アカデミー賞国際長編映画賞「ドライブ・マイ・カー」が受賞

アメリカ映画界、最高の栄誉とされるアカデミー賞の各賞が発表され、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞しました。2009年の滝田洋二郎監督の「おくりびと」以来の快挙です。

アカデミー賞は日本時間の28日、各賞が発表され、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」はノミネートされた4部門のうち国際長編映画賞を受賞しました。

2009年の滝田洋二郎監督の「おくりびと」以来の快挙です。

「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹さんの短編小説が原作で、妻を亡くした舞台俳優で演出家の男性が専属ドライバーの女性と出会い、ともに過ごすうちに目を背けてきた妻の秘密と向き合う物語です。

去年、フランスのカンヌ映画祭で脚本賞を受賞したほか、ことしのアメリカのゴールデングローブ賞で非英語映画賞を受賞するなど国際的に高い評価を受け、アカデミー賞の結果が注目を集めていました。

ノミネートされた4部門のうち、作品賞、監督賞、脚色賞の受賞はなりませんでした。

濱口監督「時代とマッチするところがあったのでは」

受賞のスピーチをした濱口監督はオスカー像を手にしながら「ありがとうございます。あなたがオスカーですね。皆さんとりました。ありがとうございます」と喜びを語りました。

また、濱口監督は記者会見で「選ばれたのは、最終的には運でしかないと思う。ノミネートされた作品には本当にすばらしいものがそろっていたので、この中で賞をとれたのは驚くべきことだし、だからこそ喜ぶべきことだと思う。アメリカで受け入れられたのは、時代とマッチするところがあったのではないか。新型コロナの状況もあり、そのことが喪失と、そこからどう生きていくかを描いた物語と響き合ったのではないか」と語りました。

西島秀俊さん「国を越え映画が伝わった」会場入り前に

「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督と主演の西島秀俊さんら出演者は、アカデミー賞の発表・授賞式の会場に入る前に、レッドカーペットで取材に応じました。

この中で濱口監督は「本当にすごいことなのだということを今、この場を歩いて感じています。ここまで来たら、映画ファンとして楽しみたいです」と心境を語りました。

また西島さんは「アメリカに来てからも『すばらしい映画だった』と声をかけていただき、国を越えて映画が伝わったと感じています。会場はお祭りの雰囲気なので楽しんでいます」と述べました。

このほか岡田将生さんは「こちらの町なかでも『美しい映画だった』と声をかけていただき、この映画に出会ってよかったと感じています」と、霧島れいかさんは「レッドカーペットに立ち、驚きとうれしい気持ちです」とそれぞれ語りました。

三浦透子さん「作品に関われたこと誇りに思う」

寡黙なドライバーを演じた三浦透子さんは、今回の受賞について「国際長編映画賞の受賞、本当におめでとうございます!皆さんの姿、とてもかっこよかったです。『ドライブ・マイ・カー』という作品に関われたこと、誇りに思います。改めて、この作品から頂いた全ての出会いと経験に、心から感謝申し上げます。濱口さん、スピーチ届きました。胸がいっぱいです」とコメントしました。

三浦さんは、アメリカのロサンゼルスで行われた授賞式に出席できず、濱口監督は受賞のスピーチで「ここに来れなかった出演者の皆さんにも感謝します。特に赤いサーブを見事に運転してくれた三浦透子さんに感謝します」とメッセージを送っていました。

映画評論家「想像力を刺激 監督のスタイル評価」

アメリカのアカデミー賞で国際長編映画賞を受賞したことについて、映画評論家の渡辺祥子さんは、今回の受賞について「いままで日本映画が評価されてきたのは、日本の特殊性があったからだと思うが、今回の受賞は、そういうものではなく、世界の人々の普遍的な気持ちを描き、人間の想像力を刺激する濱口監督のスタイルが評価されたのではないか」と分析しています。

そのうえで、喪失と再生がテーマになっている今回の作品について「いま、ウクライナの戦争と新型コロナウイルス、この2つが大きな問題として、たくさんの人がもやもやしていると思う。そういう時代に、穏やかに時間がすぎて、気付いたら3時間がたっているような映画だったことが、プラスに評価されたのではないか。アカデミー賞は時代を反映すると思うが、結果として作品が時代に合っていたのでは」と話していました。

