“原因不明”子どもの急性肝炎 症状は?(5月13日現在)

イギリスやアメリカなどで幼い子どもを中心に報告が相次いでいる急性肝炎。
原因はまだはっきりせず、肝臓移植が必要になる子どもも出ています。
国内でもこの肝炎の可能性がある子どもは12人報告されています。

▽どのような症状が出るのか?
▽原因の究明はどこまですすんだのか?
▽求められる対応は?

分かってきたことをまとめました。(5月13日現在)

原因不明の子どもの急性肝炎 国内でも12人報告

4月25日、厚生労働省は原因不明の肝炎で16歳以下の子ども1人が入院していたことを明らかにしました。

「原因不明」というのは、A型からE型まで5種類ある肝炎ウイルスが検出されないのに子どもが肝炎になっているためで、厚生労働省は各地の自治体に対して、2021年10月までさかのぼって、検査で肝臓の酵素の値が高くなっていた16歳までの子どもがいないか調べて報告するよう求めています。

5月13日の時点で、国内では、欧米などで報告されている原因不明の急性肝炎の可能性がある患者は合わせて12人となっています。

1.急性肝炎とは?

急性の肝炎とはどのような病気なのか。

肝臓は、体に必要なたんぱく質を作って栄養分をためたり、有害な物質を解毒したり、食べ物を消化するのに必要な胆汁を作ったり、と幅広い役割をになっています。

急性肝炎は子どもから大人までかかる病気で、一般的にウイルスによって引き起こされます。

肝臓の機能が低下し、
▽皮膚などが黄色くなる「おうだん」
▽おう吐
▽全身の倦怠感
▽発熱などの症状を引き起こします。

国立国際医療研究センターのウェブサイトによりますと、1%から2%ほどの患者は急激に悪化し、肝臓移植が必要になることがあるとしています。

子どもがかかる場合は…

子どもの肝臓病に詳しい、近畿大学医学部の研究員で勇村医院の田尻仁医師によりますと、子どもでも、いわゆる「おなかのかぜ」のときに肝機能が落ちて肝炎になることがあるということです。

ただ、特に乳幼児ではあまり症状が出ず、原因がはっきりしない場合は、ビタミンを投与するといった対症療法で対応し、ほとんどは短期間で肝臓の機能が改善するということです。

通常、悪化するケースは少ないものの「おうだん」が悪化すると脳に障害が出ることがあるほか、肝機能が極端に低下すると出血を止めるたんぱく質を作ることができなくなり、極めてまれに肝臓の移植が必要になることもあるということです。

今回の原因不明の急性肝炎は、子どもでも症状が比較的重く、通常の肝炎とはやや特徴が異なっています。

2.子どもがかかった場合 どんな症状が?

原因不明の肝炎、どのような症状が出るのでしょうか。
WHO=世界保健機関によりますと、
▽肝臓の酵素の値が高くなっていて、
▽尿の色が濃くなったり、
▽便の色が薄くなったりするほか、
▽皮膚などが黄色くなる「おうだん」や、
▽下痢、
▽おう吐、
▽腹痛、
▽関節痛や筋肉痛といった症状が出る一方、発熱した子どもはほとんどいないということです。

イギリスやアメリカの詳細な症例報告では、患者の多くはおう吐や下痢、それにおうだんの症状が出ていて、重症になった子どもでは肝臓の移植が必要になったケースも複数報告されています。

海外で報告相次ぐ ほとんどが10歳未満 肝臓移植を受けた例も

WHOによりますと、症状が出ているのは生後1か月から16歳までの子どもだとしています。

患者の年齢は10歳未満が大多数で、およそ半数は3歳から5歳だということです。

WHOによると、5月10日の時点で症状が出たと報告されているのは、イギリスやアメリカなどを中心に348人にのぼります。

アメリカのCDC=疾病対策センターは、5月6日、2021年10月までさかのぼって調べた結果、同様の肝炎と疑われる患者が109人見つかったと明らかにしました。

このうち90%以上が入院し、14%が肝臓の移植を受けたほか、5人が死亡したとしています。

患者の半数は2歳以下だということです。

イギリスの保健当局によりますと、イギリスではことし1月以降、5月12日までに176人が報告されていて、ほとんどが10歳未満だということです。

亡くなった子どもはいないとしています。

また、5月6日に発表した報告書によりますと、11人が肝臓移植を受けたということです。

3.原因は?

原因はどこまで分かっているのか。

WHOの専門家は、症状が出た子どもたちから、
▽A型からE型まで5種類ある肝炎のウイルス
▽細菌
▽毒物
▽薬物など、通常、原因になると考えられるものは見つかっていないとしています。

WHOによりますと、原因不明の子どもの肝炎は、多くの国で毎年数例ずつ起きているということですが、いくつかの国では明らかに増加しているのが認められるとして、症例の報告を求めるとともに各国の研究機関とともに原因の調査を進めるとしています。

アデノウイルスが原因か?新型コロナウイルスとの関連は?

