日印首脳会談 “紛争の平和的解決を求める必要ある”

インドを訪れている岸田総理大臣は日本時間の19日夜、モディ首相と首脳会談を行いました。ウクライナ情勢をめぐり、力による一方的な現状変更はいかなる地域でも許してはならず、国際法に基づき紛争の平和的解決を求める必要があるという認識で一致しました。

会談は、首都ニューデリーの迎賓館で日本時間の19日午後8時半すぎからおよそ2時間行われ、岸田総理大臣はウクライナ情勢をめぐって「ロシアによる侵略は国際秩序の根幹を揺るがす深刻な事態で、きぜんとした対応が必要だ」と述べました。

そして両首脳は、力による一方的な現状変更はいかなる地域でも許してはならず国際法に基づき紛争の平和的解決を求める必要があるという認識で一致し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取り組みをいっそう推進していく重要性を確認しました。

また、覇権主義的な行動を強める中国を念頭に、東シナ海や南シナ海での力による一方的な現状変更の試みや経済的威圧に強く反対していくことでも一致したほか、北朝鮮問題での連携を確認しました。

外務 防衛の閣僚協議(2プラス2)早期に開催へ

さらにウクライナ情勢を受けて新たな国際秩序の枠組みを求める声が高まっているとして、国連安保理改革に向け、常任理事国入りを目指すG4=日本、ドイツ、ブラジル、インドの枠組みも活用しながら、改革の機運を醸成していくことを確認しました。

一方、会談で、岸田総理大臣は「核兵器のない世界に向けた国際的な取り組みをリードする」と述べ、インドとも対話を続けていくことで一致しました。

そして、安全保障分野で日印両国や多国間の連携が強化されていることを評価し、2回目となる日印の外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2プラス2の早期開催の方針を確認しました。

また経済面での協力をめぐって、今後5年間で、インドに5兆円を投資する目標を伝えました。

さらに岸田総理大臣は、サイバーセキュリティーの構築やクリーンエネルギーの導入、高速鉄道事業、それにインド北東部の開発を支援することや、3000億円を超える円借款を行う考えも伝えました。

このほか、今回の訪問を首脳間の往来再開の契機とし、両国関係をいっそう強化する考えを示しました。

岸田首相「インドと連携して戦闘停止の働きかけや人道支援を」

会談のあと岸田総理大臣は共同記者発表を行い、ウクライナ情勢に関連して「世界はいま国際秩序の根幹を揺るがす事態に直面しており、民主主義や法の支配など基本的な価値を共有する日本とインドが『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けて緊密に連携していく重要性は格段に増している」と述べました。

そのうえで「インドと連携し、戦闘の即時停止と対話による事態打開に向けた働きかけやウクライナや周辺国に対する人道支援を進めていきたい。わが国もすでにウクライナや周辺国に1億ドルの緊急人道支援を決定しているが、さらなる追加支援を行う」と述べました。

モディ首相 ウクライナ情勢には直接言及せず

インドのモディ首相は最近のウクライナ情勢を念頭に「地政学上の出来事は新たな課題を示している」と述べたものの、直接的な言及はなく、友好国のロシアに配慮したものとみられます。
一方、日本との関係については「日本とインドが連携を深めることは両国にとってだけではなく、インド太平洋地域や世界にとって重要なものだ」と述べ、今後の関係発展に期待を示しました。

共同声明 ロシアへの直接的な非難盛り込まれず

岸田総理大臣とインドのモディ首相による首脳会談のあと、共同声明が発表されました。ウクライナ情勢に対する深刻な懸念を示す一方、軍事侵攻を進めるロシアを名指しした直接的な非難は盛り込まれませんでした。

共同声明ではウクライナ情勢や中国による覇権主義的行動を念頭に、すべての国が武力による威嚇や武力の行使、一方的な現状変更の試みに訴えることなく、国際法に従って、紛争の平和的解決を追求しなければならないとしています。
そして、ウクライナでの紛争と人道的危機に深刻な懸念を表明し、インド太平洋地域を中心に、より広範な影響を分析したとしています。

そのうえで、現在の国際秩序は国連憲章、国際法、そして主権と領土一体性の尊重という基盤の上に構築されてきたと指摘しています。

また、ウクライナにおける原子力施設の安全とセキュリティーの重要性を強調しこれに向けたIAEA=国際原子力機関の活発な取り組みを認識したとしています。
そして、戦闘行為の即時停止を要求するとともに、紛争の解決のためには対話と外交以外に選択肢はないと強調し、ウクライナにおける人道危機に対処するための適切な措置をとることを確認したとしています。

一方で、共同声明では、ウクライナへの軍事侵攻を進めるロシアを名指しした直接的な非難は盛り込まれませんでした。

このほか、インド太平洋地域の平和、安全、繁栄を促進するため日印両国に、アメリカとオーストラリアを加えたクアッドなどの重要性を確認し、今後数か月以内の開催を予定しているクアッド首脳会合を通じて、4か国の協力を前進させるとしています。

また、中国を念頭に、東シナ海や南シナ海などにおけるルールに基づく海洋秩序への挑戦に対抗するための日印両国の連携を促進するほか、国連安保理決議に違反し、不安定化をもたらす北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難し、北朝鮮に対し、関連する安保理決議のもとで、国際的な義務を完全に順守するよう求めるとしています。

岸田首相「さらなる協力を求めた」

首脳会談のあと、岸田総理大臣は記者団に対し「ウクライナ情勢については、夕食会も含め、かなり長時間、非常に突っ込んだやりとりをした。私からはロシアによる侵略はアジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがす暴挙だとして、プーチン大統領に対する働きかけを含め、さらなる協力を求めた」と述べました。

そのうえで「インドはロシアと歴史的に緊密な関係があるが、モディ首相と一歩踏み込んだ連携を確認することができたと感じており有意義だった。個人的な信頼関係をより深められた」と述べました。

また、ことし前半に東京で開催される予定の日米豪印4か国、いわゆるクアッドの首脳会合に関連し「こうした状況だからこそ、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて具体的な取り組みを進めていかなければならない。4か国でワクチン、インフラ、気候変動などさまざまな分野の協力をさらに前進させ、地域が直面する戦略的な課題にも緊密に連携していくことを確認した」と述べました。

一方、岸田総理大臣は今週ベルギーで開かれるG7=主要7か国の首脳会議に出席する意向を表明し、「ロシアによるウクライナ侵略に対してG7の結束を示すことが大事でより突っ込んだ意見交換ができればと思う。情勢も日々変化しているので、状況に応じて具体的なやりとりをしたい」と述べました。