ウクライナへの軍事侵攻開始から1か月 ロシアの攻撃激化懸念

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で1か月となり、ロシア軍は首都キエフや東部マリウポリなどで攻勢を強めていますが、ウクライナ側も激しく抵抗を続けています。一方、双方の停戦交渉は難航していて、ロシア軍がさらに攻撃をエスカレートさせ、生物・化学兵器などを使用することへの懸念が高まっています。

軍事侵攻が始まってから24日で1か月となる中、ロシア軍はウクライナ各地で攻勢を強めています。

このうち東部の要衝マリウポリでは、事実上の降伏を迫ったうえで包囲を狭めていますが、市内には今もおよそ10万人の市民が取り残されているとみられ、深刻な人道危機が続いています。

また南部の黒海沿岸の地域でも攻勢を強めていて、黒海の艦隊がウクライナ最大の港湾都市オデッサへの上陸も目指しているものと見られます。

一方で首都キエフではロシア軍が包囲に向けてミサイルなどで攻撃を続けているものの、ウクライナ側も激しく抵抗しています。

アメリカの国防当局などは、ロシア軍の部隊に大きな動きは見られず、兵士の士気も低下していると指摘していて、首都の早期掌握やゼレンスキー政権の打倒を目指していたと見られる当初の計画は大幅に遅れているもようです。

またこの間もロシアとウクライナの停戦交渉も断続的に続いていて、ウクライナ側が戦闘の停止やロシア軍の即時撤退を求めているのに対し、ロシア側は、ウクライナの「中立化」や「非軍事化」を要求しています。

交渉では、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構に加盟しないことを前提にした新たな安全保障の枠組みについて、一定の歩み寄りも見られますが、ロシア側は南部クリミアの併合の承認などウクライナ側が受け入れられない要求を崩していません。

各国の仲介も続いていて、22日にフランスのマクロン大統領が、23日にはドイツのショルツ首相やイスラエルのベネット首相が、プーチン大統領と電話会談を行い、改めて停戦を呼びかけました。

戦況がこう着する中、ロシア軍がさらに攻撃をエスカレートさせ、生物・化学兵器などを使用することへの懸念が高まっています。

また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は22日、国家の存亡に関わる脅威があれば核戦力を使用する可能性も排除しない、という姿勢も示しています。

ウクライナ公共放送が連日戦況伝える

ウクライナの公共放送は動画投稿サイト、ユーチューブで国内各地の状況を連日、国内外に英語で発信しています。

それによりますと、22日、東部ハリコフ州ではロシア軍による攻撃で住宅少なくとも20棟が破壊され、映像では多くの建物が崩れ落ち、一部で火災が起きている様子が確認できます。

この攻撃によって1人が死亡し、8人がけがをしたということです。

また、22日夕方、東部ルガンスク州ではロシア軍の砲撃が高層ビルを直撃し、子ども2人を含む3人が死亡したということです。

周辺では電力会社や学校で火災が起きたほか、ガスの供給網が寸断されたとしています。

また、首都キエフでは、砲撃を受けたアパートの中にいた生後1か月の赤ちゃんが、母親が身をていして覆いかぶさったことで無傷だったと伝えています。

母親はガラスの破片で顔や頭にけがをしたものの命に別状はなかったということで、病室でわが子を大事そうに抱く映像が紹介されています。

母親は「子どもの体を暖めるために毛布をかけようとしたところだったので、守ることができました。違う結果になっていたかもしれないと想像するだけで恐ろしいです」と話していました。

