是正必要な盛り土 措置完了わずか1割 都道府県の状況は?

去年7月、静岡県熱海市で発生した土石流を受けて全国の盛り土で点検が行われましたが、是正の必要があるとされた1000か所余りのうちこれまでに措置が終わったのは1割余りにとどまっていることが、NHKが全国の都道府県に行ったアンケート調査でわかりました。

専門家は、「防災対策が十分でなければ大雨で崩落するおそれもあり、自治体は是正できていない盛り土がどこにあるのか住民に周知するなど、対策を進めるべきだ」と指摘しています。

静岡県熱海市の土石流では盛り土が被害を拡大したとされ、国は、全国の都道府県に依頼して不適切な盛り土がないか点検を行ったほか
▽許可や届け出の手続きをしていなかったり
▽災害を防ぐための対策を十分に取っていなかったりする盛り土について是正を進めるよう促してきました。
土石流から1年になるのを前にNHKは、各地の盛り土の現状について全国の都道府県を対象にアンケート調査を行いました。

是正が必要な盛り土全国の進捗(しんちょく)状況は?

是正措置が必要とされた盛り土は全国38の都道府県で、あわせて1041か所にのぼりました。

先月1日時点の状況を尋ねたところ、是正措置が終わったのは134か所と、回答があったうちの1割余りにとどまり、8割余りにあたる845か所では是正措置が終わっていませんでした。

(都道府県ごとの詳細も記事の最後に掲載しています)

是正措置に着手できていない盛り土が多数

是正措置が終わっていない盛り土について、現状の回答があった32府県・822か所のうち、
▽業者による工事など、是正措置に着手しているのは230か所だった一方
▽まだ着手できていない盛り土が592か所と7割にのぼり、対策が進まない実情が浮き彫りになりました。
措置を進める上で、24府県が「課題がある」と答え、
▽業者に是正措置を求めても応じてもらえない、
▽業者と連絡が取れない、
▽工事費が多額で業者が対策するのが難しい、
といった声が寄せられました。

是正未完了の盛り土住民に周知は10府県

アンケートでは措置を終えていない盛り土の対応についても尋ねました。

ほとんどの盛り土について、住宅に直ちに被害が及ぶような災害の危険性は高くないとしていますが措置を終えていない盛り土を抱える自治体のうちおよそ9割にあたる29府県で「職員が定期的にパトロールを行って盛り土の状態を確認している」としています。

一方「周辺の住民に是正措置が完了していない盛り土があることを周知している」と答えたのは、10府県にとどまりました。

専門家「交通などへの影響も・住民への周知が重要」

地盤災害が専門で盛り土の調査などを行っている京都大学の釜井俊孝名誉教授は「是正できていない盛り土が多いことは想定内だが、それだけ問題が深刻であることを示している。自治体と業者との意思疎通が難しいことなどの背景がある」と分析したうえで「防災対策が十分でなければ大雨で崩落するおそれもあり、住宅に被害を及ぼさなくても道路に土砂が流れ込んで交通に影響が出たり集落の孤立につながったりする可能性もある。是正できていない盛り土がどこにあるのか自治体は周辺の住民に積極的に知らせるべきだ」と指摘しています。

大雨シーズン迎え自治体も応急対策に

業者などによる是正措置が終わらない中、大雨のシーズンを迎えたことから監視を強化している自治体もあります。

宮城県七ヶ浜町にある盛り土は、長年、建設残土が運び込まれた結果、面積がおよそ4万2000平方メートルにのぼりました。

去年、県が行った点検では、▽雨水を排水するための設備が不十分だったほか▽盛り土に崩落のおそれがあると判断されました。

業者はことし4月から是正工事を始め、▽盛り土や周辺に降った雨水をためる場所を設けたり、▽斜面の勾配をなだらかにしたりする作業を優先して進めています。
周辺の住宅や道路に直ちに被害を及ぼすことはないとみられていますが、作業が終わっていないことから宮城県は、▽看板を設置して住民に危険性を周知しているほか▽新たに土が運び込まれていないかなどの異変を把握するため監視カメラを設置しました。

また、▽職員が定期的に現場をパトロールし、盛り土や作業の状況を確認しているということです。
宮城県循環型社会推進課不法投棄対策班の渡邉香織さんは、「先日も東北で大雨になったが、大雨の後もなるべくパトロールし、異常がないか確認している。是正措置が終わるまで時間がかかるため、監視や、業者への指導は自治体がやるべきことだと感じている」と話していました。

カメラやセンサー設置や住民への連絡体制も

アンケートでは宮城県や大阪府、それに奈良県は「盛り土の現場に監視カメラやセンサーを設置して、異変をすぐに把握できるようにしている」と答えたほか、千葉県、新潟県、兵庫県、奈良県、それに熊本県は「盛り土の異変を把握したら、すぐに住民を避難させる体制が取れている」と答えました。

