ウクライナへの軍事侵攻から4か月 戦闘終結の道筋 全く見えず

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから24日で4か月となります。
ロシア軍とウクライナ軍は、東部や黒海沿岸の南部などで互いに多くの損失を伴う消耗戦を展開していて戦闘の終結に向けた道筋は全く見えない状況です。

ロシア国防省は23日、東部ルハンシク州でウクライナ軍の兵士150人以上を殺害したほか、ミサイルなどの攻撃で、ウクライナ軍の49か所の燃料施設や最大で50台の戦闘車両を破壊したなどと発表しました。

ロシア軍は、東部2州に戦力を重点的に投入しているとみられ、特にルハンシク州について近く完全掌握することを目指し、ウクライナ側の拠点、セベロドネツクや隣接するリシチャンシクで攻勢を強めています。

イギリス国防省は23日、ロシア軍が最近、リシチャンシクに向けて部隊を進軍させ、セベロドネツクなどの一帯に対して圧力を強めていると分析し、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も22日、「ロシア軍は数日でリシチャンシクに到達する可能性が高い」と指摘しています。

これに対してウクライナ軍は、南部ヘルソン州などで一部の支配地域を奪還する動きをみせているほか、穀物の輸出で輸送ルートとなる黒海の沿岸や拠点の島でも激しい攻防を続けています。

こうした中、ウクライナのレズニコフ国防相は23日、精密な攻撃が可能だとされる兵器「高機動ロケット砲システム」がアメリカから届いたとしたうえで「ロシアの侵略者たちにとって暑い夏となり、一部にとっては最後の夏になるだろう」と述べ、欧米側の軍事支援を弾みに反転攻勢を強めたい考えを明らかにしました。

一方ロシアは、欧米から軍事支援を受けるウクライナに対する戦意をいっそう強め、プーチン大統領は今月17日、「特別軍事作戦のすべての目標は確実に達成されるだろう」と述べ一歩も引かない姿勢を強調しました。

ロシア軍とウクライナ軍は、互いに多くの損失を伴う消耗戦を展開していて、ロシアによる軍事侵攻から4か月となるなかでも戦闘の終結に向けた道筋は全く見えない状況です。

ウクライナとロシア 双方の兵士の犠牲は 社会インフラの損失は

軍事侵攻が4か月に及ぶなか、ウクライナでは、双方の兵士の犠牲や、ウクライナ側の社会インフラの損失が増え続けています。

▽ウクライナ大統領府で顧問をつとめるアレストビッチ氏は11日、ウクライナ側の兵士の死者数が1日あたりおよそ100人に上るという見方を示し、これまでにあわせて1万人の兵士が犠牲となった可能性に言及しました。

▽一方、ロシア側の死者数について、ロシア国防省は、3月下旬に1351人と発表して以降、人数を公表していません。

▽イギリス国防省は先月23日、ロシア軍の死者数が、およそ1万5000人に上る可能性が高いことを指摘しています。

またウクライナ側の兵器の損失について、ウクライナ軍で地上部隊の補給を担う司令官は、今月15日付けのアメリカの軍事専門誌「ナショナル・ディフェンス」のインタビューに対し、これまでに▽戦車およそ400両、▽歩兵戦闘車1300台、▽ミサイル発射システムなど700基を失い、それぞれの損失の割合は、最大で全体の50%に上ると答えました。

ウクライナのレズニコフ国防相は12日、イギリスの有力経済誌「エコノミスト」のインタビューで、「一部の戦闘地域では、ロシア軍の火力が、ウクライナ軍の10倍ある」と述べ、欧米各国に兵器の供与を加速するよう呼びかけました。

ウクライナでは、ロシア軍の砲撃や空爆による経済的な損失も増大しています。

首都キーウの経済大学は、インフラ被害の総額について、8日の時点で1039億ドル、日本円で14兆円あまりにのぼるとした上で、道路や空港施設、それに医療機関や学校など幅広い被害が確認されたと報告しました。

