5月 消費者物価指数 前年同月を2.1%上回る 2%超は2か月連続

家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる先月・5月の消費者物価指数は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が、去年の同じ月を2.1%上回りました。政府・日銀が目標としてきた2%を超えたのは、2か月連続です。

総務省が発表した先月の消費者物価指数は、生鮮食品を除いた指数が2020年を100として、101.6となり、去年の同じ月を2.1%上回って、9か月連続で上昇しました。

上昇率は4月と同じで、消費税率引き上げの影響を除けば13年7か月ぶりに2%を超えた4月に続き、2か月連続で2%を超えました。

原油価格の高止まりが主な要因で、去年の同じ月と比べて、電気代は18.6%、ガソリン代は13.1%、それぞれ上昇し「エネルギー」全体で17.1%の大幅な上昇となりました。

また、輸入原材料を多く使う食用油が36.2%上昇するなど「生鮮食品を除く食料」は2.7%の上昇となりました。

政府・日銀は2%の物価上昇を目標としてきましたが、日銀は今の物価上昇は賃金の上昇や需要の増加といった、経済の好循環を伴ったものではないとしています。

総務省は「食品など生活必需品の値上がりが目立つ構図は変わっていない。食品メーカーの中には企業努力で吸収しきれず、さきざき値上げを計画しているところもあるため、今後の動向を注意深く見ていきたい」としています。

価格転嫁進めば さらなる物価上昇も

消費者物価指数は2%を超える高い伸びが続いていますが、企業がコストの上昇分を商品の価格に転嫁する動きが進めば、さらなる物価上昇も予想されます。

こちらは企業どうしで取り引きされる原材料などのモノの価格を示す「企業物価指数」と、私たちが買うモノやサービスの値動きを示す「消費者物価指数」の伸び率の推移です。

先月・5月の企業物価指数の速報値は、原材料費の高騰や急速な円安による輸入コストの上昇などを背景に、去年の同じ月を9.1%上回りました。

仕入れコストの高騰を受けて企業の間で商品を値上げする動きが相次ぎ、企業物価を追いかける形で消費者物価も上がり始めていますが、上昇率が2%台の消費者物価指数とは依然、大きな開きがあります。

「帝国データバンク」が国内の主な食品や飲料のメーカー105社を対象に行った調査によりますと、6月から10月にかけて値上げが予定されている食品や飲料の商品は合わせて6000品目以上に上っていますが、企業物価と消費者物価の開きは、企業側が消費者離れを懸念して、仕入れコストの上昇分を身近な商品の価格に転嫁し切れていないことを示しています。

このため企業がコストの上昇に耐えきれず、商品の価格に転嫁する動きが進めば、さらなる物価上昇も予想されます。

食品大きく値上がり エネルギー価格も上昇

生鮮食品を除く食料では、世界的な需要拡大と急速に進む円安の影響で、輸入原材料を多く使う食品が大きく値上がりし「食用油」が36.2%「ハンバーグ」が9.5%上昇しました。

また、食用油の値上がりの影響で「ポテトチップス」が9%、「からあげ」が5.4%上昇するなど、値上がりの連鎖も起きています。

天候による変動が大きい生鮮食品では「たまねぎ」が産地の不作で125.4%の大幅な上昇となりました。

ただ、輸送燃料の高騰で「まぐろ」が16.6%、肥料の高騰で「キウイ」が10.9%上昇するなど、天候以外の要因で大きく値上がりした品目もあります。

生鮮食品を含む「食料」全体では去年の同じ月と比べて4.1%の上昇となり、消費税率引き上げの影響を除くと1998年11月以来、23年6か月ぶりの記録的な上昇となりました。

また、「エネルギー」も、原油価格の高止まりを背景に「都市ガス代」が22.3%「電気代」が18.6%「ガソリン代」が13.1%上昇しました。

ガソリンへの政府の補助金の効果もあり、エネルギー価格の上昇率はことし3月をピークに徐々に縮小してはいるものの、引き続き消費者物価指数を押し上げる最大の要因となっています。

このほか食品とエネルギー以外でも、ウッドショックと呼ばれる世界的な木材価格の高騰で「住居の修繕材料」が11.1%、中国のロックダウンや半導体不足の影響を受けた「ルームエアコン」が11%上昇しています。

物価上昇に賃金の伸び追いつかず

5月の消費者物価指数は政府・日銀が目標としてきた2%を超えましたが、このところの物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状況になっています。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によりますと、ことし4月の働く人1人当たりの現金給与総額は28万2437円と、去年の同じ月と比べて1.3%増えました。

一方、物価の変動を反映し、受け取った賃金で実際にモノやサービスをどれだけ購入できるかを示す実質賃金は、去年の同じ月と比べて1.7%のマイナスになりました。

これは物価が賃金の伸びを上回るペースで上昇し、家計の負担が増していることを示しています。

北海道 函館の建設会社 全社員に「支援金」を支給

食料品やガソリンなど生活必需品の値上がりが続く中、北海道函館市の建設会社は社員の生活を支えるため給与とは別に1人当たり5万円の「支援金」を支給しました。

函館市田家町の「齊藤建設」はことし4月、会社の決算時期に合わせて給与とは別に「原油及び物価急騰支援金」という名目で50人余りのすべての社員に一律5万円を支給したということです。

会社では物価高や原油高が今後も続く可能性があるとして、ことし8月と12月のボーナスの際にも支援金を支給することも検討しているということです。

「齊藤建設」の齊藤大介社長は「物価が急騰したという印象だったので、会社として社員を支援したいという強い気持ちがあった。社員と会社は共存しなければだめだと思うので、会社ができる範囲で社員の支援を続けていきたい」と話していました。

木原官房副長官「切れ目のない対応を着実に」

木原官房副長官は、記者会見で「ウクライナ情勢などに伴って、エネルギーや食料価格が上昇したことによるものと報告を受けている。物価の高騰が、マインドの悪化や実質購買力の低下を通じて民間消費や企業活動を下押しするなど、景気の下振れリスクには十分注意する必要がある」と述べました。

そして「政府としては、まずは小麦などの食品原材料や肥料・飼料などの価格高騰対策、エネルギー価格の抑制策を含む事業規模13兆円の総合緊急対策を着実かつ迅速に実行したい。そのうえで、さらなる取り組みについて、先日の『物価・賃金・生活総合対策本部』の初会合で具体的な方針を取りまとめたので、これに基づいて関係省庁で個別の政策内容を順次具体化して実行に移し、切れ目のない対応を着実に行いたい」と述べました。

専門家「物価高対策の見極めが大事」

物価の上昇率が2か月連続で2%を上回ったことについて、大和総研の瀬戸佑基研究員は「食品など頻繁に購入する品目の価格が上がっていて、2%の上昇率という数値以上に家計が値上げを実感しやすくなっている。ただ、企業物価に比べて消費者物価は大幅に低い伸び率になっているので、今後、企業の価格転嫁が進み食品やエネルギーの値上げは年内いっぱい続くだろう」と分析しています。

そのうえで「物価の上昇に賃金が追いついておらず、今後、節約志向が高まっていくのではないかと見ていて、消費マインドの悪化に注意が必要だ。賃金が上がって物価も上がる好循環を作り出すためには、政府の物価高対策や企業の賃上げが必要だが、物価高対策の恩恵が本当に必要な人たちに行きわたっているのかという観点から、政策を見極めることが大事だと思う」と話しています。