ウクライナ 東部の市民に避難呼びかけ 停戦道筋は険しさ増す

ウクライナに侵攻したロシア軍が東部への攻撃を強めるなか、ウクライナ政府は東部の市民にすみやかな避難を呼びかけ、緊張が高まっています。一方、首都近郊で多くの市民が殺害され、ロシアの責任を追及する声が広がっていることに対して、プーチン政権は対抗する姿勢を鮮明にし、停戦への道筋は険しさを増しています。

ロシア国防省は7日、ウクライナ東部のハルキウや南部のミコライウ、それに南東部のザポリージャなどにあるウクライナ軍の燃料施設をミサイルで破壊したと発表しました。

ロシア軍がインフラを攻撃する理由について、イギリス国防省は7日、ウクライナ軍の補給能力を弱め、ウクライナ政府への圧力を強めるねらいがあると指摘しています。

また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日、ロシア軍が近く、東部のルハンシク州とドネツク州で大規模な攻撃を行う準備をしている可能性があるという見方を示しました。

ウクライナのベレシチュク副首相は6日、ルハンシク州やドネツク州などの市民に対し「攻撃にさらされ助けられなくなる」として、すみやかに避難するよう呼びかけました。

またルハンシク州の知事も7日「この数日間が避難の最後のチャンスだ。敵は移動経路を断とうとしている」と強い危機感を示しました。

今回の軍事侵攻では、ロシア軍が撤退した首都キーウ近郊の町ブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかったほか、他の地域でもロシア側が市民を殺害した証拠を隠ぺいしようとしている疑惑が浮上し、欧米各国からは戦争犯罪だとしてロシアの責任を追及する声が広がっています。

国際的な批判に対して、ロシアのプーチン大統領は7日、国家安全保障会議を開き、ロシア大統領府は会議で「ウクライナ側による情報面での工作活動に対し、積極的に対抗する必要性が強調された」としています。

ロシア側は、ブチャなどで市民が殺害されているのが見つかったのはウクライナ側によるねつ造だと一方的に主張していて、プーチン大統領が対抗する姿勢を鮮明にした形です。

深まる対立は、停戦交渉にも影響を及ぼしています。

ロシアのラブロフ外相は7日の声明で「ウクライナ側が6日に新たな合意案を提示してきたが、それは先月29日、トルコでの交渉で話し合った内容から、最も重要な項目が明らかに逸脱している」などと批判しました。

ラブロフ外相は、ウクライナ側は新たな提案で、南部のクリミアや東部の主権の問題については首脳会談で協議されるべきだとする項目を追加したと、不満を示したうえで「交渉を遅らせ混乱させようとしている」と非難しました。

これに対し、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は「発言の意図を理解しかねる」と反論し、停戦への道筋は険しさを増しています。

ゼレンスキー大統領「ロシア軍を撤退させるには武器が必要」

ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、ギリシャの議会でオンライン形式の演説を行い、防空システムの供与などさらなる支援を求めました。

演説のなかで、ゼレンスキー大統領は「ロシアはマリウポリなど攻撃にあったウクライナの住民少なくとも数万人を強制的に移送している。ロシアは処罰されることなく何でもできると考えている」と述べ、ロシアが非人道的な行為を続けていると非難しました。

さらに「ロシアが各国の港を現状のまま使い続ければ、マリウポリだけでなくオデーサやほかの都市を破壊するミサイルや爆弾の資金を得るだろう」と述べ、経済制裁のさらなる強化を訴えました。

その上で「ウクライナはロシア軍を撤退させるために武器が必要だ。早ければ早いほどより多くのウクライナの人々の命を救うことができる」として、防空システムや砲弾、それに装甲車両などの供与をEUの国々に求めました。

リビウ市長「数千人の市民が避難民を自宅に」

ロシア軍の攻撃が比較的少なく避難民が集中しているウクライナ西部の主要都市、リビウのサドビー市長は7日、NHKのインタビューに応じ「きょうもドネツク州のスロビャンシクとクラマトルシクから3000人の避難民を受け入れた。学校や劇場、ジムなどを開放しているほか、数千人の市民が避難民を自宅に受け入れている」と述べました。

その上で「食料や衣服、それに医療の問題などに対処しようとしているが、とても難しい」と述べ、国際社会に対して、ウクライナ国内にとどまる避難民への支援を拡大するよう訴えました。

また、軍事侵攻の人的な被害について「ブチャの虐殺は異常なことだが、マリウポリの状況はさらに厳しく、5000人から6000人の市民が殺害されている」と強い懸念を示しました。

その上で「どこがロシアのミサイル攻撃の次のターゲットになるかはわからない」と述べ、東部や南部と比べて攻撃される回数が少ない西部の各都市でもロシア軍の攻撃を警戒し、緊張を強いられている現状を明らかにしました。

少なくとも1611人の市民が死亡

国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まったことし2月24日から今月6日までに、ウクライナで少なくとも1611人の市民が死亡したと発表しました。

このうち131人は子どもだということです。

死亡した人のうち、1119人はキーウ州や東部のハルキウ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州などで、492人は東部のドネツク州とルハンシク州で確認されています。

また、けがをした人は2227人にのぼるということです。

多くの人たちは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたり、負傷したりしたということです。

今回の発表には、ロシア軍の激しい攻撃を受けている東部マリウポリなどで確認がとれていない犠牲者の数は含まれておらず、国連人権高等弁務官事務所は実際の数はこれよりはるかに多いとしています。

431万人余が国外に避難

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシア軍の侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は、6日の時点で431万人余りとなっています。

主な避難先は、ポーランドがおよそ251万人、ルーマニアがおよそ66万人、ハンガリーとモルドバがおよそ40万人などとなっています。

また、ロシアに避難した人は、先月29日の時点でおよそ35万人となっています。