軍事侵攻によって、ウクライナが受けた経済的な損失は、先月下旬の時点で、GDP=国内総生産の5倍にあたるという指摘もあり、拡大し続ける被害がウクライナの今後に暗い影を落としています。

ウクライナ東部 激しい戦闘が続く消耗戦

ウクライナ東部では、激しい戦闘が続き、ウクライナ軍とロシア軍双方の兵士の犠牲や兵器の損失が拡大し続ける消耗戦となっています。

一方、南部ではウクライナ側が、反転攻勢に乗り出す構えを見せ、ロシア側が掌握したとする地域で、根強い抵抗運動が起きています。

ロシア軍は先月下旬、東部の要衝マリウポリを掌握したあと、東部のルハンシク州とドネツク州の完全掌握を目指して攻勢を強め、ルハンシク州ではすでに90%を占領したとみられています。

これに対してウクライナ軍は、徹底抗戦の構えを崩さず、ルハンシク州に残る拠点のセベロドネツクと、川を挟んで隣接するリシチャンシクの防衛に臨んでいます。

このうちセベロドネツクでは、激しい市街戦のすえ、ロシア軍が街の大部分を掌握し、ウクライナ側は、「アゾト化学工場」を拠点に抵抗を続けていますが、火力で上回るロシア軍に対して、苦戦が伝えられています。

一方、ロシア側の損失も積み重なり、戦況を分析するイギリス国防省は16日、東部のロシア軍が深刻な兵員不足に陥り、進軍が鈍っていると指摘しました。

双方の兵士の犠牲や兵器の損失が拡大し続ける現状について、15日、アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は「第1次世界大戦のような激しい消耗戦だ」と述べ、東部の戦況は今後の全体の戦局を大きく左右するとみられています。

東部でロシア軍が攻勢を強めているのに対し、ウクライナ軍は南部で反転攻勢に乗り出そうとしています。

南部のへルソン州は8年前、ロシアが一方的に併合したクリミア半島に隣接し、ロシア国防省は3月中旬以降、州全体を掌握したとして行政機関を管理下に置いてきました。

これに対してウクライナ側は欧米からの兵器の供与を待って反撃に転じる方針を示し、へルソン州の奪還に強い意欲を示してきました。

ウクライナ側としては、ロシア軍の兵力が比較的手薄とみられる南部で反撃に転じ、東部の戦況を有利にしたいねらいもあるとみられます。

アメリカのシンクタンク、戦争研究所は19日「ヘルソンの州の境で、局地的にウクライナ軍の反撃が続き、ロシア軍が押し戻されている」と指摘しました。
こうした中、4月、ロシア側に市長の職を一方的に解任された、へルソン市のイーホル・コリハエウ市長が、17日、NHKのインタビューに応じ、▽ヘルソンでは、ウクライナからの支援物資や通信が遮断され、▽ロシアによる支配の既成事実化が進んでいると訴えました。

具体的には、ロシア側が▽企業の法人登記を移し替え、▽個人の家屋を許可なく利用しているほか、▽ロシアのパスポートを一部の市民に発行したということです。

一方、こうした支配に抵抗する動きも根強く、コリハエウ市長は現在も公共交通機関の運営や水道事業などに関しては遠隔で指示を出し、行政に影響力を残しているということです。

コリハエウ市長は「敵と関わる人はいるが、数は少ないだろう。ロシアに権力を譲ったように見られてはいけない」と述べ、抵抗姿勢を強調しました。

ウクライナ軍 “善戦”の背景は

ウクライナ軍は、ロシア軍による侵攻から4か月となるいまも攻勢を強めるロシア軍に対して激しい抵抗を続けています。

専門家は、ウクライナ軍はロシア側が兵力を集中させている東部で戦況をこう着状態に持ち込んでいるほか、一部の地域では攻勢に転じる動きもあるとして「ウクライナ軍は想定よりも善戦している」と指摘したうえで、背景には欧米諸国からの武器の供与があると分析しています。
2月24日に軍事侵攻に踏み切ったロシア軍は、ウクライナの首都キーウ掌握に向けて攻勢を強め、一時、キーウ近郊にまで迫りましたが、ウクライナ軍による激しい抵抗を受け、4月上旬までに撤退を余儀なくされました。

