえて7月15日時点で計算しました。
その結果、東京都内の感染者数は7月27日がピークで、1週間平均で一日当たりの感染者はおよそ2万人、最大でおよそ2万3000人になるという計算結果だったということです。

ただ平田教授は「AIが、感染者数があまりに増えると検査が追いつかなくなり、報告される感染者数が頭打ちになるという傾向を学習している可能性がある」として、さらに感染が拡大する可能性も否定できないとしています。

一方、重症者の数は東京都内で8月中旬に一日当たりおよそ60人、亡くなる人の数は8月中旬に一日当たりおよそ26人という計算結果になったということです。

東京医科大学の濱田特任教授は「6月いっぱいは日本国内でも感染対策がかなり緩和されていて、ちょうどその時期に『BA.5』が国内でも広がったため、食事の場面を中心に感染が広がり、7月上旬の感染者数の急増につながったと考えられる。感染者の急増を実感し、行動を引き締めにかかっている人も多くいると思う。対策をいままでよりも強くすることは、今後、『第7波』の流行を早めにピークアウトに持って行くために非常に重要なことだと思う」と話しています。