国連安保理でゼレンスキー大統領が演説 ロシアを強く非難

ウクライナのゼレンスキー大統領が国連の安全保障理事会で演説し、首都近郊の町で多くの市民の遺体が見つかったことについて「第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ」と述べ、ロシアを強く非難しました。
会合では、各国からもロシアの責任を厳しく問う声が相次ぎました。

ウクライナの首都キーウ、ロシア語でキエフの北西の町ブチャで、ロシア軍が撤退したあと、多くの市民の遺体が路上などで見つかる中、安保理では5日、ウクライナの人道状況について話し合う会合が開かれました。

会合では、ウクライナのゼレンスキー大統領が初めてオンラインで演説し、前日にみずから訪れたブチャの状況について「第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ」と述べ、ロシアを強く非難しました。
また「国連のシステムは直ちに改革されなければならない」とも述べ、ロシアが常任理事国として拒否権を持つ安保理を改革する必要があると訴えました。

そして議場では、ウクライナ側がブチャなどで撮影された市民の遺体だとするおよそ1分間の映像が、スクリーンに映し出されました。

このあと各国からもロシアの責任を厳しく問う声が相次ぎ、このうちアメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「ロシアがいかに人権を尊重していないかが日々明らかになっている」と述べ、ロシアの国連人権理事会の理事国としての資格を停止すべきだと呼びかけました。

これに対してロシアのネベンジャ国連大使は、ロシアは市民の殺害に関与していないというこれまでの主張を繰り返し、ロシアと欧米各国などとの対立が一段と際立つ形となりました。

国連事務総長 人道的な停戦を呼びかけ

会合の冒頭、国連のグテーレス事務総長は「ウクライナでの戦争は、国連憲章に基づく国際秩序と世界平和に対するこれまでで最も大きな挑戦の一つだ」と述べ、強い危機感を示しました。
また、首都キーウの北西のブチャで多数の市民の遺体が見つかったことについて「ブチャで殺害された市民の恐ろしい映像を決して忘れることができない」と述べ、説明責任を明確にするための独立した調査の必要性を改めて強調しました。
そのうえで「ウクライナでの戦争はいま止めなければならない。平和のための真剣な交渉が必要だ」と述べて、市民の犠牲に歯止めをかけるための人道的な停戦を呼びかけました。
さらに「国連安全保障理事会は連帯して平和を維持する責任を負っている。戦争を終わらせ、ウクライナで苦しんでいる人々や弱い立場の人々などへの戦争の影響を和らげるためすべての権限を行使するよう求める」とも述べ、常任理事国のロシアを含め安保理のメンバー国に対して、平和の実現に向けて取り組むよう促しました。

ゼレンスキー大統領「最も恐ろしい戦争犯罪だ」

ウクライナのゼレンスキー大統領は、国連の安全保障理事会の会合で行ったオンラインの演説の中で「きのう、ブチャに行ってきた。ロシア軍は、あらゆる犯罪を犯した。意図的に人々を殺害した。女性や子どもを家の外で殺害し、死体を燃やした」と述べ、現地の凄惨(せいさん)な様子を明らかにしました。
そのうえで「ロシアが犯した第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ。ロシア軍と彼らに命令を下した者に直ちに法の裁きを下さなければならない」と強く非難しました。
また国連についても言及し「安保理の拒否権が『死の権利』とならないよう、国連のシステムは直ちに改革されなければならない。侵略者のロシアを排除するか、平和をもたらすためにできるかぎりのことをするか、ウクライナのために安保理の決断が必要だ」と述べました。

ロシアの国連大使 ゼレンスキー大統領に反論

ウクライナのゼレンスキー大統領が演説を行った安保理での会合で、ロシアのネベンジャ国連大使は、ゼレンスキー大統領に反論する形で演説を行いました。

ネベンジャ国連大使は「この場で改めて、ロシア軍や兵士に関する大量のうそを聞くことになった」と述べ、ゼレンスキー大統領の主張を否定し「われわれは市民の命を救うため、民間施設は攻撃していない。ロシア軍の部隊が前進を急いでいないのはこのためだ」と主張しました。
ブチャについては「ロシア軍がブチャにいたときは市民は自由に移動し携帯電話を使うこともできて、1人の市民も暴力に苦しむことはなかった」としてロシア軍の関与を改めて否定し、市民が殺害されたとする証拠がねつ造されていると一方的に主張しました。
ウクライナ側がブチャなどで撮影されたとする市民の遺体の映像を流したことについては「現代の技術を駆使すればどんな映像を作り出すことも可能だ」と述べました。
さらにネベンジャ国連大使は「ロシアはウクライナを征服するためにやって来たのではない。ドンバスに平和をもたらすためにやって来たのだ」として、軍事侵攻の正当性を改めて主張しました。

アメリカの国連大使 “人権理事会でのロシアの資格停止すべき”

アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は、ブチャで多数の市民の遺体が見つかったことについて「独自に調査を行った結果、ロシア軍がウクライナで戦争犯罪を犯したと認識している。ロシアがいかに人権を尊重していないかが日々明らかになっている」と訴えました。
そして、スイス・ジュネーブで開かれる国連人権理事会でロシアが理事国を務めていることについて「ロシアは人権の尊重を促すことを目的とする国連機関の一員であるべきではない。これは偽善的であるばかりか危険だ。ロシアは人権理事会のメンバー資格をプロパガンダのためのプラットフォームに悪用している」と述べ、人権理事会でのロシアの資格を停止すべきだと各国に強く促しました。

イギリスの国連大使「戦争犯罪として捜査を」

イギリスのウッドワード国連大使は「国連は、世界を巻き込んだ侵略戦争のあとにつくられ、国連憲章に署名したすべての加盟国が基本的な人権や国家の平等な権利などを約束した。しかし、今われわれは再び侵略戦争に直面している」と述べ、ロシアによる軍事侵攻を非難しました。
そして「ロシア軍が撤退した地域で意図的に殺害された市民の恐ろしい映像を見た。これらの行為は戦争犯罪として捜査されなければならず、イギリスは国際刑事裁判所やウクライナの司法当局の活動を全面的に支持する」と述べ、ロシアの責任を追及する考えを強調しました。

中国の国連大使「制裁は効果的な手段ではない」

中国の張軍 国連大使は、ブチャの状況について「ブチャにおける民間人の死亡に関する報告や画像は深く心をかき乱すものだが、いかなる非難も事実に基づくべきで、全容が明らかになる前に根拠のない非難をすべきではない」と述べ、ロシアへの非難を強める欧米各国に反論し、ロシアに配慮する姿勢を見せました。

そして各国のロシアに対する経済制裁について「制裁は効果的な手段ではなく、かえって危機を加速させ、新たな複雑な問題をもたらすことになる。グローバル化が発展した今、全面的かつ無差別な制裁を科すことは、世界経済の政治化に等しい」と述べ、欧米側をけん制しました。
さらに「アメリカとNATOとEUがロシアと包括的な対話を行い、長年にわたり広がってきた双方の溝と向き合い、バランスのとれた、効果的で持続可能な安全保障の枠組みの構築に向け取り組みを加速するよう求める」と述べ、欧米各国の対応を批判し、ロシアとの対話を通じて問題を解決すべきだと主張しました。