イギリス ロシア軍事侵攻で機密情報を積極開示 そのねらいは

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、イギリス政府は、通常は決して公にはしない機密情報を積極的に開示してきました。こうした姿勢は、アメリカ政府も同じで、情報を開示することで、欧米側はロシアの動向を把握していると機先を制するねらいとみられます。

このうちイギリス外務省は、軍事侵攻のおよそ1か月前にあたることし1月下旬の段階で独自の情報に基づく分析として、「ロシアが、欧米寄りのゼレンスキー政権を転覆させ、親ロシア派による政権の樹立を目指す動きがある」と発表しました。

ゼレンスキー大統領に代わる新しい指導者として元首相や元議員などの名前まで具体的に挙げ、ロシアの情報機関と接触しているなどと指摘しました。

また、イギリスの対外情報機関、MI6のムーア長官は、軍事侵攻が始まった2月24日ツイッターに投稿し、イギリスは、プーチン大統領によるウクライナへの侵攻計画のほか、ウクライナ側から攻撃を受けたかのような情報をねつ造する「偽旗作戦」についてもアメリカと協力して、明らかにしてきたと強調しました。

ムーア長官は、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャなどで多くの市民の遺体が見つかった今月上旬には「プーチン大統領の計画には軍や情報機関による即時の処刑が含まれていることはわかっていた」と指摘しました。
さらに、情報機関のGCHQ=政府通信本部のフレミング長官も先月講演で「ロシア軍の兵士が命令を拒否したり、みずからの装備を破壊したりと士気が低下している」と述べるなど、各機関が次々に機密情報を公表しています。

また、イギリス国防省は、ツイッターで、連日、戦況分析を公表し、ロシア軍の動きや攻撃のねらいなどについて、分かりやすく伝えています。

イギリスにとって、冷戦時代から、ソビエトは大きな脅威で、MI6は、KGB=国家保安委員会としれつな情報戦を繰り広げてきたとされています。

冷戦終結後も、2006年には、ロシアの元工作員が亡命先のロンドンで死亡し、体内から猛毒の放射性物質、ポロニウムが検出されたほか、2018年には、イギリス南部で別の元工作員と娘が意識不明の状態で見つかっています。

いまもロシアを脅威と捉えるイギリスの情報機関は、モスクワなどに多くの情報工作員を潜り込ませているとみられ、今回の軍事侵攻を巡っても情報収集と分析に力を入れています。

イギリス国防省 諜報部門 元高官は

イギリス国防省の諜報部門に高官としておととしまで所属し、40年近くにわたってイギリスのインテリジェンスの分野で中心的な役割を果たしてきたポール・リマー氏がNHKのインタビューに応じました。

現在、キングス・カレッジ・ロンドンで客員教授を務めるリマー氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、イギリスが、機密情報を積極的に開示してきたねらいについて「ロシアの偽旗作戦などに対して先手を打って情報を発信することでロシアの立場を弱め、ロシアの政権内の足並みを乱すことだ」と指摘しました。

また、「イギリスには、長年にわたって経験を積んだ情報機関があるが、今回、特に重要なのはアメリカと信頼し合うことで情報が強化されたことだ」と述べ、イギリスの情報機関は、ウクライナ情勢を巡りアメリカ側と連携を強め、積極的に情報を交換していたとしています。

さらに、リマー氏は、2006年、プーチン政権を批判してイギリスに亡命していたロシアの元工作員が暗殺された事件や、2018年に元工作員の男性などへの暗殺未遂事件が発生したことなどを指摘したうえで、「プーチン政権とは普通の関係を築けないことが明らかになり、プーチン大統領のねらいと意図を理解することに多くの資源と労力をつぎ込む必要があった」と述べロシアに対する諜報活動に一層力を入れることになった背景について明らかにしました。

一方、リマー氏は、プーチン政権の今後について、「あすにでもプーチン政権が倒されるというのはおそらく希望的観測で、今後、政権側は、ウクライナとの戦争に勝利したかのようなストーリーを打ち出すかもしれない。政権への影響は、ロシア国民に制裁の効果が出てきてからだが、実際にそれが出るまでには時間がかかる。半年後や1年後、どういう状況になるかは未知数だ」と述べました。