また今回の受賞には、賞を選ぶ投票に関わるアカデミー会員の人種や性別などの多様化も影響しているとしていて「いろんな人種の人や、女性が増えてきたことによって、映画の見方が違ってくるし、違った考え方を導入することによって、映画の価値もまた上がったり下がったりする。その結果、ドライブ・マイ・カーが、アカデミー会員に共感を呼ぶ割合が高くなったのではないか」と話していました。

そして今回の受賞が日本の映画界に与える影響については「1つの映画が賞を取るということは、他に作ってる人たちにも大きな刺激になるし、日本映画を海外に売り込む際にもプラスになる。また、濱口監督にとっても、賞を受賞することは成長につながることでもあると思うので、これを糧にまた頑張ってほしい」と話していました。

原作収録の村上春樹さん短編集 重版で発行部数100万部突破

「ドライブ・マイ・カー」がアメリカのアカデミー賞の国際長編映画賞を受賞したことを受けて、原作となった作品が収録された村上春樹さんの短編集の重版が決まり、累計の発行部数が100万部を突破しました。

「ドライブ・マイ・カー」は、2014年に出版された村上春樹さんの短編集「女のいない男たち」に収録されている同名の小説が原作となっています。

文藝春秋によりますと、2月に「ドライブ・マイ・カー」がアカデミー賞の4つの部門の候補にノミネートされて以降、短編集の注文が急増し、1か月余りで16万部が増刷されていましたが、アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞したことを受けて、28日に新たに重版が決まり、単行本と文庫を合わせた累計の発行部数が100万部を突破したということです。

文藝春秋は「今回の映画の受賞が、これまで村上春樹さんの作品を読んでいなかった人にも、作品を読んでもらうきっかけになればと思います」とコメントしています。

岸田首相がメッセージ

岸田総理大臣は総理大臣官邸のホームページにメッセージを掲載しました。
この中で、岸田総理大臣は「日本映画としては13年ぶり2作品目の受賞となります。歴史的快挙を成し遂げた『ドライブ・マイ・カー』チームの皆様おめでとうございます。登場する人物が行き場のない喪失を抱えながらも、希望へと一歩を踏み出していく姿を描く作品は、観(み)る人に特別な共感を呼び、言語や国境を越え高く評価されたものと思います。また、広島の都会的な街並みや名建築、瀬戸内の美しい島々の風景などが多く描かれていることも作品の魅力の一つだと思います。映画はあらゆる世代が親しむ総合芸術であるとともに海外への文化発信手段としても極めて有効な媒体です。私としても、この快挙を機に、ソフトパワーの源泉となる文化芸術活動への支援強化に取り組み、世界に日本文化の魅力を発信するとともに新たな創造を支えて参りたいと思います」としています。

その他の受賞作品と受賞者は

最も重要とされる作品賞には、耳の聞こえない両親と兄を持つ高校生の主人公が、家族との暮らしと歌の道に進むことへのはざまで揺れる思いを描いた「コーダ あいのうた」が選ばれました。

助演男優賞は「コーダ あいのうた」に出演した、聴覚に障害のあるトロイ・コッツァーさんが受賞しました。
アメリカメディアによりますと、聴覚に障害のある人が助演男優賞を受賞するのは初めてです。

監督賞には、1920年代のアメリカ西部モンタナ州を舞台に冷徹な牧場主と彼を取り巻く人々の人間模様を描いた「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のジェーン・カンピオン監督が選ばれました。

会場に「ウクライナの人たちを支援しよう」メッセージ

今回の授賞式ではウクライナ出身の俳優、ミラ・クニスさんが登壇し「世界の最近の状況に多くの人が落ち込んでいる。想像を絶する暗闇で戦い続けようとする強さを持つ人々に敬服せずにいられない」と述べました。

このあと会場の大画面に「侵略や対立、偏見に直面しているウクライナの人たちを支援しよう。映画は人の在り方を表現する重要な手段だが、私たちを含め、世界全体でもっと多くのことができる」というメッセージが映し出され、出席者たちは黙とうをささげました。