【現地は今】ロシアに占領されたら何が起きる?ヘルソンの抵抗

ロシア軍に占領されると、住民たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。実は、ロシア軍が占領したとしているのは、ウクライナ主要都市の中ではひとつ、南部のヘルソンだけ。抗議デモも伝えられる30万都市の今を、住民の証言で読み解きます。

ロシア軍はなぜヘルソンに?

ロシアからベラルーシを経てウクライナを縦断するスラブの大河。ヘルソンは、そのドニプロ川、ロシア語でドニエプル川が黒海に注ぐ河口に位置する水路の要衝です。

今回のロシアの軍事作戦における重要性は、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島に近いこと、目指す港湾都市オデーサへの途中にあることからも明らか。
軍事侵攻開始から1週間後の3月はじめに「主要都市として初めてヘルソンが陥落した」と報じられ、15日にはロシア国防省が州全体を完全に掌握したと発表しました。

黒海に沿って西のミコライウ、さらに西のオデーサへと進軍するにあたって、ヘルソンはロシア軍の拠点となり得る重要な都市なのです。
住民の男性は、3月上旬、私たちのSNSでの取材に対し「ロシア軍がヘルソンを占領した日から、市街地にウクライナ軍の兵士の姿はまったく見られなくなりました。ロシア兵がホテルや庁舎、それに駅を占拠しています」と答えました。さらにテレビ塔もロシア軍に占拠され、住民たちが見ることができるのはロシアの放送局の番組だけになったということです。

ロシアは親ロシア派の「共和国」樹立に向けて住民投票も計画、占領政策も垣間見えます。

ロシア軍相手に抗議デモ 怖くないのですか?

それ以上にヘルソンが注目されたのは、今も続く抗議デモです。人々がウクライナ国旗を持って広場に集い、丸腰の住民たちが銃を手にしたロシア軍の兵士や軍用車両を取り囲む様子も報じられました。

これを抑え込もうと、ロシア軍は催涙弾やゴム弾を発砲。抗議デモは今も断続的に続き、現地メディアは3月21日には衝突で2人がけが、22日にはロシア軍が催涙弾を発砲したと伝え、緊張が続いています。
デモに参加したスマートフォンの販売員のシェフチェンコさん(仮名)は24日、インタビューに「私たちは民主主義を望んでいます。だからデモでロシア軍が発砲したとしても恐れないのです」と答えました。

一方で、デモへの参加をためらわせる情報も耳に入っているようです。
「ウクライナのメディアは、一部の住民らがロシア軍に誘拐されたと伝えていて、住民の間で恐怖が高まっています。街はロシア軍によって封鎖され、車で街から逃げだそうとした住民がロシア軍に撃たれたとも聞きました」

また、ロシア軍の兵士の様子が占領前と今とでは異なると、複数の住民が証言しています。

「占領直後に街にいた兵士は緑の軍服に身を包んでいましたが、今は黒い服を着た兵士に代わりました。銃などの装備は、より整っています。最初に街に入った兵士たちは、ミコライウを攻略するために西に向かったのではないかと思います」

暮らしは変わりましたか?

住民たちが訴えるのは、深刻な物資不足です。外部から食料や医薬品が届かなくなっているのです。

ロシア軍が中央広場で食料などを配布したこともあったそうですが、住民たちの多くは受け取るのを拒んだといいます。食料の備蓄に比較的余裕のある住民たちは、足りない家庭に配るなど、助け合っています。

シェフチェンコさんも、医薬品を集めて病院などに届けるボランティア活動に携わっていますが、日に日に深刻になっているといいます。

「薬はもう底をつき始めています。例えば手術やがん患者を治療するための薬がすでになくなっています。すぐに助けが必要な人のための物資が足りていないのです」

“ウクライナ軍が巻き返している” 本当ですか?

しかし今、ヘルソン州ではウクライナ軍が巻き返しを図っていると伝えられています。

アメリカ国防総省の高官も3月25日、「以前ほどロシアの支配が強固ではないようだ。ウクライナ側がヘルソンを取り戻そうとしており、再び攻防が続いている」という見方を示しました。

シェフチェンコさんは「長い道のりになるかもしれませんが、ウクライナ軍はヘルソンを再び解放してくれると信じています」と、自分に言い聞かせるように話していました。

27日、隣国ルーマニアのイサクチャには、ウクライナの人たちが次々に避難してきていました。
その中にはヘルソン州から逃れてきた家族もいましたが、状況は好転しているとは言えないようです。

▽34歳の母親
「きのうから店に食料品がなくなりました。人道危機です。ヘルソンももうすぐマリウポリのようになると思います」
▽9歳の息子
「家の近くで爆発があったときは怖かった。戦争が早く終わってほしい」

(NHKは一部にロシア語に由来する地名を用いてきましたが、原則としてウクライナ語に沿った呼称に改めました)

【国際部・山下涼太、シドニー支局・青木緑(ルーマニア・イサクチャ)】