この中で関与が指摘されているのが、のどの痛みや下痢などを起こす「アデノウイルス」です。

WHOが4月23日に出した報告によりますと、この時点で症状が出たと報告された子ども169人のうち、少なくとも74人からアデノウイルスが検出されていて、18人がアデノウイルスのうち41型と呼ばれるウイルスに感染していたということです。

また、19人についてはアデノウイルスとともに新型コロナにも感染していました。

一般にアデノウイルスは接触や飛まつを通じて感染し、主にのどの痛みなど呼吸器の症状が出ますが、アデノウイルス41型は呼吸器の症状とともに下痢やおう吐などの症状が出るということです。

ただ、免疫の状態が落ちている子どもたちがこのウイルスに感染した場合に肝炎になったとする報告はあるものの、健康な子どもたちに肝炎の症状が出るという報告はないとしています。

WHOによりますと、新型コロナの感染が世界的に拡大して以降、アデノウイルスの感染者が減っています。

このため感染していないひとが多い状態となっており、感染者が増える可能性が高いことや、新たなタイプのアデルウイルスの可能性などを調べる必要があるとしています。

一方で、症状が出た子どもの大多数は新型コロナのワクチンを接種していないため、ワクチンの副反応だとは考えにくいとしています。

英 保健当局「原因の最有力の仮説は『アデノウイルスの関与』」

また、イギリスの保健当局が5月6日に発表した報告書によりますと、アデノウイルスは検査を受けた126人のうち、72%にあたる91人から検出され、血液中から検出されるケースが多かったとしています。

また、132人のうち、18%にあたる24人からは新型コロナウイルスも検出されています。

原因として最も有力な仮説は「アデノウイルスの関与」ではあるものの、新型コロナウイルスの関与があるかどうかや他の毒物などが関わっていないかについて調べているとしています。

具体的な仮説としては、
▽「新型コロナのパンデミックの影響でアデノウイルスにさらされてこなかったために異常な反応が起きた」
▽「アデノウイルス感染による知られていなかった反応が起きた」
▽「新型コロナウイルスに感染したことで、アデノウイルス感染による異常な反応が起きた」
▽「アデノウイルスと新型コロナウイルスやほかの病原体との同時感染によるもの」
▽「重い肝炎を起こす新たなアデノウイルス」
▽「新型コロナウイルスの後遺症」などを挙げていて、これらの可能性について調べているとしています。
さらに、アメリカのCDCによりますと、2021年10月以降に見つかった109人のうち、半数以上からアデノウイルスが検出されたということです。

CDCの専門家はアデノウイルスについて「一般的に、健康な子どもでの肝炎の原因としては知られていない」としながらも、多くの患者から検出されていることから関連を調べるとともに、新型コロナウイルスとの関連なども幅広く調べるとしています。

4.日本の専門家“アデノウイルス 今の段階では断言できない”

肝炎への関与が指摘されるアデノウイルスについて、日本国内の専門家はどのように見ているのか。
子どもの肝臓病に詳しい、近畿大学医学部の研究員で勇村医院の田尻仁医師が確認したところ、子どもでアデノウイルスが関与して重症の肝炎になったとする報告はこれまでに世界で12例しかなく、このうち基礎疾患がないケースは2例だったということです。

田尻医師によりますと、通常の診療では、子どもの肝炎が分かった場合、A型からC型の肝炎ウイルスの検査は行うものの、それ以上の検査を行うことはまれで、原因がはっきりしないケースは多いということです。

一方で、アデノウイルスは遺伝子治療の際に、遺伝子をねらった場所に運ぶために使われることがあり、このときに血管に入ってしまうと肝臓に集まることが知られています。

ただ、遺伝子治療で使われるアデノウイルスと今回検出されているアデノウイルスはタイプが異なります。

また、アデノウイルスに詳しい大阪大学大学院薬学研究科の中川晋作教授によりますと、自然に感染するウイルスの量は遺伝子治療で使われる量より少なく、肝臓に集まって体に悪影響を及ぼすことは考えにくいとしています。

中川教授は「アデノウイルスは古くから研究が重ねられてきているので、仮にアデノウイルスが原因で肝炎が引き起こされるのであれば以前から同じような事例が数多く報告されていたのではないか」と話し、アデノウイルスが原因だとは今の段階では断言できないとしています。

国立感染症研究所「急速に感染者増加する状況ではない」

国立感染症研究所は5月9日の時点で「報告のあった各国で症例が著しく増加している兆候はなく、患者の周囲に容易に感染し、急速に感染者が増加するような状況ではない」としています。

そのうえで「国内でも小児の重症肝炎が増加している兆候はなく、また、可能性のある原因の1つとして挙げられているアデノウイルスが国内で通常想定される以上に流行している兆候もない」としていて、今は症例があるか調べる段階だとしています。

5.わたしたちが気をつけることは?

日本小児肝臓研究会の運営委員長で、近畿大学奈良病院小児科の虫明聡太郎教授は、子どもで重症の肝炎は年間20例程度あり、このうち半数ほどは原因が分からないとしています。

そのうえで「ここ数年で小児の急性肝炎が増えているような印象は持っていない。WHOが提唱している基準で報告を求めている国の調査は注意して見ていく必要があるが、幅広い症状の患者が当てはまる可能性もある。原因不明の重症の肝炎が子どもで増えているのか、研究会として詳細に調査したいと考えている」と話しています。

また、田尻医師は「WHOが情報発信をしているので、状況を確認することは大切だ。ただ、欧米で報告されているようなケースが日本で相次ぐかどうかは分からず、それほど怖がらずに様子を見てほしい」と話しています。

そのうえで、何か気をつけることはあるのか。

「症状が出たらすぐに医療機関に」「手洗いをしっかり」

子どもの肝臓病に詳しい茨城県立こども病院の須磨崎亮名誉院長は「子どもではA型からE型の肝炎には該当せず、原因がはっきりしない急性肝炎がしばしば起きるので、実際に件数が増えているのか、国や専門家がよく調べる必要はあるが、今の時点では一般の保護者が過度に心配する必要はないのではないか」としたうえで「子どもに『おうだん』の症状が出たり、おう吐や下痢で元気がなくて水分が取れない状態になったりすれば、すぐに医療機関を受診してほしい。アデノウイルスはありふれたウイルスなので、すぐには原因だとは断定できないと思うが、飛まつを通じてだけでなく接触感染で広がることも多いので、手洗いはしっかりしてほしい」と話しています。