【全文】NATO ストルテンベルグ事務総長 単独インタビュー

ウクライナで続くロシアによる軍事侵攻を巡っては、首都キーウ近郊の町ブチャで多くの市民が殺害されているのが見つかるなど欧米各国の間ではロシアの責任を追及する声が強まっています。
こうした中、NATO=北大西洋条約機構の外相会議が6日から行われていて、日本の外務大臣として初めて林外務大臣が出席しています。
会議を前にストルテンベルグ事務総長がNHKの単独インタビューに応じました。
インタビューの内容を全文掲載します。

■ブチャなどで残虐行為が行われたことに疑いない

Q:事務総長はよく「NATOには独自の情報があり、ウクライナの状況を注視している」と話しています。
ブチャで市民を殺害したのはロシア軍で、殺されたのは一般の人々だと確信していますか?
NATO ストルテンベルグ事務総長:
「われわれにはさまざまな情報がありますし、商用衛星やメディア情報など、公開されている情報も見ています。
これらを総合すると、ブチャやそのほかの場所で、残虐な行為が行われたことに疑いはありません。
標的となっているのは市民、住宅地、学校、病院などです。
ブチャで殺害された人の中には、両手を縛られていた人もいました。
非常に深刻な状況ですし、戦争犯罪が行われたことがますます明白になってきています。
だからこそ徹底的な捜査と司法手続きが行われることが重要です。
NATO加盟国は事実を明らかにし、責任者を司法の場に連れてこようとする国連やICC=国際刑事裁判所の取り組みを支援します」

■今回の外相会議で さらに何ができるか話し合う

Q:ウクライナは軍事的な支援を求めています。
NATOはすでに多くの支援を提供していますが、さらに何ができますか?
NATO加盟国は、ウクライナが自衛する能力を高めるため、より攻撃性の高い兵器を供与していく用意があるのでしょうか?
NATO ストルテンベルグ事務総長:
「NATO加盟国は長年、ウクライナを支援してきました。
加盟国が訓練した、何万ものウクライナの部隊は今、前線に立ち、侵略軍に対して勇敢に戦っています。
ウクライナ軍はいま、前回2014年にロシアが侵攻したときに比べると、はるかに大きく、装備も優れ、しっかりと訓練を受け、指揮もよくとられています。
侵攻したロシア軍と戦い、抵抗できているのは、何よりもウクライナ軍の勇気と責任感によるものですが、NATO加盟国からの装備に支えられてもいるのです」
「NATO加盟国は今回の外相会議で、さらに何ができるかを話し合います。
加盟国はすでに、装甲車や戦車を破壊できる、非常に高度なシステムを供与しています。
NATO加盟国がウクライナに供与した対戦車兵器によって多くのロシアの装甲車が破壊され、防空システムによってロシアの先進的な航空機が撃墜されています。
チェコはウクライナへの戦車の供与を表明しました。
NATO加盟国はこれまでにも多くの支援をしてきましたし、外相会議でさらに何ができるかを協議します」
「NATO加盟国が供与するシステムの詳細を明らかにすることはできませんが、現場で、戦場で何が起きているのかをみてください。
ウクライナはヨーロッパ最大の陸軍を食い止め、侵略してきた軍隊に多大な犠牲とコストをもたらしています。
ロシア軍は戦闘の計画を変更せざるをえなくなり、いま、ウクライナ北部から撤退して東に向かい、ロシアからウクライナ東部に入ろうとしています。
東部ではこれから数週間で、あるいはもっと早く、ロシア軍による大規模な攻撃が行われるでしょう。
加盟国はウクライナを支援するため、さらに多くの、そしてさまざまな種類の装備を供与します」

■プーチン大統領の「野望」は変わっていない

Q:ロシア軍はキーウ近郊から撤退していますが、これからの目標は何だとみていますか?
NATO ストルテンベルグ事務総長:
「基本的にロシアの、プーチン大統領の「野望」は変わっていないと考えています。
キーウを含め、ウクライナ全体を支配下に置くということです。
ただ、彼らはその目的を達成するための方法を完全に変えざるをえなくなったのです。
当初はこの目的を数日で達成する計画で、南から、東から、北から攻撃を行い、キーウ目指して進軍しました。
彼らはこの計画に失敗しました。
ウクライナ軍とウクライナの人々、そしてウクライナの政治的指導者の勇気を、そしてNATO加盟国やその他の国々からの支援を過小評価していたからです」
「この結果、彼らは部隊を再配置せざるをえなくなり、南部や東部にさらなる攻撃をしかけようとしています。
しかしウクライナには備えができています。
ウクライナ軍は防衛を強化し、NATO加盟国も支援を強化しようとしています。
プーチン大統領にはこのメッセージを伝えたい。
『この戦争をやめなさい、すべての部隊を撤退させ、政治的解決のための対話に真剣に取り組みなさい』」

