目の画像診断にAI活用 病気の早期発見や見落とし防止も

人工知能=AIを医療に応用する研究は世界中で進められていて、最も進んでいる分野の1つが、AIに病気の患者の画像データを学習させ医師の判断に生かす画像診断です。特に、目の画像を元に診断することが多い眼科では、病気の早期発見や病気を見落とさないようにするためにAIを活用する動きが進められています。

自治医科大学の高橋秀徳准教授のグループは、AIを使って目の奥の眼底の検査で撮られた写真から、病気の疑いがあるかどうか瞬時に調べるシステムを4年前、開発しました。

システムでは100種類の病気の疑いがあるか判定でき、医師の診断に生かしているということで、病院で行われる健康診断で導入したところ、診断にかかる時間が3分の1ほどになったほか、病気の見落としも減ったということです。
また、広島大学寄附講座教授の田淵仁志医師のグループは、糖尿病が原因で網膜が傷つき失明に至ることもある「糖尿病網膜症」のおそれがあるかどうか、眼底の写真から自動で判定するAIの開発を進めていて、内科を受診する糖尿病患者についてAIを使って調べることで、糖尿病網膜症を早期に発見しようとしています。

AIが正しく判定する精度にはまだ課題があるものの、関連する病院で実用化を目指した臨床研究を進めているということで、国内でも医療現場でAIを活用する動きが進められています。

AIのシステム 緑内障など100種類の病気の可能性示す

自治医科大学の高橋秀徳准教授の研究グループは、目の奥にあって明るさや色、形などを感じ取る網膜に異常がないかをみる眼底検査で撮られた写真をAIに学習させて病気の疑いがあるかどうか調べるシステムを開発し、病院で行われる健康診断で使っています。

研究グループは、大学病院に保管された10年間およそ50万人分の患者などの眼底検査の写真と、実際に眼科医が診断した結果をAIに学習させ、目の病気の疑いがあるかどうか調べるシステムを4年前に開発しました。

システムでは、眼底検査で撮影した写真を読み取ると、AIが網膜に出血がないかや目の奥にある血管や神経に異常がないかなどを識別し、どのような病気の可能性があるかを示します。

対象となる病気は、視野がだんだん狭くなって失明するおそれがある「緑内障」や、目の中でレンズの役割をする水晶体が濁って視力が低下する「白内障」、それに糖尿病が原因で網膜が傷つき失明に至ることもある「糖尿病網膜症」といった目の病気から、高血圧や動脈硬化といった全身の病気まで100種類に上るということです。
AIが示した病気の可能性が実際の医師の診断と一致する確率は80%を超えていて、大学病院の「健診センター」で導入した結果、医師の診断にかかる時間が3分の1ほどに短縮され、病気の見落としも少なくなったということです。

目の病気の診断にAIを活用するシステムは、アメリカで糖尿病からくる網膜症を見つけるものが実用化されていますが、高橋准教授は100種類の病気を一度に判定できるシステムは世界で初めてだとしています。
高橋准教授は「これまでは1時間くらいかけて30人ぐらいの眼底写真を見ていたので、負担は軽くなった。AIが示した病名が信じられないときもあったが、画像をよく見ると、小さな出血を見逃していたことに気付くこともあった」と話しています。

システムは医療機器として国の承認を得ていないため、今は患者の自己負担で行う健康診断などでしか使えないということで、高橋准教授は医療機器メーカーと共同で広く使えるよう製品化を目指しています。

高橋准教授は「一般的な目の病気であればAIの診断の精度は研修医よりも高いが、珍しい病気ではまだ不十分なので、経験豊富な眼科医のレベルにまで高めたい。広く全国で健康診断や一般のクリニックでも使えるようにしていきたい」と話していて、将来は画像を見て診断できる医師が少ない地域でも、遠隔で患者の診断ができるようにしていきたいとしています。

緑内障で通院の女性「AIで早く指摘 導入はとてもいい」

自治医科大学の眼科では、おととし6月から附属病院の健診センターで眼底検査を受けた人について、AIのシステムを活用して目の病気がないか調べています。

一日に調べる数は30人分ほどで、AIのシステムで病気の可能性が指摘され、その後、医師が診断して病気があることが分かり治療を始めた患者も複数通院しているということです。

このうち、緑内障の可能性があることが分かり通院している58歳の女性は、目薬を毎日使い症状の悪化を防ぐことができているということです。

女性は「目が痛んだり視野が狭まったりするような自覚症状はありませんが、AIで病気の可能性を早く指摘してもらえれば、専門の医師に診てもらおうと思うので、導入はとてもいいと思います」と話していました。

眼科以外でも

病院の診療科どうしで連携し、眼科以外でもAIによる目の画像診断を行うことで、病気の早期発見につなげる動きも出ています。

広島大学で寄附講座教授を務める田淵仁志医師のグループは、糖尿病が原因で網膜が傷つき失明に至ることもある「糖尿病網膜症」のおそれがあるかどうか、眼底検査の写真から自動で判定するAIの開発を進めてきました。
糖尿病網膜症は自覚症状がなく進行するため治療が遅れるケースが多いにもかかわらず、国立国際医療研究センターなどの調査では、糖尿病患者の60%は目の検査を受けていないとされていて、田淵医師は糖尿病患者が内科を受診する際にAIを使って糖尿病網膜症のおそれがないか診ることで早期発見に役立てようとしています。

ただ、精度には課題があり、糖尿病の患者の眼底の写真70枚をAIにかけたところ、糖尿病網膜症と判断された写真の半数余りは専門の眼科医がこの病気だと判断したものと一致しましたが、中には糖尿病網膜症ではないのに病気と判断したり、見逃したりしたものもあったということです。
田淵医師は、AIだけで判断するのは難しいものの、眼科を受診していない人で糖尿病網膜症の可能性がある人を見つけ出すためには一定程度有効だとしていて「的を射た受診勧奨になるのは間違いないので、患者も受け入れやすいと思う」と話しています。

また、グループでは、手術の際に左右の目を間違えるなどといった単純なミスがあるとAIが警告を発するシステムも開発していて、特に、正解がはっきりしている課題については医療現場でAIが果たすことができる役割は大きいとしています。

田淵医師は「通常であれば、誰もが間違えないようなものすごく簡単なことを人間は間違えてしまうことがあるので、その部分をAIが支えていくといった活用の方法が、現状ではいちばん最適だと思う」と話しています。

「日本眼科学会」でAI関連の発表相次ぐ

目の病気の診療に関わる研究成果を発表する「日本眼科学会」が大阪で開かれ、AI=人工知能を使った最新の診断技術などが紹介されました。

大阪市北区の大阪国際会議場で今月14日から17日まで開かれた日本眼科学会の総会には、目の病気の診断や治療の研究などに取り組む全国の医師や研究者らおよそ8000人が参加し、最新の研究成果などが発表されました。

注目を集めた研究分野の1つが、AI=人工知能を使った診断技術などで、14日に開かれたシンポジウムでは、自治医科大学の高橋秀徳 准教授がAIを活用して目の検査の画像から病気の疑いの有無を判定したり視力を推定したりする研究について最新のデータを公表しました。

またシンポジウムでは、AIを病気の診断に利用する上での注意点など、社会で活用する仕組み作りについての発表もあり多くの研究者の注目を集めていました。