その後、ロシア軍は、重点をウクライナ東部へと移し、現在、完全掌握を目指す東部ルハンシク州のセベロドネツクのほか、東部ドネツク州や南部の各地でも攻撃を強めていますが、ウクライナ軍は激しい抵抗を続けています。

イギリス国防省は今月22日に発表した分析で、ドネツク州の親ロシア派の武装勢力は、今月16日の時点で2128人の兵士が死亡し、8897人がけがをしたことを認めているとして「死傷率は、およそ55%に相当し、東部ドンバス地域でロシア軍と親ロシア派の兵員が減少していることを浮き彫りにしている」と指摘しています。

また、ウクライナ軍は、黒海の島でロシア軍の拠点のひとつズミイヌイ島で「ロシア側に甚大な被害を与えた」と今月21日公表したほか、ロシア軍が掌握したとする南部ヘルソン州などでもウクライナ軍がロシア軍を押し返す動きも出ています。

ウクライナ軍の抵抗について、ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治 政策研究部長は「ロシア軍に比べて火力の数量が劣っているにもかかわらず、ウクライナ軍はみずからの祖国を守るという高い気概のもと、これまでロシア軍の大幅な進軍の動きを阻んできた」と述べ、ウクライナ軍がロシア側の想定を上回る抵抗を続けていると分析しています。

“善戦”の背景(1) 欧米からの武器供与

その背景の1つには、ウクライナ軍が、欧米諸国から供与された兵器を活用して、効果的に侵攻を食い止めているという見方があります。

ウクライナ側にはこれまでアメリカなどから▽戦車などの装甲を貫通する対戦車ミサイル「ジャベリン」や、▽ヘリコプターや戦闘機などを撃墜できる地対空ミサイル「スティンガー」といった兵器が供与されてきました。

こうした兵器は、兵士が肩に担いで発射できる機動性を兼ね備えた「携行型」で、キーウ近郊などの市街戦で活用されてきました。

一方、アメリカのシンクタンクなどによりますと、激しい戦闘が続いている東部ルハンシク州とドネツク州などでは、建物などの障害物が少ない開けた場所で戦闘が行われているため、欧米から供与される兵器が火力が強く、射程が長い「重火器」へと移行しているということです。

ウクライナ政府も、さらなる「重火器」などの供与を各国に強く求めていて、アメリカ政府は、これまでに敵軍の後方により精密な攻撃ができる「高機動ロケット砲システム」などの供与を決めました。

“善戦”の背景(2) ロシア軍の事情

ウクライナ軍が善戦しているとされる背景にはロシア側の事情も影響していると指摘されています。

兵頭政策研究部長は、▽侵攻の長期化でロシア兵の士気が大幅に低下していたり、▽兵士が戦線から離脱するなどロシア軍の指揮命令系統が混乱したりしているほか、▽精密誘導弾などの最新兵器が底をつきはじめて、古い兵器を使わざるをえない状況にあると分析しています。

そのうえで「ロシア軍のもっとも大きな問題としては、現在の兵力を大幅に増強することができないところにある。この状況はしばらく続いていくのではないかとみられる」と述べロシア軍が苦戦する状況が続くという見方を示しました。

軍事支援による継戦能力維持が焦点

戦闘が長期化する中でウクライナがロシア軍への抵抗を続けられるかは、欧米からの軍事支援が滞ることなく進められるかが鍵になると見られます。

兵頭政策研究部長は「ポイントの1つは、ロシア軍が戦力を大幅に増強できるかどうか。そして、火力で劣勢に立たされているウクライナ側が要求する兵器を欧米諸国が供与できるかどうかだ」と指摘し、欧米側が、軍事支援について足並みをそろえて実行に移せるか注目したいとしています。

ロシア軍の元将校 “軍事的な敗北許されない 国民の大量動員も”

