ウクライナ ロシア軍の東部攻撃を警戒 化学兵器への懸念強まる

ロシアの軍事侵攻が続くウクライナの国防省は、ロシア軍がまもなくウクライナ東部に大規模な攻撃を始める情報があるとして、警戒を強めています。また、東部マリウポリの防衛にあたるウクライナ軍は「ロシア軍が有毒な物質を使った」とSNSに投稿し、ロシア軍が化学兵器を使用することへの懸念が強まっています。

ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部への攻勢を強めていて、ロシア国防省は11日、東部ドネツク州の各地を攻撃し、ウクライナ軍の司令部施設をミサイルで破壊したと発表しました。

こうした中、東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長が11日、NHKのインタビューに応じ、ロシア軍の攻撃による市内の犠牲者は2万人を超えるという見方を示しました。

これは、軍事侵攻前のマリウポリの人口のおよそ5%にあたり、ボイチェンコ市長はさらに、10万から12万人の市民が今も避難できずにいると明らかにしたうえで「ロシア軍はバスや車が市外に出るのを認めず、検問所では市内に戻るよう命令している」と述べ、ロシア軍が市民の避難を妨害していると批判しました。

ウクライナ国防省の報道官は11日「敵はウクライナ東部への攻撃準備をほぼ完了させ、攻撃はまもなく始まるだろう。これは欧米側の情報に基づくものだ」と述べ、ロシア軍が近く、東部で大規模な攻撃を始めることに警戒感を示しました。

一方、東部マリウポリの防衛にあたるウクライナ軍の部隊は11日、SNSに「ロシア軍がマリウポリでウクライナ軍の兵士と市民に対し、有毒な物質を使い、複数の人が呼吸困難の症状を示している」などと投稿しました。

ロシアの通信社によりますと、ウクライナ東部を拠点とする親ロシア派武装勢力のバスーリン報道官は11日、東部マリウポリにある「アゾフスターリ」製鉄所に、最大で4000人のウクライナ兵がいるという見方を示しました。

そして、製鉄所には地下の施設があるとしたうえで、今後の戦闘について「製鉄所を封鎖し、すべての出入り口を探し出す。その後は化学部隊が敵をいぶり出す方法を見つけるだろう」と述べ、製鉄所を制圧するために化学兵器を使用する可能性に言及しました。

これについてアメリカ国防総省のカービー報道官は11日の声明で「われわれはロシア軍がマリウポリで化学兵器の可能性があるものを使用したとするソーシャルメディア上の報告を承知しているが、現時点では確認できず、引き続き、状況を注視する」としています。

専門家「化学兵器使用なら国際社会の信頼を裏切る行為」

ロシア軍が有毒物質を使用したというウクライナ軍のSNSへの投稿をめぐり、化学兵器の保有などを禁止する国際的な機関の査察官としてロシアを査察した経験がある専門家は「ロシアは条約に基づいて化学兵器を全て廃棄したとしているが、化学兵器が使用されたとすれば国際社会の信頼を裏切る行為だ」と話しています。

ロシアは化学兵器の開発や生産、保有などを禁じた化学兵器禁止条約の締約国で、5年前に国内に残っていた化学兵器をすべて廃棄したとしています。

これについて6年前までOPCW=化学兵器禁止機関の査察官として合わせて30回以上、ロシアの化学兵器を査察した藤井雅行さんは「当時、ロシア国内には化学兵器の廃棄作業を行う工場が6か所あり、私たちは現地で作業の詳しい状況を監視するとともに、廃棄された化学兵器の数を確認していた。ロシアは条約に基づいて化学兵器を全て廃棄したとしていて、化学兵器が使用されたとすれば国際社会の信頼を裏切る許されない行為で、怒りや、やるせなさを感じる」と話しています。

また、複数の人が呼吸困難の症状を示しているという情報を踏まえてもし化学兵器が使われたのだとすれば「塩素ガスやサリンといった神経系のガスなどでは呼吸が難しくなるケースがある」としています。