どうする?子どもへのワクチン接種 効果や副反応を詳しく

5歳から11歳の子どもへの新型コロナウイルスのワクチン接種が今月から本格的に始まっています。オミクロン株によって前例のない感染拡大となった第6波はようやく減少局面に入りましたが、10歳未満の子どもの感染は全体の2割近くを占め多い状態が続いています。

でもオミクロン株では子どものワクチンの効果が下がっているのでは?副反応は大丈夫なの…?
いま子どものワクチンを打つべきかどうか、最新のデータや専門家の意見をまとめました。

Q. 子どものワクチンとは?

ファイザーのmRNAワクチンで、有効成分の量は大人が接種しているものの3分の1です。ワクチンは3週間の間隔をおいて2回接種します。
このワクチンでは人工的に作られたウイルスの遺伝情報を伝達する物質、メッセンジャーRNAを注射で投与します。すると体の中で「スパイクたんぱく質」と呼ばれるウイルスの表面にある突起の部分がつくられます。スパイクたんぱく質を目印に免疫の働きによって新型コロナウイルスに対応する抗体がつくられ、ウイルスが体内に侵入した際、抗体が攻撃して感染を防ぐ仕組みです。

Q. 今のワクチンの接種率は?

5歳から11歳までの子どもへのワクチンの接種は今月から本格的に始まりました。ワクチン接種記録システムの集計によりますと、3月15日現在で全国で1回目の接種を終えた子どもは7万7766人と、対象となるおよそ741万人の1%程度となっています。

5歳から11歳のワクチンは厚生労働省が無料で受けられる公的な予防接種に位置づけて接種を勧めていますが、現時点では保護者に対して子どもに接種を受けさせるよう努めなければならない「努力義務」とはしていません。

Q. 保護者の本音は…?

都内の学童保育の現場で小学生の子どもがいる親御さんに話を聞くと、さまざまな声が寄せられました。
「たまに周囲で感染者が出ると念のためしばらく休ませることもあり、子どもの感染は心配ですが接種に関する情報が少ないと感じていて決めきれていません」(5歳の女の子の母親)

「近いうちに予約をして接種させたいと考えています。家族で海外に行く機会もあり行動の自由度が広がるよう受けさせたいと思います。接種することでコロナにかかったり、重症化したりすることの不安も緩和されると思います」(5歳の男の子の母親)

「副反応や長期的な影響がもしあったらという不安もあるので、学校での感染も落ち着いてきた状況の中でメリットとリスクをてんびんにかけてリスクをとってまで接種することはないと判断しました」(8歳の男の子の母親)

「すぐには接種せずまわりの様子や接種した子どもの反応も見てから判断したいです。子どものワクチン接種に関するデータも今は少ないのでそうした情報もチェックしていきたいと思います」(7歳の男の子の父親)

Q. どう判断すれば…?

ではどう判断すればよいのか…。ワクチン接種をするかどうか判断する際に知っておきたいのが「接種による利益」と「副反応などのリスク」をてんびんにかけ、利益が上回る場合に接種が推奨されるということです。
「利益」として何が挙げられるのか。アメリカのCDC=疾病対策センターのワクチンに関する委員会は2021年11月、子どものワクチン接種の利益として
▽新型コロナウイルスへの感染や重症化を防ぐ効果があること
▽周りに感染を広げないこと
▽学校などで安心して過ごせること
などを挙げています。

一方「リスク」としては…
▽短期間の副反応が起きること
▽ワクチンによる心筋炎など、ごくまれな副反応が起きるかどうかが
挙げられるとしています。

さらに今の日本で判断するための材料として、専門家は
▽オミクロン株による感染は子どもの間で高いレベルで続いている一方で
▽日本では重症化する子どもが少ないことや
▽オミクロン株に対してはワクチンの感染を防ぐ効果が下がっていることが
挙げられるとしています。

こうした情報をもとに専門家は、それぞれの事情を踏まえてワクチンの利益とリスクを比べ接種するかどうか子どもの希望も聞いて判断してほしいとしています。

Q. 海外でも接種しているの?

5歳から11歳の子どもに対するワクチン接種について、アメリカではCDCが「安全で有効性も高く利益がリスクを上回る」として推奨しているほか、カナダやフランスなどでも推奨しています。
5歳から11歳の子どもで2回の接種を終えた人の割合は
▽アメリカでは3月12日の時点で26.8%
▽カナダでは3月11日の時点で35.7%となっています。

一方でイギリスやドイツは重症化リスクが高い子どもや、免疫の働きが弱くなっている人と同居している子どもなどは接種が可能としています。

Q. 子どもの感染状況や重症化は?

全国の新規感染者の数は3月8日までの1週間でおよそ34万人と減少傾向にあります。しかしこのうち10歳未満の子どもは6万5000人余りと全体の19%を占め、年代別で最も割合が高くなっています。厚生労働省の専門家会合は3月15日「新規感染者における10代以下の割合は増加傾向が続き依然として高い水準」だとしたうえで「感染者数が下げ止まりや増加の地域では10代未満が増加していることが多い」としていて、子どもの感染をいかに抑えるかが課題となっています。
また厚生労働省のデータによりますと、2022年3月8日までの累積で10歳未満で感染が確認されたのはおよそ62万5724人で、亡くなったのは1人だとしています。一方3月8日までの1週間では10歳未満の重症者数は5人となっています。