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから24日で4か月となることについて、ロシア軍の元将校で、軍事評論家のワレリー・シリャエフ氏は、NHKのインタビューに対し「ロシア、ウクライナの双方とも今は決定的な優位に達していない。ウクライナ軍は、反撃を拡大できる状態ではなくロシア軍も欧米の軍事支援で武装したウクライナ軍を撃破できる状態にはない」と述べて、戦況はこう着しているという考えを示しました。

一方、東部ルハンシク州のウクライナ側の拠点、セベロドネツクについては、ロシア軍が近く掌握するという見方を示した上で「ロシア軍は東部2州の掌握後も戦闘を止めず、南部ミコライウ州やオデーサ州を掌握しようとし、黒海沿岸を攻撃するだろう。ただ、首都キーウを掌握するのは現実的ではない」と述べ、黒海沿岸など南部でロシア側は支配地域の拡大を目指すと指摘しました。

これに対して、ウクライナ側については「7月末から8月にかけて、欧米からウクライナへ兵器と弾薬が多く流入し、ウクライナは長期にわたり抵抗できる兵器と人員を持つことになる」と指摘しました。

そのうえで「ウクライナ側は、東部ハルキウ州や南部ヘルソン州で反撃するかもしれないが、支配地域を奪還するには少なくとも3万人以上の組織化され武装した新たな部隊が必要だ」と述べてロシア側の支配地域を奪還するのは難しいという考えを示しました。

さらに、ウクライナへの軍事支援を続ける欧米とロシアが衝突する事態に発展する可能性に懸念を示し「ロシアは、ウクライナ軍に対して戦術核兵器を使う必要はないがロシア軍とNATOとの衝突が起きれば、戦術核兵器の使用はあり得る。これが最も恐ろしく最も気がかりなシナリオだ」と述べて、NATO側との直接的な衝突になれば、プーチン大統領が核兵器の使用に踏み切る可能性は排除できないという見方を示しました。

一方、停戦交渉については「ロシアもウクライナも勝利することを期待し、交渉を必要としていない」と述べ、交渉の機運は高まっていないと指摘しました。

そのうえで、ロシア側としては「ウクライナでの軍事的な敗北は、プーチン体制の崩壊を意味しているため、許されない。ロシアは、いまはまだ平時の軍で戦っている。仮に負けそうになれば、プーチン大統領は動員を宣言するだろう」と述べ侵攻の成果が得られなければ、プーチン大統領は国民の大量動員も辞さないという考えを示しました。

キーウの市民は

ロシアがウクライナに軍事侵攻してから4か月となるなか、首都キーウでは避難していた人たちが戻ってきているほか、商店やレストランの多くが営業を再開するなど、以前の街の姿が徐々に戻ってきています。
その一方で、戦闘が続いている現実を常に意識してもらう取り組みも行われていて、キーウ中心部にある独立広場の一角には戦闘で亡くなった人たちの名前を書いた国旗が掲げられ、現在500以上の国旗が並んでいます。

また、追悼のことばをつづるノートも置かれ、道行く人が足を止めて書き込んだり写真を撮ったりする姿が見られます。
広場を訪れた19歳の女性は、一時的にスペインに避難していたということで「キーウに戻ってきたことで、人々が経験した戦争の痛みを感じています。本当につらい話ばかりで、言葉もありません」と話していました。

そのうえで「この戦争はウクライナの民主主義だけでなく、世界の民主主義に関わるものであることをわかってほしい」と述べ、戦争が長期化する中でも国際社会はウクライナに対する関心を持ち続けてほしいと訴えていました。
一方、キーウ中心部の別の広場では、ウクライナ軍が破壊したロシア軍の戦車や、ロシア軍の攻撃を受けた乗用車などが展示されています。

軍事侵攻が始まって4か月となることについて53歳の女性は「ロシアに対する怒りは今や憎悪に変わりました。あすにでも戦争が終わってほしいですが、実際にいつ終わるのかは見当もつきません」と話していました。

