「ゼロコロナ」継続で解除見通し立たず 物流停滞示すデータも

中国の上海で、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むための厳しい外出制限が本格的に始まってから、28日で1か月です。

感染拡大に歯止めがかからず、制限が解除される見通しが立たない中、多くの市民が不自由な生活を強いられていて「ゼロコロナ」政策を続けてきた習近平指導部は難しいかじ取りを迫られています。

中国の上海では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、先月28日から厳しい外出制限が本格的に始まりました。

このところ感染者数は減少傾向にあるものの、27日も一日に1万622人の感染者が確認されるなど、連日1万人を超えていて、外出制限が始まってから1か月たった今も、感染拡大に歯止めがかかっていません。

住宅地では感染者が1人でも確認されると、その付近での外出が14日間制限され、今も多くの地域で制限が解除される見通しがたっていないのが現状です。

また上海中心部では、警察官や配達員以外は人の姿がほとんど見られません。

こうした中で食料などの生活物資の調達が難しい地域もあり、多くの市民が不自由な生活を強いられています。

一方、首都 北京でも感染者が増え始めていて、今月25日以降、人口の9割にあたるおよそ2000万人を対象に、順次合わせて3回のPCR検査を実施していて、一部の地域では外出制限も行われています。

北京市の当局は、27日も50人の感染者が確認されたとしていて、28日、新たに2つの地域を外出制限の対象にするなど厳戒態勢を続けています。
習近平指導部は、徹底的に感染を抑え込む「ゼロコロナ」政策を今後も堅持する姿勢を変えていませんが、上海を中心に市民生活や経済に影響が広がっていて、難しいかじ取りを迫られています。

感染者が1人でも確認されると…続く外出制限

上海市の西部にあるNHKのカメラマンが住むマンションでは、防護服姿の配達員が時折荷物を届けに来る以外、屋外での人の動きはほとんどありません。

また、周辺の道路では、物資を配送する車やバイク、それに付近を巡回する警察車両が走る以外、閑散とした状態が続いています。
このマンションでは、これまで1か月以上、感染が確認された人は出ておらず、マンションの敷地内に限って移動が認められていました。

しかし27日、全住民を対象にしたPCR検査を行ったところ、一部の住民に再検査を行う必要が出てきたとして、急きょ28日朝になって、部屋の外に出ないよう当局から通知がありました。

当局は、感染者が1人でも確認された場合、14日間の外出制限を続けるとしていて、さらに長期にわたって不自由な生活を強いられることも予想されます。

「『ゼロコロナ』政策は実現不可能では」上海市民が語る

上海で厳しい外出制限が続く中、市内に住む40代の女性がNHKのオンラインでのインタビューに匿名で応じ、中国政府の対応に疑問を呈しました。
この女性は、夫と2人の子どもとともに、日本人も多く住んでいる上海の西部の地域に住んでいます。

この地域の外出制限は、当初は数日で終わると見込まれていたため、女性はあまり食料を買い込まなかったということで「1週間後には冷蔵庫が空っぽになり、怖くなった」と話しました。

現在は、集合住宅に住む住民が、共同で食材を購入できるようになりましたが、ほかの生活必需品は手に入れづらいということで「健康に問題を抱える人は、薬が手に入らずに大変かもしれない。上海市当局から供給される物資はあるが、携帯電話を使えない高齢者や出稼ぎ労働者、中国語を話せない外国人には届かないのではないかと心配している」と述べました。

そのうえで、中国政府の対応について「いつまで外出制限が続くのか説明をしないから、不信感や不安ばかりが募っている。『ゼロコロナ』政策は、こんなに大きな代償を払い国民の信頼も失ったまま進めていくのであれば、わりに合わないと思うし、実現は不可能なのではないかと感じている」と疑問を呈していました。

日系の物流会社「約5割~6割減 日本への影響も大きく」

厳しい外出制限の影響で、上海にある日系の物流会社も難しい対応を迫られています。

荷物の仕分け作業は倉庫と同じ敷地内にある施設で寝泊まりする従業員しかすることができず、この会社では防護服を身につけた担当者が荷物を消毒して仕分けにあたっていました。
また、倉庫に荷物を配送する人員が不足しています。

外出制限で運転手の確保が難しいことに加え、当局が発行する通行許可証の数が限られているためです。
さらに、荷物を運ぶトラックが港や市外とを行き来する高速道路では渋滞が起きています。

運転手に48時間以内に行ったPCR検査の陰性証明を求めるなど厳格な管理が続いているためです。

会社では上海以外の港や空港を活用したり鉄道輸送に切り替えたりして影響を最小限に抑えるよう努めていますが、仕分けから配送にいたるまでさまざまな業務に影響が出ています。

生産活動が停止していることもあって、日本向けの電子部品などの輸送も遅れているということです。
NX国際物流中国の下小野田恒副社長は「上海に関係する物流は5割から6割ぐらい減っている感じで、日本の消費者や工場の稼働に与える影響も非常に大きくなっている。情報収集して適切な事業継続計画を実行し非常事態を乗り切りたい」と話していました。

上海港の物流停滞 データで明らかに 専門家「混乱長引くのでは」

上海で国際的なサプライチェーン=供給網の拠点になっている港の物流が停滞する実態がデータによって明らかになりました。
長期化すれば、影響がさらに広がることが懸念されます。

上海港はコンテナの取り扱い量で世界最大の港で、国際的な物流の要になっています。
しかし、上海で続く厳しい外出制限でトラック運転手が不足していることなどから港の作業の稼働率が落ちて貨物船の動きが停滞していると指摘されています。

NHKは今回、衛星データの解析などを行う「IHIジェットサービス」から海や河川を航行する船舶の位置情報のデータの提供を受け、これをもとに貨物船の動きの分析を独自に進めました。
上海で外出制限が始まる前の先月1日の時点では貨物船の動きは活発で、入港のため船が待機する沖合の区域内で確認できた貨物船の数は、一日でおよそ730隻でした。
これに対して、今月16日時点で確認できた貨物船の数はおよそ940隻と3割近く増え、沖合にとどまる船が目に見えて多くなっています。
これについて国際物流に詳しい拓殖大学の松田琢磨教授は「上海の港の機能が低下した結果港から出入りしにくくなって沖合で待つ貨物船がとても多くなっている」と述べて入港できず待機を余儀なくされた貨物船によって混雑している状態だと指摘しました。
そのうえで松田教授は「こうした状態が続くと中国から各地に部品や最終製品が届かず、コロナ禍の物流の混乱を長引かせてしまうのではないか。外出制限が解除されたとしても港に荷物がたまっているので回復には1か月程度はかかるだろう」と話しています。

中国での物流の混乱によってすでに日本でも一部の企業が工場の一時停止や減産を余儀なくされる事態が起きています。

中国政府は「上海港での船の運航は比較的正常だ」としていますが、国際的なサプライチェーンへの影響が一段と広がることが懸念されます。