子どもでは新型コロナに感染しても重症化する割合は低くなっていますが、日本小児科学会は呼吸器や心臓、腎臓、それに血液などの慢性の病気がある、基礎疾患のある子どもは重症化するリスクが上がると報告されているとしています。

Q. ワクチンの効果はどの程度なの?

5歳から11歳のワクチンの効果についてファイザーが2021年に行った臨床試験では、発症を防ぐ効果は90.7%でした。ただオミクロン株では効果が下がっているとする研究結果が3月に入って相次いでアメリカから報告されています。
●“オミクロン株 感染予防効果31%”
このうちアメリカのCDC=疾病対策センターは3月11日の週報で、アメリカ西部アリゾナ州や南部フロリダ州などの子どもたち合わせて1364人に毎週検査を受けてもらい、ワクチンで感染を防ぐ効果について分析した結果を公表しました。

アメリカでは5歳から11歳の子どもたちへのファイザーのワクチン接種が2021年11月から始まりました。感染を防ぐ効果はオミクロン株が広がった時期には、2回接種したあと2週間以上たった段階で31%でした。

その上の年代の12歳から15歳では感染を防ぐ効果はデルタ株の時期には87%、オミクロン株の時期には59%で、オミクロン株への効果は下がる傾向が見られました。
●“オミクロン株 救急受診などに至るのを防ぐ効果51%”
またCDCはワクチンによって医療機関の救急での受診や入院に至るのを防ぐ効果も分析しました。2022年1月までに新型コロナで全米10の州の医療機関の救急を受診したり入院したりした5歳から17歳の4万人余りについて分析した結果を3月4日の週報で公表しています。

それによりますと、5歳から11歳の子どもにファイザーのワクチンを2回接種して2週間以上たった場合、オミクロン株が広がった時期では救急での受診や治療に至るのを防ぐ効果は51%だったということです。

一方、入院に至るのを防ぐ効果についてはデルタ株が広がった時期からオミクロン株の時期まで見た場合74%だったとしていますが、入院に至った子どもが少なく統計学的に有意ではなかったとしています。

CDCは子どもたちでも新型コロナで重症化するケースがあり、まわりに感染を広げるおそれもあるとして接種を推奨しています。
●“英政府 次の感染拡大の波が来る前に接種機会で効果も”
イギリス政府は5歳から11歳の子どものうち医療上のリスクの高い子どもや免疫の状態が悪い家族などが近くにいる場合は、接種の機会が与えられるべきだとしています。

イギリス政府のワクチンに関する委員会は2月16日、医療上のリスクのない5歳から11歳の子どもへのワクチンについて、政府に対して「緊急ではないが提供するよう勧告する」という声明を出しました。

声明ではこの年代の子どもたちは感染しても重症化するリスクは一般的に非常に低いものの、まれに重症化する子どもがいるとしています。そしてリスクのない子どもに対しても次の感染拡大の波が来る前に接種の機会を提供することで重症化したり入院に至ったりするのを防ぎ、短期的にはこの年代全体で軽症の症状が出るのを防ぐことができると考えられるとしています。

Q. 副反応はどの程度あるの?

●臨床試験で確認された副反応
ファイザーのワクチンの添付文書によりますと、海外で行われた5歳から11歳のおよそ2200人を対象にした臨床試験で確認された副反応は以下のとおりです。
▽注射した場所の痛みが1回目の接種で74.1%、2回目の接種で71.0%
▽疲労が1回目の接種で33.6%、2回目の接種で39.4%
▽頭痛が1回目の接種で22.4%、2回目の接種で28.0%
▽筋肉痛が1回目の接種で9.1%、2回目の接種で11.7%
▽悪寒が1回目の接種で4.6%、2回目の接種で9.8%
▽関節痛が1回目の接種で3.3%、2回目の接種で5.2%
▽38度以上の発熱が1回目の接種で2.5%、2回目の接種で6.5%となっています。

一方で、海外で16歳以上を対象に行われた臨床試験で確認された副反応は
▽注射した場所の痛みが1回目の接種で77.8%、2回目の接種で72.6%
▽疲労が1回目の接種で41.5%、2回目の接種で55.5%
▽頭痛が1回目の接種で34.5%、2回目の接種で46.1%
▽筋肉痛が1回目の接種で18.0%、2回目の接種で33.5%
▽悪寒が1回目の接種で10.6%、2回目の接種で29.6%
▽関節痛が1回目の接種で9.9%、2回目の接種で20.5%
▽38度以上の発熱が1回目の接種で2.7%、2回目の接種で13.6%となっています。

