コロナ感染で労災認定 昨年度1万9000件余 “後遺症”で認定も

新型コロナウイルスに感染し、労災と認められたのは昨年度、1万9000件余りで前の年度のおよそ4倍に増えたことがわかりました。
この中には感染後のいわゆる「後遺症」で労災認定されたケースも含まれていて、厚生労働省は「後遺症」の症状が続く場合は労災を申請してほしいとしています。

正社員や非正規雇用で働く人が新型コロナに感染し労災を申請した場合、厚生労働省は感染の経路を特定できなくても業務との関連性が認められれば原則、労災と認定しています。

労災と認められれば、指定された医療機関で原則として無料で治療を受けられるほか、仕事を休んだ時には一日当たりの平均賃金の8割が「休業補償」として給付されます。

また、亡くなった場合は遺族が労災を申請することができ認定されると遺族補償年金などを受け取ることができます。

厚生労働省によりますと新型コロナに感染し労災と認められたのは昨年度、1万9424件にのぼり、前の年度のおよそ4倍に増えたことがわかりました。

この中には感染後のいわゆる「後遺症」で仕事を休まざるを得なかったケースも含まれ、厚生労働省は後遺症の症状が続く場合は「罹患後症状」として労災と認定していて、申請をしてほしいとしています。

“後遺症”に苦しむ男性「理解不足の問題大きい」

新型コロナウイルスのいわゆる「後遺症」に苦しむ人からは会社に理解をしてもらうことが難しく職場への復帰ができないという声が出ています。

大型自動車のドライバーとして働いてきた40代の男性は、おととし11月、新型コロナに感染し肺炎で病院に入院しました。

肺炎の症状は1週間ほどで治まり退院しましたが、ひどい時には玄関のドアを開けるだけで疲れ切ってしまうほどの強いけん怠感や息苦しさがあったといいます。

また、意識がぼんやりとして、自分が話した内容をすぐに忘れたり信号を確認せずに車が行き交う交差点で横断歩道をわたってしまったりするなど、日常生活にも影響が出始めました。

このため改めて病院を受診した結果、去年3月に「後遺症」と診断されました。

男性は当時の状況について「血液が鉛のように重くなり、体じゅうを流れているような感覚が取れないし頭の中もずっと疲れているような状態で車の運転はまず無理だなと思いましたし、当たり前にふだんできていたことができなくなりました」と話しています。
男性は労災を申請し、ことし1月、労働基準監督署は仕事が原因で感染したとして「後遺症」による休業も含めて労災と認定しました。

現在男性は休業補償を受けているほか、治療を続けて症状は少しずつ改善しているといいます。

ただ、休業補償は休業する前の平均賃金の8割で収入は落ち込んだままの状態が続いています。同居している母親は介護が必要で男性は国の貸付金を80万円借り入れました。

できるだけ早く職場に復帰したいと思い、勤務先の会社とも相談しましたが、いまも続くけん怠感や筋力の低下について十分な理解が得られていないといいます。

男性はドライバーの助手から少しずつ職場に復帰したいと伝えましたが、会社からは荷物を運ぶ仕事を担当してもらうと言われたということです。

体を使って荷物を運ぶ仕事はけん怠感などの症状が出ると続けることが難しいと説明しましたが、会社からはこの仕事が難しければ勤務先を変えた方がいいと言われているといいます。

男性は「職場の同僚からも『まだ残っていたのか』などと言われ、相談する相手はいないんだなと感じました。理解不足という問題が大きいと思いますし、後遺症がどれほどつらいものなのか、少しでも分かってほしい」と話していました。

職場への復帰や再就職を支援する自治体も

新型コロナの「後遺症」の影響で仕事を失ったり休業を余儀なくされたりする人が相次いでいるとして職場への復帰や再就職を支援する自治体も出ています。

東京 世田谷区は、新型コロナの「後遺症」に苦しむ人から職場復帰や再就職への支援を求める声が多いため先月から区の窓口で相談などを受け付けています。

職場への復帰を進めるために社会保険労務士が症状に応じて、出勤日を減らしたり、負担の少ない業務にしたりする相談に応じていて勤務先との調整は東京都の労働相談情報センターと連携し行うことにしています。

また、再就職を支援するためにハローワークなどと連携し希望する職種の求人を紹介しています。

労災と認定されても収入の減少で生活が苦しくなる人も出ているため社会保険協議会とも連携し、国の貸付金などを紹介するということです。

職場に復帰してもけん怠感などの「後遺症」の症状が職場にきちんと理解をしてもらえずに悩んでいる人も少なくないためそうした相談にも対応していくことにしています。
世田谷区が去年12月、新型コロナの療養を終えた人にアンケート調査を行った結果、回答のあった6175人のうち、およそ54%が「後遺症があった」と回答しました。

アンケートでは「後遺症で退職を強要された」「仕事を辞めざるを得なくなった」「後遺症の症状がひどくなるたびに自費でのPCR検査を強要される」という声が寄せられました。
相談業務を担当している世田谷区の荒井久則課長は「後遺症の患者がひとりで悩みを抱え込まないようにすることが重要だと思っています。丁寧に話を聞き、支援制度を紹介し、解決に向けたサポートを行っていきたい」と話していました。

専門家「支援を求めることができる仕組み必要」

厚生労働省が設置した感染症の専門家などでつくる委員会は先月「後遺症」についての「診療の手引き」を改訂し、全国の医療機関などに周知を始めました。

この中では治療にあたる医師に対して、会社の産業医や人事労務の担当者などと連携し、患者の職場復帰を支援するように求め具体的な事例を紹介しています。

例えば「後遺症」の症状とみられるけん怠感や筋力の低下が続いているデパートの販売員の50代女性のケースでは、担当した医師が「長時間の立ち仕事は体への負担が大きい可能性があるため、当面は2時間に1回程度、休憩をはさみ徐々に仕事の時間を延ばす方がよい」などという意見書を作成し、女性は職場に復帰することができたということです。

また、大手レストランのちゅう房で働く30代の男性は味覚に障害が残り、料理の味付けに悩みを抱えていたため、担当した医師が最初の3か月程度は別の業務に配置転換するよう会社に伝え、まず食材の盛り付けから仕事を再開するようになったと紹介されています。

手引きでは「後遺症」と呼ばれる「罹患後症状」について、一般的には時間とともに回復することが多いとしたうえで、仕事の内容を理解し、医学的な根拠や本人の申し出などにもとづいて職場復帰の手順や仕事を続ける上での配慮を医師が意見書などの形で企業に助言するよう呼びかけています。

手引きの執筆に協力した産業医科大学災害産業保健センターの立石清一郎教授は「患者が増えていることは間違いないので、症状の影響で仕事を続けることが難しくなる人が今後、増えていく可能性がある。また周囲に知られないまま苦しんでいる人も少なくないと思うので職場への復帰や再就職が難しい場合は支援を求めることができる仕組みが必要になると思う」と話していました。