■ウクライナをさらに支援していく

Q:ロシア軍の焦点はこれからウクライナ東部だと言われています。
ただロシア軍の目的はウクライナ東部を支配下に置くことだけにとどまらないと見ているということですか?
NATO ストルテンベルグ事務総長:
「戦争は常に予測不能ですから、もちろん変わる可能性はあります。
ただ現時点では、ロシア軍はキーウ近郊や北部から部隊を撤退させ、ベラルーシとロシア西部を経由してウクライナ東部に投入し、そこで大規模な攻撃を行う計画だということです。
つまり戦争の新たな段階に入ったということです。
この決定的に重要な段階において、われわれはウクライナをさらに支援していくことが必要です。
ウクライナを支援するだけでなく、プーチン大統領やロシア経済にさらなる制裁を科していくことも重要です」
「われわれはロシアによるウクライナ侵攻の主な目標、目的にいまも変わりはない、それはウクライナを支配下に置くことだと考えています。
ただ、彼らはその目的を達成するための方法を変えざるを得なくなったのです。
予想より大きな抵抗にあったからです。
ロシアは、ウクライナの人々の力を過小評価し、自分たちの軍の力を過大評価していたのです。
われわれは、プーチン大統領が目的を達成することがないよう、支援していかなくてはなりません」

■日本などパートナー国との会合 非常に重要

Q:この状況においてNATOは外相会議を開き、日本などパートナー国が参加します。
NATOにとって、なぜこの軍事侵攻が続くいま、北アメリカでも、ヨーロッパでもない国と会うことが重要なのでしょうか?
NATO ストルテンベルグ事務総長:
「NATO加盟国にとって、日本をはじめアジア太平洋のパートナー国と会合を開くことは非常に重要です。
(先月開かれた)NATOやG7の首脳会議で私は日本の総理大臣と会い、日本とNATOとの緊密なパートナーシップに謝意を伝えました。
世界がより危険になり、国際的な競争が一層激しくなり、さらにエネルギーや食品の価格の高騰などロシアによるウクライナ侵攻のさまざまな影響が世界各地であらわれている今だからこそ、このパートナーシップが必要で、日本の外務大臣と会うのを楽しみにしています」
「またロシアと中国が連携を深めています。
中国はロシアによるウクライナ侵攻を非難しようとしませんし、北京オリンピックの期間中に出された中国の習近平国家主席とプーチン大統領の共同宣言では、NATOの拡大に対して警戒感を示しました。
中国とロシアという、2つの強権的な国が連携を深めていることをNATO加盟国は懸念していますが、日本も懸念していると承知しています。
だからこそわれわれはともに立って、民主主義や法の支配、ルールに基づく国際秩序といった基本的価値観を守る必要があります。
だからわれわれは日本とのこれまでのパートナーシップを評価しているのです」

■日本のロシアへの厳しい制裁を歓迎

Q:日本にどんな役割を期待しますか?
NATO ストルテンベルグ事務総長:
「まず日本は長年、NATOのさまざまな取り組みを支援してくれました。
例えばテロとの戦い、NATOの活動への経済的な支援、そしてウクライナに対する、殺傷能力のない装備の供与などです。
われわれはこうした日本の支援に感謝しています。
次にわれわれは、ウクライナへの軍事侵攻を受けて、日本がロシアに厳しい制裁を科していることを歓迎しています。
そして日本とNATO加盟国が安全保障の分野で広く連携していくことが重要だと考えています。
サイバー攻撃への対応、海洋の分野、気候変動が安全保障に与える影響。
そして中国の経済力、軍事力が安全保障に与える影響についても、ともに対応していくことが重要です。
われわれすべてにとって重要な問題、世界的な課題ですから」

■中国が何をし、何をしないのかに注目

Q:最後にその中国についての質問です。
3月の首脳会議で出された声明では、中国に対し、国際秩序を支持するよう求めました。
今回のロシアによる軍事侵攻に対する中国の対応は、今後、NATOの対中戦略にどのような影響をおよぼしますか?
中国を「脅威」と認識することもありえますか?
NATO ストルテンベルグ事務総長::
「われわれは中国が何をし、何をしないのか、注目しています。
例えば中国は(軍事侵攻についてロシアを非難する決議案をめぐる)国連総会での重要な採決において棄権しました。
つまり彼らは、露骨な国際法違反、ウクライナという主権国家への侵攻を非難しようとしなかったのです。
また中国はNATOに対し、新しい加盟国を受け入れるべきではないというメッセージを発しました。
NATOがこれまで新しい加盟国を受け入れてきたことは、民主主義や法の支配をヨーロッパに広め、大きな成功を収めてきたにかかわらずです」
「われわれは中国に対し、軍事侵攻を続けるロシアを政治的に支持しないよう、また物資や財政的な支援も提供しないよう求めています。
中国がヨーロッパや日本の安全保障のために何をするのかは重要ですし、だからこそ日本やNATO加盟国のような、同じ価値観を共有する民主主義の国は、国際的な安全保障をめぐって競争がより激しくなるなかで結束しなければなりません」
「われわれは中国を敵対する相手とみなしているわけではありません。
しかし中国が軍事力を増すことが安全保障に及ぼす影響を理解し、対応していく必要があります。
中国は巨費を投じて核戦力を増強し、防衛費は世界2位です。
中国はサイバー空間でわれわれに接近していますし、ヨーロッパで重要なインフラを取得しようと試みています。
北極圏やアフリカでも中国の存在感があります。
また中国とロシアの関係強化もあります。
これらはすべて、われわれの安全保障にかかわる重要な問題なのです」

(聞き手 ブリュッセル支局長 竹田恭子)