5歳から11歳では上の年代に比べると副反応が出る割合が低い傾向にあり、ほとんどは1日から2日ほどで収まり軽度から中程度だったとしています。
●実際の接種での副反応
アメリカでは2021年11月から、5歳から11歳を対象にした接種が行われていて、CDCはおよそ870万回の接種が行われた12月19日の時点での副反応の分析結果をまとめています。
それによりますと、接種後に出た比較的重い症状として100件が報告されていて
▽発熱が29件で29%
▽おう吐が21件で21%
▽胸の痛みが12件で12%などとなっています。

また心筋炎と診断された人は11人いました。全員が回復したということで、心筋炎の起きる頻度は12歳以上と比べて大幅に下がっているとしています。
年齢別に心筋炎が出た割合は、100万回の接種ごとに男性では
▽5歳から11歳が1回目の接種で0回、2回目の接種で4.3回
▽12歳から15歳が1回目の接種で4.8回、2回目の接種で45.7回
▽16歳と17歳で1回目の接種で6.1回、2回目の接種で70.2回

女性では
▽5歳から11歳が1回目の接種ではデータが少なく分析できず、2回目の接種で2回
▽12歳から15歳が1回目の接種で1回、2回目の接種で3.8回
▽16歳と17歳で1回目の接種で0回、2回目の接種で7.6回となっています。

小児の感染症に詳しい新潟大学の齋藤昭彦教授は「子どもでも接種後に心筋炎が絶対に起こらないわけではないが頻度は極めて低く、自然に回復して後遺症などはみられていない」と説明しています。

またCDCの報告では接種後に亡くなった人は2人いましたが、2人とも複雑な病歴があり接種の前から健康状態が悪かったということで、死亡と接種との因果関係を示すようなデータはないとしています。

Q. ワクチンの長期的な影響は?

ワクチンの成分のmRNAは接種してから数日で分解されます。専門家はmRNAを医薬品に使う研究は30年以上続いていて、これまでの動物を使った実験の結果などを踏まえると長期的な影響が出ることは考えにくいとしています。

Q. 専門家はどう見ているの?

子どものワクチンを打つべきかどうか、子どもの感染症に詳しい2人の専門家に意見を聞きました。
●「急がなくてもいい」 長崎大学 森内浩幸教授
「オミクロン株に対するワクチンの感染予防効果はかなり下がっていて、重症化を防ぐためのものと捉えるべきだ。多くの子どもが感染すれば重症化する子どもも出てくるが、重症化する確率は大人に比べると低く接種のメリットは分かりにくいと思う」
「5歳から11歳でも重症化して命にかかわるおそれのある基礎疾患のある子どもたちは積極的に接種してほしい。例えばぜんそくの場合でもコントロールできていて発作で救急外来を受診したり入院したりすることがめったにない子どもは、それほどリスクはないと思う。ただ発作で入院することがまれではない子どもは接種したほうが安心だと思う。かかりつけの医師に相談して考えてほしい」
「健康な5歳から11歳の子どもは感染してもリスクが低い。有効性や安全性についてかかりつけの医師とも相談し、納得できる場合には接種を考えるという姿勢で十分だと私は思う。接種するメリットがデメリットを上回っているが、上回り方は基礎疾患の有無や健康状況によって異なる。リスクの低い子どもは急いで接種しなくてもよいのではないか」

●「積極的な対策として接種必要」 新潟大学 齋藤昭彦教授
「現在、感染者数の2割から3割程度が11歳以下の子どもたちで対策をがんばっているが感染は広がっている。プラスアルファの積極的な感染対策が必要で接種をした方がよいと考えている」
「今のオミクロン株に対してワクチンの効果が長く続かないのは事実だが、重症化を防ぐという点では非常に有効だ。基礎疾患のある子どもは早めに接種することに異論はないと思う。健康な子どもでも家族に高齢者や基礎疾患のある人、妊婦がいる場合は家庭内感染のリスクを減らす意味もある」
「例えば日本脳炎はかかる頻度は極めてまれでも重症化を防ぐためにワクチンを定期接種で打っているし、水ぼうそうもほとんどの子どもは軽症だが、まれに起きる合併症の予防のためにワクチンがある。新型コロナのワクチンで副反応が起きる可能性はあるが効果はある程度継続するし、今後別の変異ウイルスの流行でも効果を期待できる。短期的に起こりうることと長期的に得られるものについてバランスを考えてほしい」

“迷った場合はかかりつけの医師と相談 何を大事に考えるか”

2人の専門家の方が共通して述べていたのは、基礎疾患のある人は重症化を防ぐために打つべきだということでした。

健康な子どもに接種するかはそれぞれの判断ですが専門家はメリットとして「学校などで安心して過ごせること」などを挙げています。ほかにも例えば「海外旅行に行きたい」「身近に高齢の家族がいる」など個々の希望や家族の事情はそれぞれです。

接種で得られる利益と副反応などのリスクをてんびんにかけて、どちらが上回るのか。子どもと保護者が迷った場合はかかりつけの医師とも相談して、それぞれが何を大事に考えるかを検討し接種をするかしないか決めてほしいと話しています。