「目を閉じるな 空を閉じろ」飛行禁止区域設定望む声

ウクライナではロシア軍による空爆などが各地で激しさを増す中、アメリカなど各国に対し、上空に飛行禁止区域を設定してほしいという声が強まっています。

一方、アメリカはロシアとの直接の軍事衝突につながるおそれがあるとしてこれに否定的な考えを示しています。

西部の主要都市リビウでは、英語で「目を閉じるな、空を閉じろ」と記されたポスターが街のいたるところに貼り出されています。

ロシア軍の空爆によって民間人が命を奪われている現状から目を背けるのではなく、市民を守るために飛行禁止区域を設定するよう訴える内容です。

ポスターを設置したカフェの店長のバレリア・ラクタンスカさんは、(23)「各国の事情で、飛行禁止区域の設定が難しいことは理解しています。しかし、ウクライナは、今、巨大で強力なロシアに立ち向かっていて、世界の助けがあれば、私たちは勝てると思います」と話していました。

市民の死亡 少なくとも977人 子どもが81人

国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まった先月24日から今月22日までに、ウクライナで少なくとも977人の市民が死亡したと発表しました。

このうち81人は子どもだということです。

亡くなった977人のうち、▽279人が東部のドネツク州とルガンスク州で、▽698人はキエフ州や東部のハリコフ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州など各地で確認されています。

犠牲者の多くは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたということです。

また、けがをした人は1594人に上るということです。

国連人権高等弁務官事務所は、ロシア軍の激しい攻撃を受けている東部のマリウポリなどでは多くの市民が犠牲になったという情報があるものの、確認が取れていないため今回の発表には含まれておらず、実際の犠牲者数はこれよりはるかに多いと見られるとしています。

隣国ポーランドの小児病院も受け入れ限界に

戦闘に巻き込まれてけがをした子どもたちなどが隣国ポーランドの病院にも、運び込まれています。

ポーランド第2の都市クラクフにある国内最大規模の小児病院では、これまでに、国境を越えて来たおよそ350人の子どもたちを受け入れたということです。

中には空爆を受けて大けがをし、足を切断することになった3歳の男の子もいたということで、ボイチェフ・ツェルル院長は「私たちにとっても戦争の恐怖を目の当たりにするのは全く初めてのことですが、助けを求め、命をつなぐことを求めている人たちを見るのは本当に胸が締めつけられる思いです」と語りました。

もともと、小児病院の財政状況がよくないうえ、病床数には限界があるということで、「このままではウクライナの子どもだけでなくポーランドの子どもたちも救えなくなります。資金援助のほか、子どもたちをほかの病院に移送する費用などさまざまな支援が必要です」と訴えていました。

ウクライナ南隣のモルドバへの避難民37万人以上に

南部への激しい攻撃が続く中、ウクライナの南隣に位置するモルドバには、依然として多くの人が国境を越えて避難しています。

モルドバにはこのところ、ロシア軍による無差別とも言える激しい攻撃が伝えられているウクライナ南部のミコライフなどから避難してくる人が相次いでいて、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、この1か月間で避難してきた人はモルドバの人口のおよそ15%にあたる37万人以上に上ります。

23日も、多くの女性や子どもが歩いて国境を渡ってきていました。

ミコライフから逃れてきたという32歳の女性は現地の状況について「とても悲惨です。住宅やガソリンスタンド、それに病院などが攻撃され、みんな学校などに避難しています。この先どうなるのか分からないので、脱出しなければなりませんでした」と話していました。

また、47歳の女性は「この4日間、とても激しい攻撃でした。家の周りはひどい状況で、近所で亡くなった人もいます。平穏な暮らしを望み、安全な家に戻ることを夢見ています」と話していました。

国境近くでは、国連の機関やNGOなどが支援拠点を設け、避難してきた人たちに温かい食事や飲み物などを提供しているほか、モルドバ政府は今後、南部の主要都市オデッサなどへのロシア軍の攻撃が激しくなったときに備え、およそ500人がテントで過ごせる一時的な避難施設を整備しています。

国外への避難 362万人超に

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は22日の時点で、362万人を超えています。

避難先は▽ポーランドがおよそ214万人、▽ルーマニアがおよそ55万人、▽モルドバがおよそ37万人、▽ハンガリーがおよそ32万人、▽スロバキアがおよそ25万人などとなっています。

また▽ロシアに避難した人はおよそ27万人となっています。