北海道で挑む 再生可能エネルギー拡大への壁

北海道で挑む 再生可能エネルギー拡大への壁
広大な大地が広がる北海道。風力や太陽光など「再生可能エネルギー」の拡大が最も期待される地域の1つです。
しかし、普及には再生可能エネルギーならではの大きな壁が立ちはだかっています。
その壁とは、発電量が不安定なこと
そして、作った電気を送れないことです。
こうした壁をいったいどのように乗り越えようとしているのか、最新の動きを取材しました。
(札幌放送局記者 岡崎琢真/稚内支局記者 山川信彰)

再エネの導入を阻む2つの壁

北海道北部の苫前町。車を走らせると、林立する巨大な風車が見えてきました。

高さは155メートルと、30~40階建てのビルに匹敵します。
風の状況がよい北海道の海岸では、こうした風車を活用する、風力発電の開発余地が大きいと評価されています。

環境省が発表した潜在的な再エネの資源量は、都道府県別で北海道は風力、太陽光、小水力でいずれも1位、地熱でも3位と、突出しています。

しかし、いっそうの普及にあたっては、2つの厚い壁に阻まれています。

その1つが、再生可能エネルギーの「不安定さ」です。

主力の再エネである太陽光や風力の発電は「お天気任せ」なのが特徴です。

太陽光は天気が悪くなれば、発電量が少なくなります。風力も風がやんでしまうと発電できません。

電気は簡単にためておくことはできません。

今は再エネの発電量が少なくなった場合には、火力発電所などの稼働を増やして対処していますが、再エネの割合が増えれば増えるほど調整が難しくなってしまうという現実があるのです。

2つめの壁は、「電気を送れないこと」です。

太陽光や風力などの再エネの発電に適した地域は、消費する場所と離れているため、電気を長い距離、送る必要があります。

しかし、送電線は整備に多額の費用がかかるため、電力需要が少ない地域はもともと送電線が細くつくられています。
地方には大きな道路が少ないのと同じ理由です。

大量の電気を送れないため、せっかく再エネを増やそうと思っても、投資できないケースも起きているのです。

蓄電池で「不安定」克服目指す

こうした壁を乗り越えようと、新たな動きが生まれています。

再生可能エネルギーの「不安定さ」という課題解決のため、改めて注目されているのが、発電した電気をためることができる「蓄電池」です。

私はことし5月、大手商社が7年前から蓄電池に関する実験を重ねているという現場を訪れました。

北海道から遠く離れた鹿児島県の離島・甑島です。
港で高速船を降りてから、車で15分。

山道を抜けると、蓄電池が設けられているという閉校した小学校が見えてきました。

敷地に入り、真っ先に目に飛び込んで来たのが、グラウンドに敷き詰められたソーラーパネルです。

その隣に蓄電池が入ったコンテナが並んでいました。
「これは電気自動車の蓄電池です」

現地に来ていた住友商事ゼロエミッション・ソリューション事業部の藤田康弘部長が、コンテナを1つ開けて、こう説明してくれました。

中にあったのは電気自動車のバッテリーです。1つのコンテナに12個入っています。
別の2つのコンテナにも同じ数が入っていて、あわせて36個、容量は600キロワットアワーあります。

実は、これらは全部、“中古”です。
住友商事 藤田ゼロエミッション・ソリューション事業部長
「電気自動車で使い終わったバッテリーは、もし用途がなければ捨てられるはずなんですけれども、それを回収して、こちらの甑島に集約をしています。
現在、この甑島には全国7か所から回収してきた電池を集め、今、蓄電事業として運用しています」

中古のバッテリー なぜ活用?

なぜ、中古のバッテリーを使っているのか。

理由の1つが、コストの安さです。

蓄電池のビジネスは、再生可能エネルギーの発電量が多い時間帯に安く電気を買って蓄電池にため、少ない時間帯に放電して、高く電気を売ることで収益を得ます。

利益を出すためには、投資額をできるだけ低く抑えなくてはいけません。

自動車用には使えなくなった中古のバッテリーでも、容量は70%から80%残っています。

複数組み合わせれば、まだ蓄電池として十分使うことができるといいます。

蓄電池は中古だと、容量あたりの価格は半分程度で済むため、初期費用を劇的に抑えることが可能になるのです。

しかし、中古バッテリーは劣化が進みすぎると、蓄電池としての機能低下を引き起こすため、交換のタイミングを見極めることが重要になります。

そのため、会社ではバッテリーがどの程度、劣化しているか、東京の本社からモニターで監視しています。

ギリギリのところを見計らって交換し、効率的なバッテリーの利用を実現することに成功しました。

中古バッテリーで大型蓄電池

実験の成果は、すでに実用段階に入っています。

住友商事は現在、北海道千歳市の工業団地の一角に、10数億円を投じて、容量2万キロワットアワー以上の蓄電池を建設しています。
標準的な家庭で、およそ2500世帯が1日に使う電力を十分賄えるほどの量にあたります。

