円相場 財務大臣と日銀総裁 発言変化の背景は?【経済コラム】

外国為替市場では円の独歩安が続いています。この円安を政府や日銀はどう受け止めているのでしょうか。最近の財務大臣と日銀総裁の発言の微妙な変化から背後にある真意を探ります。(経済部記者 白石明大)

外国為替市場のドル円相場では3月に入ってから円安が加速し、4月28日には日銀が金融緩和策の維持を公表したことで1ドル=131円台まで値下がり。

20年ぶりの円安水準を更新しました(4月28日午後7時時点)。

およそ2か月で15円程度円安が進んだのです。

金融市場の変動が大きいとき、通貨当局者の発言は投資家のあいだで特に注目されます。発言1つで市場が動くからです。

私たち金融を担当する記者も当局者の発言内容は注意深くチェックしていますが、発言内容の変化を追うと、真意が透けて見えるときがあります。

財務相 配慮された発言

ことし3月22日。円相場はおよそ6年1か月ぶりに1ドル=120円台まで値下がりしました。

アメリカFRBのパウエル議長が講演で利上げ幅を2倍にする可能性を示唆したことを受けて、市場で日米の金利差の拡大が意識され、円を売る動きが強まったのです。

この日の鈴木財務大臣の発言です。
「為替の円安方向の動きにより、輸出企業の収益は改善する。その一方で、輸入物価の上昇を通じて、企業や消費者の生活にも負担増となり得るなど、プラスとマイナス面双方の影響がある。引き続き、為替市場の動向や日本経済への影響を見ていかなければならない」

円安のプラスとマイナスの両面を語り、市場に影響を与えないよう、配慮された回答といえるでしょうか。

ぶれない黒田発言が円安に

一方、日銀の黒田総裁は3月18日の金融政策決定会合後の記者会見で一貫した金融政策に対する姿勢を語りました。
「必要があればちゅうちょなく金融緩和を行う」
「円安は経済・物価ともにプラスに作用するという基本的な構図に変わりはない。円安がすべて経済にマイナスというのは間違い」

一連の発言で、市場では円安容認ではないかと受け取る投資家からの円売りドル買いを誘いました。

4月13日、信託大会で黒田総裁は「現在の強力な金融緩和を粘り強く続ける」と発言したことを材料に市場では金融緩和が当面続くとの見方から円安が加速。この日、1ドル=126円台をつけ、20年ぶりの円安となりました。

黒田総裁の発言は終始一貫しているのですが、金利差を意識する投資家たちは円売りサインと敏感に反応する傾向が強まっているようです。

悪い円安の定義に言及

これに対して市場関係者が身構えたのは4月15日の鈴木財務大臣の発言でした。
「円安が進んで、輸入品などが高騰している(中略)それに応じて原材料を十分価格に転嫁できないとか、買うほうも賃金が伸びを大きく上回るような補うようなところまで伸びていない環境については悪い円安というふうに言えるんだと思います」

「悪い円安」について、鈴木大臣が初めて定義づけしたと市場で受け取られました。

かなり踏み込んだ発言だと私も取材していて感じました。

黒田総裁、若干の軌道修正?

この財務大臣の発言を受けたのかどうか、真意は分かりませんが、これまで「円安は総じてプラス」と述べてきた日銀の黒田総裁も3日後の18日の国会答弁で急速な円安が進むことのマイナス面について触れます。
「円安が日本経済全体にプラスという評価はさまざまなシミュレーション分析を行った結果です。基本的なところは変わっていない。ただ最近の急速な円安は(中略)かなり急速な為替の変動です。企業の事業計画の策定に困難をきたす恐れがあり、そういう意味でマイナスも考慮しなければならない」

黒田総裁も鈴木大臣の警戒感を受けて、若干の発言の軌道修正を迫られたのではないかとある市場関係者は語っていました。

数字をもって示した

その後、鈴木大臣は4月21日、ワシントンで開かれたG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議でアメリカのイエレン財務長官と会談。

会談後、記者団に「私からは直近の円安がやはり急激だということを数字をもって示した」と発言しました。

通貨当局トップどうしの話し合いはベールに包まれているもの。それが具体的な数字を示したということまで公言するのは驚きをもって受け止められました。

ある市場関係者は「円安を食い止めたいという意志の表れだろう」と話していました。

物価高と選挙への影響を警戒

こうした鈴木大臣の発言の真意について、ある政府関係者は次のように述べています。
政府関係者
「原材料価格が高騰する中で、食料品を中心に値上げが広がり始めている。一方、コロナからの経済回復が途上で賃金上昇が進まない中、円安が進みすぎると、家計の負担が増大してしまう。物価高に対する不安が夏の参議院選挙にも影響しかねないことを政権内では警戒する声があがっている」

あくまで景気下支え

一方、日銀は4月28日の会合で大規模金融緩和の維持を決定。さらに10年ものの国債を0.25%の利回りで無制限に買い入れる「連続指値オペ」を毎営業日実施するという驚きの措置も打ち出しました。

黒田総裁はそのねらいについて「長期金利の上限をしっかり画する」と述べました。

ある市場関係者は「今回の指し値オペの常態化は、日銀としてかなり踏み込んだものだ。黒田総裁としては今の金融緩和政策は為替目的ではなく、あくまで経済を下支えするためのもの。この景気状況では政策を変えるべきではないという確固たる信念の表れだろう」と話していました。

物価高がさまざまな影響を及ぼすことに警戒感を高めつつある政府と金融緩和の継続を強調する日銀。

微妙な発言の違いにそれぞれの立場での思いがにじみ出ています。
来週の日本は大型連休の真っ最中ですが、市場の注目はなんといっても日本時間の5日未明に公表されるアメリカのFOMC・連邦公開市場委員会です。パウエル議長は4月21日に開かれたワシントンの会合で、通常の2倍にあたる0.5%の利上げに言及するなど金融引き締めを加速させる意向を示しています。パウエル議長の利上げ姿勢に対する発言の変化にも市場の関心が高まっています。

連休明けは大手企業の本決算が相次ぎます。