世界的な天然ガスの価格高騰 国の有識者会議で調達戦略を議論

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻からまもなく2か月となる中、世界的に天然ガスの価格が高騰しています。経済産業省は22日、有識者による会議を開きエネルギーの調達戦略を議論しました。

世界有数の天然ガス産出国、ロシアによる軍事侵攻で供給不足の懸念が広がっています。

日本がアジアで調達しているLNG=液化天然ガスのスポット価格は先月7日には去年の同じ時期のおよそ14倍まで上昇し、過去最高を記録しました。

今週も去年の同じ時期のおよそ3倍前後の水準で推移しています。

こうした中、経済産業省は22日に有識者会議を開き、エネルギーの調達戦略を議論しました。

LNGの多くは発電所の燃料として使われており、国の担当者はこのような価格高騰が続き、調達が難しくなれば来季の冬の電力需給は深刻になると説明しました。

さらにロシアからパイプラインで天然ガスの供給を受けているヨーロッパ各国が代わりにアメリカなどからLNGでの調達を増やすようになれば競争が激しくなり、日本にとってLNGの確保がさらに難しくなる可能性を指摘しました。

有識者からは「脱炭素の中でも国の支援で資源開発を進めることが重要だ」とか「LNG火力だけでは十分でなく再生可能エネルギーの拡大、原子力発電の稼働も含めて供給力を増やしていくべきだ」といった意見が相次ぎました。

新電力に新規の申し込み殺到 受け付け停止に

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などで天然ガスの価格が高騰、電気料金が高止まりしている今「新電力」の事業にも影響が及んでいます。

このうち沖縄を除く全国で2万世帯余りに電気を販売している新電力の「リミックスポイント」には先月以降、新規の申し込みが殺到しました。

ほかの新電力が小売事業から撤退し、契約の切り替えを求める動きが広がったためです。

しかしロシアによるウクライナへの軍事侵攻などの影響で電力の調達コストが高騰している中、収益を確保できる見通しが立たないとして、この会社は今月7日から新規の申し込みの受け付けを停止しました。

この会社は発電事業者と個別に契約を結んで電力を調達しています。

その量には限りがあり新規の利用者に対しては電力の卸売市場から調達して供給する必要がありますが、価格高騰のため新規の顧客向けに電気を供給すると赤字になってしまうといいます。
リミックスポイント・エネルギー事業部の中込裕司事業部長は「電気を求めるお客様に安定的に届けるのが我々の使命で、それができない今の状況は本当に悔しい思いだ。少なくともウクライナ情勢をめぐる影響が落ち着くまでは新たな申し込みは受け付けられない」と話していました。

民間の信用調査会社帝国データバンクによりますと、去年4月時点で国に登録されていた「新電力」は706社。このうち昨年度・2021年度に倒産したのは14社にのぼり、2016年に電力の小売りが全面自由化されて以降、最も多くなりました。

新電力で倒産や事業からの撤退が増える背景には、電力価格の高騰があります。

発電所を持たない多くの新電力は主に電力卸売市場から電力を調達しますが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で火力発電の主な燃料であるLNG=液化天然ガスの価格が高騰し、卸売市場に供給される電気も高くなっています。

電力の卸売市場で先月取引された価格は1キロワットアワー当たりの平均でおよそ26円と去年の同じ月と比べて4倍以上になっています。

国内のエネルギー企業 危機感強める

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、LNG=液化天然ガスの需要が一段と高まる中、国内のエネルギー企業は危機感を強めています。

資源開発大手INPEXは、日本のLNGの輸入量のおよそ1割を取り扱っていて、権益を持っているオーストラリアとインドネシアのガス田からLNGを調達しています。

そして、需要に対して足りない分は必要に応じて、そのつど買い付ける「スポット」と呼ばれる市場から買っています。

しかし、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のあと、アメリカ産のLNGの多くが脱ロシアを進めようとしているヨーロッパに向かうようになり、アジアにまわる量は減ってきているということです。

こうした中、会社では、スポット市場の動向をめぐって週に1回、会議を開いていて、取り引きの拠点を置くシンガポールや、オーストラリアの担当者などが対応策を議論しています。

さらに会社が気にしているのは、世界でLNGの輸入量が多い中国の動向です。

現在は新型コロナウイルスの影響で需要が落ち込んでいますが、会社では、中国が今後、LNGの調達を大幅に増やした場合でも、日本向けのLNGを安定的に確保できるよう情報収集に努めることにしています。
グローバルエネルギー営業本部の岡本元太ジェネラルマネージャーは「LNGはすぐには増産できず、当面は限られたパイを奪い合う構図は避けられない。開発に加え調達も強化していき、需要に応えられるようにしていきたい」と話しています。

専門家 「エネルギー政策の総点検が必要」

エネルギーの専門家、ポスト石油戦略研究所の大場紀章さんは、今回の事態について「オイルショックに匹敵する。ヨーロッパなど、もともとロシアから天然ガスを買っていた国が買うのをやめようとしているという、過去に前例のない危機だ」と述べました。

また「エネルギーの調達先のリスク分散が常に重要だが、日本においては、中東に偏りすぎていたエネルギーの調達先を分散するために、ロシアからの調達を増やしていたということだった。しかし、そのロシアがこういう状況になってしまった。次に、どこに手を出せばいいのか非常に悩ましい問題だ」と指摘しました。

そのうえで「エネルギー安全保障の担保というもの自体が見直しの対象になるだろうと思う。ヨーロッパでガス需要を減らすための省エネ技術での協力や、原子力の位置づけなども含め、エネルギー政策の総点検が必要だ」と話していました。