ロシアとウクライナ 停戦交渉で一定の譲歩示すも停戦は不透明

ロシアとウクライナは29日、停戦交渉を行い、ウクライナ側はNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる関係国との新たな安全保障の枠組みを提案しました。一方、ロシア側も首都キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小すると述べ、双方は一定の譲歩を示した形ですが、具体的な停戦に結び付くかは依然、不透明なままです。

ウクライナで激しい戦闘が続く中、ロシアとウクライナの双方の代表団による対面形式の停戦交渉がトルコのイスタンブールで29日、行われました。

協議はおよそ3時間半行われ、ウクライナ代表団の関係者は交渉に進展があったとしたうえで「新たな安全保障の枠組みについてロシア側と議論した」と述べ、NATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる新たな安全保障の枠組みについて協議したことを明らかにしました。

ウクライナ側によりますと、新たな安全保障の枠組みにはアメリカやイギリス、カナダ、ポーランドやトルコなどが含まれる可能性があるということで、これが受け入れられるなら「中立化」に応じるとしています。

「中立化」には領土内に外国の軍事基地を設けないことなどが含まれているということで、ロシア側の要求に対しウクライナ側が一定の譲歩を示した形です。

これに対しロシア側も「会談は建設的だった」と評価したうえでロシア国防省のフォミン次官は「首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決めた」と述べ、信頼醸成の措置としてキエフ周辺などでの軍事作戦を大幅に縮小するとしています。

またウクライナ側が求めてきた首脳どうしの会談についても「外相レベルでの承認があって初めて可能となる」と述べました。

ただウクライナ側によりますと、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの主権の問題は、今後、15年間、協議することになるとするなど、最も難航するとみられる領土主権の問題は、停戦交渉では事実上、棚上げした形にもなっています。

またロシアのショイグ国防相は29日、今後は東部での軍事作戦に重点を置く姿勢を示し、深刻な人道危機が続く東部マリウポリなどでは、引き続き激しい戦闘が続くとみられます。

今回の停戦交渉では双方が一定の譲歩を見せ、ロシア側はウクライナ側の提案をプーチン大統領に報告するとしていますが、今後、具体的な停戦に結び付くかは依然、不透明なままです。

ゼレンスキー大統領 “前向きな合図もことばを信じる理由ない”

ウクライナのゼレンスキー大統領は29日、公開したビデオメッセージの中で、ロシアとの停戦交渉について「前向きな合図といえるが、この国を破壊しようとする力の代表者のことばを信じる理由はない」と述べました。また、ロシア軍が首都キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小すると決めたとしたことについて「ロシア軍は攻撃を加える態勢を維持しているので、われわれの防衛態勢も維持したままだ」と述べ、停戦交渉の行方について、慎重な見方を示しました。

アメリカ国防総省「“軍事作戦大幅縮小”だまされてはいけない」

アメリカ国防総省のカービー報道官は29日、記者会見で、ロシア軍の首都キエフ周辺での動きについて、小規模の部隊が離れたとする一方で「これは本当の撤退ではなく、再配置だ」と述べ、撤退が行われているとは捉えていないという見方を示しました。

この中でカービー報道官は「ロシア軍は目標としていたキエフの制圧に失敗した」と述べました。

そして、ロシアがキエフ周辺などでの軍事作戦を大幅に縮小するとしていることについては「だまされてはいけない」と述べて、事態の推移を見極める必要があるという認識を示しました。

キエフ周辺からは一部の小規模な部隊が北に移動しているものの、ウクライナ国内の別の場所への再配置であるとの見方を示し「われわれは、ほかの地域への大規模な攻勢を警戒する必要がある」と述べて警戒感を示しました。

さらにカービー報道官は、依然として大部分の部隊はキエフ周辺にとどまり、空爆も続いているとして「キエフへの脅威は終わったわけではない」と指摘しました。

【交渉で話し合われたとみられる内容は】

 ●NATO加盟に代わる集団的安全保障の枠組み

まずロシアが求めてきたウクライナの「中立化」についてです。

ウクライナ側によりますとNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わり、新たな集団的な安全保障の枠組みを提案したということです。

この枠組みについて、ウクライナ側はアメリカやイギリス、ドイツ、フランスのほか、中国、ロシア、カナダ、イスラエル、ポーランド、トルコなどが含まれる可能性があるとしています。

そのうえで、この枠組みによって自国の安全が確保できれば「非核の地位」と、NATO加盟を断念する「中立化」を受け入れるとしています。

「中立化」には、ウクライナ国内に外国の軍事基地を設置しないことや、外国の部隊を駐留させないこと軍事演習などを行う場合は、関係国との同意を条件とすることも含まれるとしています。

一方、ロシア側はこの提案について検討する考えを示しました。

そのうえで、関係国からウクライナの安全が守られる対象地域について、南部クリミアと親ロシア派の武装勢力が事実上、支配しているウクライナ東部の地域は、対象外になると説明しています。

「中立化」をめぐるウクライナ側の提案について、今後、合意に向かうかが注目されます。

 ●南部クリミア・ウクライナ東部の主権

次にロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアの主権について、ウクライナ側は、今後、15年間、協議を続けるとしていて、この間、領土問題の解決のために、武力は行使しないとする提案をしました。

また、親ロシア派の武装勢力が事実上、支配しているウクライナ東部の主権問題についても今後、首脳どうしで話し合う項目だとしています。

この点についてロシア側は、クリミアが自国の領土だと強固に主張しているほか東部地域の独立をすでに承認しており、ウクライナ側としては、今回の停戦交渉では、最も解決が困難な主権をめぐる問題を、事実上、棚上げした形です。

 ●キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小

また停戦交渉に関連してロシア側は首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決めたとしています。

ロシア側はこれは停戦ではなく、信頼醸成措置だとしています。

また、ロシア国防省は、ウクライナ東部に軍事作戦の重点を置く方針を示しています。

 ●そのほか

このほかロシア側は、ウクライナがEU=ヨーロッパ連合に加盟することは否定しないとしています。

ウクライナ側が求めてきた首脳会談についてもロシア側は、まずは、外相レベルで合意内容が承認できたら、首脳会談を実施することが可能だとしています。

また合意内容についてウクライナ側は、憲法を改正する必要があることなどから国民投票を行って民意を問うことが必要だとしています。

またそのためには停戦やロシア軍の撤退が必要だとしています。