6月中に着工し、2023年の夏ごろに完成する見通しです。

使用する蓄電池は、電気自動車向けの中古のバッテリーです。当初は半分ほどですが、将来的にはすべてを中古にする計画です。

これにより、会社では、コストを抑えながら、大規模な蓄電池事業を展開できると自信を示しています。
住友商事 藤田ゼロエミッション・ソリューション事業部長
「電気自動車で使われていた電池を蓄電システムとして活用するという取り組みはあまりない。
他社のシステムに比べると、価格競争力は十分にあると思っている。
北海道で事業の事業性、信頼性を確認して、それが検証できたら、それ以外の地域にも順次拡大していきたい」

大型蓄電池 ほかでも建設進む

北海道ではこのほかにも、電力の小売を手がける「グローバルエンジニアリング」(本社・福岡県)が千歳市に、エネルギー会社「ミツウロコグループホールディングス」(本社・東京)の子会社が北広島市に、いずれもことしの運用開始を目指して大型の蓄電池を設ける予定です。

両社とも住友商事と同様、今後北海道内で再エネが増え、蓄電池の事業化のチャンスが膨らむと見込んだ投資です。

専門家からも蓄電池への投資が進むことが再エネの拡大を促すという、好循環につながると評価する声が上がっています。

電気が送れない!自社で送電線を整備

もう1つの「電気が送れない」という壁も、みずから送電線を整備することで対処しようとする会社が現れています。

それが稚内市から北海道北部の中川町までを結ぶ送電線です。
総延長およそ80キロ、つなぐ鉄塔の数は269基。

現在建設中で来年4月の供用開始を目指しています。

事業費の総額はおよそ1000億円に上るビッグ・プロジェクトです。

建設しているのは、稚内市に本社がある「北海道北部風力送電」。

風力発電の事業者や地元の稚内信用金庫などの出資を受けて、2013年に設立されました。
送電線は、これまで大手電力会社が整備し、費用は「託送料金」と呼ばれて、電気料金の一部として企業や家庭から徴収されてきました。

しかし、この送電線は、国から435億円の補助金は出ているものの、残る500億円以上は会社みずからが費用を負担しています。

そこまでする理由は、道北で大規模な風力発電所が相次いで計画されているものの、送電線が足りず、そのままでは電気が送れないからです。
北海道北部風力送電 吉村社長
「これ以上、道北エリアの風力発電の電気を受け入れることができない課題があった。
どういうことができるのかを考え、混んでいる『幹線道路(幹線の送電線)』の脇にバイパスを作って、風力発電の電気を専門に流していく。
そういうルートを作っていこうというチャレンジです」
会社はこの送電線で、宗谷地方で3年後までに建設を予定している風車、127基で発電される、あわせて最大54万キロワットの電力を札幌市などの消費地に届ける計画です。

吉村社長は、新しい送電線の整備さえ進めば、今後、風力発電を中心とする再エネの導入はさらに拡大すると期待を示しながらも、その際にはどのように費用を負担するかも考える必要があると指摘しています。
北海道北部風力送電 吉村社長
「さらに今後もっと大きな風力発電所を建設していく場合には、どのように送電線を増強していくのかを考えていかないといけない。
誰がどんなふうに費用を負担していくのか、どこに設置するのが有効なのか日本全体で知恵を出していきながら考えていく。
それが将来にわたった再生可能エネルギー拡大につながっていくと思います」

北海道の課題克服 再エネ拡大のカギ

蓄電池も送電線の建設も、課題を解決する1つの手段に過ぎません。

また、果たして投資に見合うビジネスになるかどうかは、不透明な面も残されています。

政府は2021年に閣議決定したエネルギー基本計画の中で、2030年度の電源構成として、再生可能エネルギーの割合を一気に36~38%に高める、野心的な目標を掲げました。

その実現には、北海道をはじめとする潜在力の高い地域での課題克服が、カギを握ることは間違いありません。
札幌放送局記者
岡崎 琢真
2017年入局
旭川局を経て去年11月から現所属 現在、経済担当
夢はソーラーパネルと蓄電池のついたマイホームをもつこと
旭川放送局稚内支局記者
山川 信彰
2019年入局
釧路局を経て去年11月から現所属
自然環境、地方鉄道問題などを取材
地元で開発が進む風力発電の動向が大きなテーマ