【経済コラム】際立ってきた“円の弱さ”

外国為替市場のドル円相場で今、円安が加速しています。16日、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会が利上げを決定。円相場は一時1ドル=119円台まで円が値下がりしました。(3月18日午後7時時点)背景には複雑な要因が折り重なっていますが、気がかりな理由も見えてきました。(経済部記者 猪俣英俊)

「われわれは高インフレが(中略)人々に大きな苦難を強いることを理解している。強い労働市場を支えるためにわれわれができる最善のことは長期的な景気拡大を促すことだ」

16日、FRBのパウエル議長は記者会見でこのように発言し、利上げ姿勢を鮮明にしました。

しかも市場関係者を驚かせたのはその利上げ想定回数です。年内にあと6回の利上げを行う見通しを示しました。2022年は残り6回会合あり、この見通しのとおりだとすると毎回利上げすることになります。

「利上げが進む」アメリカ、「大規模緩和維持」の日本。

金利差が拡大するとの見方からドルは買われ、円が売られる展開となり、一時、1ドル=119円13銭をつけて、およそ6年1か月ぶりの円安水準となりました。(18日午後7時時点)
円相場を振り返ると、円安はじわじわと進んできたことが分かります。

去年の年初の取引は1ドル=103円前後でスタート。

その後、アメリカ経済がコロナ禍から回復すると期待が高まったことや、日本でワクチン接種の遅れが市場に伝わると、ドル買い円売りが加速します。

去年3月には110円台まで値下がりしました。

そして、FRBが量的緩和の規模を縮小する「テーパリング」と呼ばれる政策転換が意識されると、日米の金利差が広がっていく見方が有力になり急速に円安が進行。

去年11月には、4年8か月ぶりに115円台をつけました。
今、足元で進んでいる円安は複数の要因が重なっています。

日米の金利差拡大に加えて、ロシアによるウクライナへ侵攻を背景に、有事に強いとされるドルにさらに買い注文が集まりやすくなったのです。

しかし、市場関係者からは疑問の声もあがっています。通貨のなかで円は比較的安全な通貨として高い信用を誇ってきました。

こうした有事であれば「有事の円買い」が起きて不思議ではないのにその力が弱まっていることへの疑問でした。
こちらのグラフをご覧ください。実際、ロシアの軍事侵攻があった2月24日、円安にジャンプはしていますが、その後、ドルとの間できっ抗しているようにも見えます。

有事に強いドルを買う投資家と円を買う投資家が分かれていたと分析する市場関係者もいます。

それが3月に入って、なぜ、急激に円安に傾いていったのか?

その答えの1つが経常収支です。

日本が貿易や投資などでどれだけ稼いだかを示す経済統計。3月8日に発表されたことし1月の経常収支は2か月連続の赤字。赤字幅は過去2番目の水準にまで膨らみました。

原油価格の上昇で「貿易収支」が赤字となったことなどが主な要因でした。

市場関係者1
「円が買われなくなってきている。ウクライナ情勢の緊張感が高まると円を買う動きが強くなると見ていたが、かなり鈍くて限定的だ。今後120円を抜けてきた時、下手すると『日本売り』につながり、スパイラル的に投機が進むリスクになるのではという怖さも感じる」

市場関係者2
「本来、円安であれば海外からのインバウンドが期待できるところだが、今はコロナでそれがなく、赤字に傾きやすい構造に変化した。また、かつては輸出大国だったが、企業は生産設備の海外移転を進めた結果、円安メリットがいかしにくい構図になっている」

日本は世界に冠たる経常黒字国として長年、金融市場でも評価されてきました。

1980年代以降は製造業の対外競争力向上によって、2000年代に入ると企業の海外進出に伴う投資収益の増加によって安定して黒字を維持してきました。

その姿が変わろうとしているのか。今の円安が発信するメッセージの背後にあるものにより注意が必要な局面のようです。
来週は、21日に18都道府県に出ているまん延防止等重点措置が解除されます。およそ2か月半ぶりに重点措置がどの地域にも出されない状況となり、観光や飲食などで業績が回復に向かうことも期待されます。

また、24日の東芝の臨時株主総会では、会社を2つに分割するという東芝の方針について、いわゆる「モノ言う株主」の投資ファンドが反対するなか、議案の採決の行方に注目が集まります。