岸田首相 平和のための新たな構想“岸田ビジョン”を発表

シンガポールを訪れている岸田総理大臣は10日夜「アジア安全保障会議」で基調講演を行い、平和のための新たな構想を発表しました。
「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための計画を来年の春までに示すほか、インド太平洋諸国に対し、3年間で少なくともおよそ20億ドルの海上安全保障に関する設備の供与などを行う考えを明らかにしました。

シンガポールを訪れている岸田総理大臣は、アジア・太平洋地域の安全保障について各国の防衛相らが意見を交わす「アジア安全保障会議」に、日本の総理大臣としては8年ぶりに出席し、日本時間の10日夜9時すぎから基調講演を行いました。

この中で岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、世界のいかなる国・地域においても対岸の火事ではないと指摘し、中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル活動を踏まえ「さまざまな問題の根本には国際関係における普遍的なルールへの信頼が揺らいでいる状況がある」と述べました。

そして「日本、アジア、世界に迫り来る挑戦と危機にはこれまで以上に積極的に取り組む」と述べ、インド太平洋地域の平和秩序の維持・強化に向け「平和のための岸田ビジョン」という構想を発表しました。

具体的な取り組みとしてODA=政府開発援助の拡充を含め「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための具体的な計画を来年の春までに発表すると表明し、今後3年の間で20か国以上で800人以上の海上安保分野の人材育成などを進めるほか、インド太平洋諸国に対し、巡視船の供与など3年間で少なくともおよそ20億ドルの海上安全保障に関する設備の供与などを行う考えを明らかにしました。

また日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、防衛費を相当増額するとともに、いわゆる「反撃能力」を含めあらゆる選択肢を排除せず現実的な検討を進めるとする一方、日米同盟の基本的役割分担は変更しないと強調しました。

さらに、各国との安全保障協力も積極的に進めるとして防衛装備品の移転について、シンガポールとの間で、協定の締結に向けた交渉を開始する意向を表明するとともに、ASEAN各国と引き続き協定の締結を進める考えを示しました。

また被爆地・広島が選挙区の総理大臣として「核兵器のない世界」に向けた取り組みを進めると強調し、すべての核兵器国に対し、核戦力の情報開示を求めていくとともに米中2国間で核軍縮に関する対話を行うことなどを各国と後押しすると強調しました。

このほか、安保理改革を含む国連の機能強化に向けた議論を主導するほか、経済安全保障の強化に向け、ASEAN諸国と今後5年間で100を超えるサプライチェーンの強じん化プロジェクトを進めると明らかにしました。

首相 “中国側は自国の軍事動向など透明性向上図ることが重要”

また日中関係について、岸田総理大臣は講演したあとの質疑で、両国の信頼関係を深める上で、中国側が自国の軍事動向など諸懸案に関する説明責任を果たし透明性の向上を図っていくことが重要だと指摘しました。

この中で岸田総理大臣は「日本と中国の関係はいまや日中双方のみならず、地域や国際社会全体の平和と繁栄にとって大変重要になっている。中国に対しては主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、建設的かつ安定的な関係を築いていく努力を双方が行っていくことが重要だ」と述べました。

そのうえで「日中関係にはさまざまな懸案が存在する。軍事動向についてもお互い透明性をしっかりと高めていくことによって説明責任を果たし、信頼関係をつくっていくことも重要だ」と指摘しました。

そして「大切な二国間関係を安定させるためにも意思疎通は重要だ。あらゆるレベルを通じて、対話や意思疎通を図ることによって、少しでも信頼関係をつくっていく努力をしていきたい」と述べました。

今月のドイツでのG7サミットなどで積極的な首脳外交展開の意向も

このあと岸田総理大臣は記者団に対し「平和の秩序が大きな挑戦を受ける中、日本がどのような役割を果たすべきかを発信する重要な機会となった。終わったあとの夕食会で多くの方から評価することばをいただき、手応えを感じている」と述べました。

そのうえで「世界が歴史の岐路に立つ中、ASEAN=東南アジア諸国連合をはじめ、志を同じくする国々と連携しながら構想を具体化すべく力強く外交を進めていきたい。国際社会の平和と繁栄の実現に向けて、G7サミットなどで日本としてどういった役割を果たしていくのか首脳外交でしっかり示していくことが重要だ」と述べました。

中国代表団 “中国がルールを破っていると暗示するもの”

岸田総理大臣の基調講演について、中国の代表団が会見を開き、中国軍のシンクタンク、軍事科学院で副院長を務めた何雷氏は「中国がルールを破ったり、武力や実力を行使して現状を変更したりしていると暗示するものだ」と指摘したうえで「もし、国の指導者が公の場で中国の主権や核心的利益を攻撃するなら、我々は完全に反論できる」とけん制しました。