盛り土相談ダイヤル設置で早期把握

いっぽう、京都府は去年9月から、盛り土を見つけた市民に情報を寄せてもらう専用の電話窓口を設けています。

土砂が大量に搬入されてからでは指導は難しくなるケースが多いことから、早めに現地を調べて状況を把握し、対応を取れるようにするのがねらいだということです。

応じない業者と苦慮する自治体・静岡の現状は

対応が進まない業者には自治体も働きかけを強めていますが、苦慮する現場もあります。

静岡県では193か所の盛り土で是正が必要と判断されたものの、是正が完了したのは6月1日時点で全体の15%にあたる28か所にとどまり、165か所で是正が終わっていません。
このうち富士市では、およそ5年前から富士山のふもとにある土地に無許可で盛り土が造成され、高さは、県や市の基準である15メートルを大幅に上回るおよそ25メートルに達しています。

市は、造成した業者に土砂の撤去を求める命令を出しましたが、業者は従わないまま盛り土のある土地を手放し、所有者が変わりました。

去年7月、熱海市で土石流が発生した際の大雨では、この盛り土でものり面の一部が崩落。

住宅などへの被害はなかったものの、地元の小学生が野外学習で利用していた盛り土脇の市道は危険だとして学習のコースから外されました。

一方、新たに土地を所有した業者は、市からの要請を受け、いったんは崩落した斜面に2枚のブルーシートをかぶせる対応を行いました。

しかし、その後は市が求めた土砂の撤去の命令に応じておらず、是正は滞ったままです。
富士市土地埋立対策室の増田圭佑主査は、「ブルーシートを張ったのは、こちらからすれば、ただのパフォーマンスにすぎない。富士市内にはこうした是正が必要な盛り土は23か所あるが、どの業者も『持って行く場所がない』とか、『多額の費用がかかる』などの理由で土砂の撤去に応じてもらえないのが現状だ」と話していました。

静岡は県が一元的に対応も“業者に無視される”

静岡県は崩落のおそれのある盛り土の規制を強化するために、「盛り土条例」を定め、1日から施行されました。

これによって、従来、市や町が取り組んでいた盛り土の是正は、原則として県が一元的に取り組むことになりました。

県の担当者が、市や町から業者への指導の状況などについて聞き取りを進めていますが、なかには業者と連絡が取れなくなったケースもあるということです。
県盛土対策課・盛土監視機動班の後藤祐介班長は、「行政が指導はしているものの業者側に無視されているのが現状です。新しい条例で罰則が強化されるので、警察と連携して是正に結び付けていきたい」と話していました。

行政指導や検挙も相次ぐ

各地で盛り土の監視体制が強化される中、自治体による行政指導や行政処分が相次ぎ、警察が検挙するケースも出ています。

都道府県に対して熱海市の土石流以降の対応を尋ねたところ、行政指導は670件で、▽千葉県が242件で最も多く、▽静岡県が192件、▽大阪府が95件でした。

措置命令などの行政処分は107件で、▽静岡県が76件で最も多く、▽山梨県が8件、▽千葉県が7件でした。

複数の自治体の担当者は、熱海市の土石流が発生して以降、盛り土の造成などについて監視体制が強化され、行政指導や行政処分の件数は以前に比べ、増える傾向にあるとしています。

また、盛り土を巡って警察が業者などを検挙した件数は宮城県、千葉県、山梨県、静岡県、京都府、福岡県でそれぞれ1件ずつありました。

中には、県や市の許可を得ずに基準を大幅に超える盛り土を造成したとして条例違反の疑いで会社の代表が逮捕されたケースもありました。

「盛土規制法」が成立規制強化へ

国も規制強化に乗り出しています。

ことし5月には宅地造成等規制法が改正され、通称「盛土規制法」が成立しました。

災害リスクのある盛り土を一律に規制するこの法律では▽盛り土によって被害が出るおそれのある区域、「規制区域」を都道府県知事などが定め、区域内での工事を許可制とすることや、▽無許可で造成などを行った場合、法人を対象に最高で3億円の罰金を科すなど、大幅な罰則強化も盛り込まれました。

また、「規制区域」の中では法律の施行前に作られた盛り土についても所有者や管理者などに安全性を維持する責任があると明確に示されました。

災害リスクがあると判断された場合、都道府県知事などは災害を防ぐ措置を取るよう勧告ができるほか対応が不十分な場合には改善命令が出せるとしています。

法律の施行を前に国土交通省と農林水産省は▽都道府県知事などが定める「規制区域」の基準や、▽災害リスクがあるとして勧告を行う際の判断基準など、具体的な内容について専門家による検討会を設け、議論を進めています。

専門家“『空白の1年』にならないよう対策を”

これについて検討会のメンバーでもある京都大学の釜井俊孝名誉教授は、「盛土規制法の施行は来年に控えているが、「規制区域」の指定などにかかる時間を考えると実際に運用が始まるのはもっと遅くなると考えられる。法律が施行されるまでの“空白の1年”が災害につながらないよう都道府県は施行を待たずに対策を積極的に進める必要がある」と指摘しています。