安倍元首相銃撃 真後ろに気取られ斜め後ろの容疑者に気付かず

安倍元総理大臣が奈良市で演説中に銃撃され死亡した事件で、警備にあたっていた警察官が元総理大臣の真後ろを台車を押して横切る男性に気を取られ、斜め後ろから近づく容疑者に気付かなかったことが、警察当局への取材で分かりました。警察庁は、後方の警備が不十分となり襲撃を防げなかったことなど今後、問題点を明らかにしたうえで、要人の警備を見直す方針です。

今月8日、奈良市で演説をしていた安倍元総理大臣が銃で撃たれて死亡した事件から15日で1週間となります。

警察は、奈良市に住む無職の山上徹也容疑者(41)を逮捕して殺人の疑いで捜査する一方、襲撃した容疑者を制止できなかった当時の警備について検証を進めています。

警察当局によりますと、当時、安倍元総理大臣のそばでは、警視庁のSP1人を含む4人の警察官が警備にあたっていて、このうち1人が元総理大臣の後方を警戒していたということです。

しかし、事件の直前、後方を担当していた警察官は元総理大臣の真後ろを台車を押して横切る男性の姿に気を取られ、目で追っていたため、斜め後ろから近づいてきた山上容疑者に気付かなかったということです。

一方、山上容疑者が当初、立っていた歩道には別の警察官が警備にあたっていましたが、会場全体を見渡すように警戒していたため、容疑者が車道に出て歩き出したことに気付いていませんでした。

警察庁は、後方の警備が不十分となり襲撃を防げなかったことなど、今後、当時の問題点を明らかにしたうえで、警備の体制や配置など要人の警備を見直す方針です。

事件当時の警備状況

事件当時の警備の状況が警察当局への取材で明らかになりました。

<態勢は>
投票を2日後に控え、参議院選挙の候補者の応援演説に駆けつけた安倍元総理大臣。

奈良市の大和西大寺駅前の交差点に候補者などとともに立っていました。

この場所はガードレールに囲まれていて、中では警視庁のSP1人を含む4人の警察官が警備にあたっていました。

このうちSPは元総理大臣を見ながら、前方の多くの聴衆を警戒。

また、2人の警察官が元総理大臣の目線と同じ方向にいる聴衆を警戒していました。

そばにいた4人のうち3人が会場前方を中心に警備し、残る1人の警察官が主に元総理大臣の後方の警戒を担当していたことになります。

<容疑者接近、その時…>
午前11時半ごろ、安倍元総理大臣が演説を開始。

まもなく、斜め後ろの歩道上に立っていた山上容疑者が車道に出て歩き出しました。

この時、別の動きがありました。

元総理大臣の真後ろを1人の男性が台車を押して横切る様子が確認されたのです。
後方を担当していた警察官はこの男性に気を取られ、目で追っていたといいます。

一方、山上容疑者が当初、立っていた歩道には別の警察官が警備にあたっていました。

ただ、会場全体を見渡すように警戒していたため、容疑者が車道に出て歩き出したことに気付いていませんでした。

さらに、警察官はいずれもガードレールの内側にいて、外側の車道には配置されていませんでした。

こうして不審な動きに誰も気付くことがないまま山上容疑者は徐々に接近。

元総理大臣からおよそ7メートルの距離で1回目の発射をしました。

<発射後の対応も>
1回目の発射のあと、主に前方の警戒をしていた2人の警察官が、防護板を出して元総理大臣を守ろうとしました。

一方、SPは元総理大臣とやや距離を置いて立っていたことから、元総理大臣に覆いかぶさったり低い姿勢を取らせたりする対応はとれませんでした。

そのおよそ2秒後。

山上容疑者はさらに2メートルほど距離を詰め、2回目の発射をしました。

SPと後方警戒を担当する警察官の2人が容疑者を取り押さえましたが、警察当局によりますと、2回目の発射が元総理大臣の致命傷となったとみられるということです。

今回の警備の問題点として浮かび上がった▽後方の警戒と▽1回目の発射後の対応。

同じ事態を繰り返さないための検証が求められています。

元警視総監「完全な失敗 いろんな問題あった」

警察庁の警備局長を歴任するなど、およそ20年にわたって警備部門に携わってきた高橋清孝元警視総監は「取り返しのつかない事態が発生してしまい、残念でじくじたる思いだ。要人の命や身辺を守るという任務が全く果たせず、完全な失敗であり、いろんな問題点があった」と述べました。

まず、問題点として演説が行われた場所の選定を挙げました。

高橋元警視総監は「非常に違和感を感じた。現場は、360度、周囲にさらされている上に演説台の真後ろに道路がある。車で乗り付けて襲撃される危険性がある」と述べ、後方に板を設置するなどして、警戒の範囲を狭める工夫が必要だったと指摘しています。

その上で「事件をきっかけに、今後、全国各地で街頭演説をする際、本当に安全かどうか総点検すべきだ。警察だけでなく、政治家、政党支部を含めてお互い合意をしながら見直すことが必要だ」と述べ、警察庁が各都道府県の警察に一定の基準を示すべきだという考えを示しました。

次に、警察官の配置についても問題があったとしました。

容疑者は、安倍元総理大臣の斜め後ろから車道上を歩いて近づいていて「映像を見る限りでは、後方を警戒している警察官の数が少ない。隙だらけだったのではないか。元総理が演説していたガードレールの内側だけでなく外側・車道側にも警察官が立っていれば、ガードレールを越えることなくすぐに駆けつけることができ、そういう位置取り、態勢が必要だった」と指摘しています。

警察官の対応についても問題点を指摘しています。

高橋元警視総監は「容疑者が歩道から車道に出た段階で完全に不審者であり、制止しなければダメだ。それができなかったのが一番の課題だ」としています。

そして、容疑者が1回目の発射をした直後の動きについては「SPは警護対象者を命を張って守る役割があり、一番近くにいなければならないが、直近に姿がなかった。もしいれば、元総理に伏せてもらうなどの行動がとれたと思う」と述べ、対応を検証すべきだという考えを示しました。

浮かび上がる数々の課題。

一方、安保闘争や学生運動が激しかった時代と異なり、警察による警備のあり方も柔軟な対応が必要だとしています。

高橋元警視総監は「デモの件数は減るなどしているが、逆に、テロや、今回の事件の容疑者のように、見えない敵から重要な人物や施設を守るという時代になり、警備の手法が変わり、難しい時代に入っている。問題点を洗いざらい検証し、必要なことを形にして現場がしっかりと業務を進められるようにしてほしい」としています。