また、60歳の男性は「この4か月で考えが大きく変わり、ウクライナの勝利を確信するようになった」と話した一方で「残念だが、戦争はすぐには終わりそうもない。ウクライナ軍はよく戦っているが、敵はわれわれよりもはるかに多くの部隊や装備を持っている」と話し、戦闘のさらなる長期化は避けられないという考えを示しました。

また、12歳の息子と訪れた40歳の母親は「息子にはゲームをさせたり、おいしい料理を食べさせたりして、悲惨な戦争について考えなくて済むよう気をつけてきました。でも今は将来に希望が持てず、真っ暗闇の中にいるかのようです」と話していました。

一方、欧米のメディアなどが「ウクライナ疲れ」という表現でウクライナへの支援を含めて関心が低下していると指摘していることについて53歳の女性は「ヨーロッパは爆撃を受けず、人々が殺されることもないのでそのようになるのでしょう。ただ、もしウクライナが負ければ次は間違いなくヨーロッパが標的になることを認識すべきです」と訴えました。

また、37歳の女性は「そうした考えに失望しています。ウクライナの人々のほうがはるかに疲れているからです。世界が引き続き私たちを支援してくれることを願っています」と話していました。

ウクライナ世論調査 “戦争が半年以上続く”が67%に増加

ウクライナでは、戦争が半年以上、続くと思っている国民が67%にのぼり、3か月前に比べて5倍以上に増えるなど、戦闘の長期化を覚悟する人が多くなっていることが世論調査の結果、わかりました。

この世論調査は、ウクライナの独立系の調査機関が今月18日と19日、ロシアが併合したクリミア半島やロシアの支配下にある地域を除きウクライナ各地で行ったもので、18歳以上の1200人から回答を得ました。

それによりますと、ウクライナが、ロシア軍を撃退できると考える人は93%にのぼり、いまも圧倒的に多くの人がウクライナの勝利を信じています。

一方、いつまで戦争が続くと思うかという問いには、6か月以上、もしくは1年以上と答えた人があわせて67%とおよそ3人のうち2人にのぼっていて、3か月前の調査の12%から5倍以上に増えるなど戦闘の長期化を覚悟する人が多くなっています。

また、ウクライナが申請しているEU=ヨーロッパ連合への加盟については87%の人が支持していて、5年以内に加盟できると思っている人が69%を占め、早期の加盟を願う結果となっています。

南部のヘルソン「ロシア化」 の実態は

ロシアが掌握したとするウクライナ南部のヘルソンから今月初めに避難した地元のテレビ局の記者がロシアによる支配の既成事実化や市民の厳しい生活の実態を明らかにしました。

この記者は、ヘルソン出身でウクライナの民間放送局の現地支局で働くオレーナ・バニナさん(44)です。

今月8日から2日かけて夫と3人の子どもとともにロシア軍の厳しい検問などをくぐり抜け、車でヘルソンから避難することができ、21日、首都キーウ近郊でNHKの取材に応じました。

バニナさんは、ロシア軍の侵攻初日は現地の様子を伝えたものの、ロシア側がヘルソンを掌握したと発表した3月になってからはジャーナリストであることを隠しつつ、携帯電話で街の様子をひそかに記録してきました。
映像では、道路沿いにロシア軍の装甲車などが止まり、近くには銃を持った兵士の姿も見られ、バニナさんによりますと、至る所に検問所があり、厳しい夜間の外出禁止措置がとられていたということです。

また、元軍人や警察といった治安関係者などのリストをもとに関係者の自宅の捜索が行われたほか、600人以上が拘束され、その後、遺体で見つかった人もいるということです。

バニナさんは「人々が抗議のデモを行うと、ロシア軍は、はじめは様子を見ていましたがその後、排除するようになり、犠牲者も出ました」と明らかにしました。

また、バニナさんの長女で17歳のオレクサンドラさんは「同級生の姉がロシア兵に連れて行かれそうになりました。女の人はみんな外に出るのを怖がっています」と話し、3か月あまり家に閉じこもっていたということです。

