ウクライナ大統領 夕方に国会演説 米大統領 新たな制裁発表へ

ウクライナのゼレンスキー大統領は23日夕方、日本の国会向けに、オンライン形式で演説し、軍事侵攻を続けるロシアに対する圧力を、日本も強化するよう呼びかけるものとみられます。
また、アメリカのバイデン大統領は今週、ヨーロッパを訪問し、欧米の新たな制裁を発表する計画で、国際社会からロシアへの圧力は一層、強まる見通しです。

アメリカ国防総省の高官は22日、記者団に対し、ロシア軍が病院や避難所などを故意に標的にしているとの認識を示したうえで、東部の要衝マリウポリについては、遠距離からの激しい砲撃に加え、アゾフ海に展開する艦艇からも砲撃が始まっていると指摘しました。

マリウポリは、およそ10万人の市民が避難する機会を失い、今も取り残されているとされています。

国連のグテーレス事務総長は22日、マリウポリはこれまで2週間以上にわたって包囲され、容赦のない爆撃や砲撃を受けていると、ロシアを非難しました。

そのうえで「ウクライナで戦争を続けることは、道徳的に許されず、政治的にも弁解の余地がなく、軍事的にも意味がない。今こそこの愚かな戦争を終わらせるときだ」と述べ、即時停戦を改めて呼びかけました。

一方、ロシア軍が生物兵器や化学兵器の使用に踏み切るおそれがあるとの指摘が出ていることについてアメリカ国防総省の高官は「差し迫った兆候は見られない」と述べつつも、状況を注視していると強調しました。

こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、日本時間の23日午後6時から日本の国会向けにオンライン形式で演説する予定で、ロシアに対する圧力を、日本も強化するよう呼びかけるものとみられます。
また、アメリカのバイデン大統領は24日、ベルギーで行われるG7=主要7か国や、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議などに出席します。
ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は22日、バイデン大統領がヨーロッパを訪問する際に、欧米の新たな制裁を発表する計画を明らかにしました。

バイデン大統領は、ヨーロッパ各国が石油や天然ガスの輸入でロシアに依存している状態から脱却するための共同の取り組みについても発表する方針だということで、ロシアへの圧力は一層、強まる見通しです。

一方、ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領が22日、電話で会談し、ロシアとウクライナとの停戦の条件について意見を交わしましたが、フランス大統領府によりますと、意見の一致はなかったということで、事態を打開する道筋は見えないままです。

【国会演説とは】

外国の元首などによる国会演説は、通常、衆参両院の議長が主催する歓迎行事の一環として行われます。

実施にあたっての法令や規則はなく、議院運営委員会が、相手国政府などからの要望を受けて、実施するかどうかを決めます。

また、演説は通常、本会議場で行われ、30年ほど前からは衆参両院の本会議場が交互に使われていますが、平成30年6月には、マレーシアのマハティール首相が議員会館の講堂で講演した例もあります。

ただ、オンライン形式での演説は、23日のゼレンスキー大統領が初めてです。

【過去に行われた国会演説】

衆議院によりますと、外国の元首らによる国会演説は、戦後、これまでに40回行われています。

初めての演説は、昭和33年12月に、国賓として来日したフィリピンのガルシア大統領が参議院本会議場で行いました。

国別では、韓国の大統領が最も多く4回。アメリカの大統領が3回。中国の総書記や首相などが3回となっています。

このほか、昭和61年には、公賓として来日したイギリスのチャールズ皇太子が演説しました。

また、ソ連崩壊直前の平成3年4月には、国賓として来日した当時のゴルバチョフ大統領が演説したこともあります。

ウクライナ議会議員「私たちの痛みを感じとってほしい」

ウクライナ議会議員は、この演説を通し、世界が一丸となってロシアに対じする必要があると訴えました。

首都キエフを拠点にしているウクライナ議会議員のインナ・ソフソンさんが、NHKのオンラインインタビューに答え「日本にとっては地理的には遠い話かもしれないが、ロシアによるウクライナの軍事侵攻で多くの子どもたちが犠牲になっています。とても容認できることではありません。私たちの痛みを演説から感じとってほしいのです」と述べました。

そのうえで、ロシア側が日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明したことについても触れ「プーチン大統領は、ウクライナだけでなく、世界に対する脅威だ」としたうえで「ゼレンスキー大統領は、ロシアの侵略の最初の犠牲者であるウクライナ国民を代表して各国で発言し、世界が団結してロシアと戦う必要があることを世界に説明しているのです」と述べ、ゼレンスキー大統領の演説を日本の人たちもしっかりと受け止めてさらに支援をしてほしいと訴えました。

自衛隊の殺傷能力ない装備品に限って提供

政府はウクライナ政府からの要請を踏まえ、防衛装備品の輸出を一定の条件のもとで認める「防衛装備移転三原則」の範囲内で、自衛隊が持つ物資の提供を進めています。

政府関係者によりますと、ウクライナ側は対戦車兵器や地対空ミサイル、弾薬などの提供も求めましたが、自衛隊法では殺傷能力のある防衛装備品は提供できないと定められています。

このため政府は、支援する物資を、防弾チョッキ、ヘルメット、防寒服、非常用の食料、医療用の資器材、双眼鏡、照明器具など、殺傷能力のないものに限定しています。

このうち、防弾チョッキは防衛装備品に当たりますが、政府は今回「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正し、国際法違反の侵略を受けているウクライナに殺傷能力のない装備品に限って提供できると明記しました。

自衛隊の防弾チョッキをほかの国に提供したのは今回が初めてで、政府関係者は防弾チョッキが日本として提供可能な「ギリギリの防衛装備品」だとしています。