一方、バニナさんは、人々の日々の生活も厳しい状況に置かれていると語りました。

スーパーや薬局は、ウクライナ側から商品が届かず閉店したため、人々が持ち寄った商品を販売する市場が開かれたということです。
こうした商品や食料品の多くは、ロシアが一方的に併合した、隣接するクリミアから運ばれ、映像では、多くの人が野菜などの食料や日用品などが並べられた通りの出店に買いに訪れている様子が写っていますが、とりわけ医薬品の不足が深刻だということです。

また、ATMも使えない状態で、銀行でお金を引き出すにも数週間待たなければならず、利子を払って個人業者からお金を借りてやりくりしている人もいるということです。

先月末からは携帯電話が通じなくなり、インターネットもクリミアにあるロシアのネットワークに接続しないとアクセスできないということです。

また、バニナさんは、ロシアが一方的に任命したヘルソンの行政の長のもとで、ロシアが支配の既成事実化を進めようとしていると指摘したうえで「ロシアの通貨ルーブルを流通させようと、店主に値札を2つ作るよう命じました。また、ロシアの教育プログラムを導入しようと教員たちを集めていますが、誰も賛同していません」と明らかにしました。

また、メディアへの統制も行われていて、ロシア軍によってテレビ塔の機器が破壊され、通常の放送は、ロシアの番組しか見られなくなっているということです。

ヘルソン州で進むこうした「ロシア化」の動きについて、バニナさんは「まるでガンのようです。一見、正常に見えますが、ヘルソンの街はもう死にかけています。未来は何もありません。時代が30年、後戻りしてしまいました」と嘆いていました。

こうした状況を受けて、ヘルソンからの脱出を決意したバニナさんたちですが、ウクライナ側に避難するルートは表向きは存在しておらず、入念に下調べをして地元の人しか知らない道をひたすら進むしかなかったといいます。

ヘルソンからロシアの支配地域を抜けウクライナ側に向かう途中、30を超える検問所が設けられていたということで、行き先や目的のほか子どもの荷物にいたるまで何度も調べられました。

避難中に撮影した映像には、道ばたに砲撃を受けて破壊された建物や車が写っていて、自分たちもいつ攻撃を受けるかわからず、命がけの避難だったといいます。

バニナさんは、「ジャーナリストなので拘束対象のリストに載っているかもしれず、砲撃を受けるかもしれないと常に緊張状態でした。ウクライナ側に着いてウクライナ軍の兵士にあいさつをされたとき、みんな涙を流しました」と話し、目頭を熱くしていました。

そして、「ヘルソンの人々は解放されるのを待っています。ウクライナ軍の犠牲が最小限に抑えられるなら長く待つ覚悟はできています」と述べ、ウクライナ軍の反撃でヘルソンが解放されることを願っていました。

モスクワ市民は

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから4か月となりますが、ロシア国内では厳しい情報統制のもとで、えん戦や反戦の声は抑えられているものの、欧米からの制裁の影響が徐々に広がっていることから、首都モスクワでは侵攻の長期化への不満の声も聞かれました。

このうち、インテリアの会社を経営する47歳の女性は「制裁の影響で客が目に見えて減った。新型コロナウイルスの感染拡大の時にはあった行政からの補助金や、融資はいまは非常に難しく、中小企業にとっては厳しい状況だ」と話し、経営が厳しくなっていると話していました。

また34歳の男性は、電化製品を扱う会社で営業を担当していたものの、制裁の影響で海外から商品が届かなくなり、仕事がなくなったとして「正直、不愉快な状況だ。住宅ローンを抱えているため何か解決策を見つけなければならないが、仕事を探すのは難しい」と話していました。

そのうえで、軍事侵攻については「もっと早く終わると思ったが、正直、とても長い」と不満をこぼしていました。

さらに、外国人を顧客にしている法律事務所で働く27歳の男性は「友人の何人かはここは息苦しいといって出て行った」と話し、すでに海外へ移住した人もいることを明かしました。

プーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻の正当性を国民に繰り返し訴え、国内では情報統制を強め、えん戦や反戦の声を抑えてきましたが、侵攻の長期化や欧米からの制裁の強化に対して、市民の間では不満がくすぶっているものと見られます。