避難民受け入れる小さな国を支えたい ウクライナ隣国モルドバ

避難民受け入れる小さな国を支えたい ウクライナ隣国モルドバ
「経済的に決して豊かではない国なのに、東日本大震災では日本に寄付を寄せていた。そして今回ウクライナの人々を受け入れている」

「モルドバ共和国」のことです。

どこにあるか知らない、という人も少なくないと思います。
日本の九州程度の大きさの国で、隣のウクライナから国境を越えて避難してきた人たちの数は増え続けています。

避難民の受け入れを続ける小さな国に「力になりたい」と思いを寄せて動き出した人たちがいます。

(ネットワーク報道部 野田麻里子)

どんな国なんだろう

きっかけは、会社員のカネコシュンさん(アカウント名)(44)が2月27日に投稿したツイートでした。
カネコさん
「BBCの報道でポーランドとモルドバがウクライナからの人々を受け入れている報道を見て込み上げてくるものがあった。特に“欧州最貧国”であるモルドバが国境で暖かく受け入れている様子を見ると、感慨深くなります」
ウクライナ侵攻が始まって3日目、避難する人を受け入れる国々の状況を伝える報道に心を動かされてのつぶやきでした。

カネコさんは、ニュース映像で国境を越えてきたウクライナの避難民にポーランドの人たちが温かい食事を提供したり、子どもにブランケットを渡したりする様子を見ていました。

でも、次に映し出されたモルドバは少し様相が違いました。
ポーランドと比べて簡素な印象だったのです。

モルドバってどんな国なんだろう。
調べてみると、正式名称は「モルドバ共和国」。

ウクライナの南西側に隣接し、日本の九州と同じくらいの広さで人口は264万人です(おととし時点・一部地域の住民除く)。

さらに日本の外務省のホームページには、11年前の東日本大震災の際にモルドバ共和国が日本に720万円の寄付を寄せていたことが書いてありました。
「どういう国かを調べていくうちに、自分たちの経済も厳しい状況に置かれているにも関わらず東日本大震災の時には寄付をしてくれていることや、今回はウクライナ避難民たちの受け入れをしていることを知りました。そこで次は日本が力になりたい、支援したいと考えたんです」
カネコさんはすぐにツイートで呼びかけました。
「モルドバ共和国への寄付の道を探します。自国に余裕がない中でも他国を助ける姿勢を見せる素晴らしい国」
(カネコさんのツイート)

動くのは今だ

このツイートに共感して動き出したのが、カネコさんのアカウントのフォロワーだった会社経営者の和田健佑さん(27)でした。
大学卒業後、ドイツの金融機関などで働いていた和田さんはパートナーがウクライナ出身のロシア人で、ロシアによる侵攻で市民が犠牲になり故郷を追われている状況をひとごとではない思いで見ていました。

そこで見つけたカネコさんのツイート。
すぐにダイレクトメッセージを送りました。

日本の人たちに広く支援を呼びかけるには、日本語でモルドバのことや日本との関わりを伝えていく必要があると思いが一致。

和田さんは、これまでにウェブサイトを立ち上げた経験をいかして、日本語のサイトをつくることができると提案しました。
和田さん
「カネコさんとは直接面識はありませんでしたが、動くのは今だと思いました。ウクライナの知人の中には国外に避難を始めている人もいた。自分にできることがないかをずっと考えていたので、カネコさんの『避難してきた人たちの受け入れをする周辺国への支援も必要だ』というメッセージは胸に響きました」

サイト立ち上げへ

和田さんは、カネコさんと連携して東京にある在日モルドバ大使館と連絡を取りながら、モルドバ政府に直接寄付できる仕組みを知ってもらうためのインターネットのサイト立ち上げへ動きました。

大使館にもサイトの内容を確認してもらったうえで、3月2日にインターネット上にサイトを公開しました。
カネコさんが最初のツイートをしてからわずか3日後のことでした。

完成したサイトです。
「モルドバにいるウクライナ避難民へ 日本からの寄付を」。

冒頭のページに掲げられたメッセージです。

続いて「モルドバ大使館を通じてのウクライナ避難民への寄付はこちら」と、クレジットカードで寄付できる電子決済サービスへのリンクが表示されています。

サイトで案内している寄付先からは、モルドバの財務省にあたる機関が人道支援のために開設した専用口座に寄付金を送ることができます。

モルドバ大使館によりますと、集まった寄付金は食料や衛生用品、薬など、すべてウクライナから避難してきた人たちへの支援にあてられるということです。

「サイトの信頼性」高める工夫も

一方、課題はアクセスしてもらった人にきちんとした目的のサイトだとわかってもらい、信頼性を高めることです。
2人は大使館にウェブサイトを“公認”してもらえれば、賛同の輪が広がるのではないかと考えました。

大使館と連絡を取り、大使館のツイッターやフェイスブックでも紹介されることになったのです。

「隣人を助けるのは当たり前」

ロシアによる侵攻が長引く中、ウクライナから国境を越えてモルドバへ入る避難者は日に日に増え続けています。

大使館によりますと、3月9日の時点で避難者は29万148人。
モルドバの人口が264万人なので、実に国の人口の10分の1以上の人が押し寄せたことになります。

このうち通過して別の国へ向かう避難者もいて、モルドバに残っている数は10万7115人で、うち半分近くの4万8473人が子どもだということです。

モルドバ政府はかつてない数の避難者たちに宿泊施設や食糧、医療など必要な支援を提供するために大きな経済的支出を強いられながらも、受け入れを続けています。

大使館は、受け入れを続ける理由として、1990年代に国内で起きた軍事紛争で多くの難民を出した経験をもとに、次のように説明しています。
モルドバ共和国大使館
「予想外の支出に公的予算は圧迫されています。しかし隣人を助けるのは当たり前のことです。私たちは戦争から逃げることが何を意味するのかを、悲しい過去の経験から知っているからです」

「自分にできることは何か」

金子さんと和田さんが立ち上げたサイトには、これまで2500のアクセスがあったということですが、ここから寄付にどれだけつながるかを考えると、もっと多くの人に訪れてもらいたいといいます。

例えば、日本人が寄付しやすいように、電子決済サービスでの寄付の方法を日本語で書いた解説書も添付するなど、これからも工夫を続けていこうとしています。

2人はもし戦争がさらに長期化すれば、モルドバなど避難する人たちを受け入れる周辺の国々への支援はいっそう重要さを増していくと考えています。
カネコさん
「私たちは、悲惨な状況を目にして大変だと思ったとしても暖かい布団で寝られる環境にある。今の生活が当たり前と思ってはいけないと改めて感じました。縁もゆかりもない国だったのに何か力になりたいと直感で動いているうちにモルドバへの思い入れがどんどん強くなりました。これからも支援を継続していきたいし、寄付以外の方法ではどんな力になれるのか今も考えています」
和田さん
「知人の家族はウクライナからまさにモルドバに逃れたと聞きました。ウクライナの23歳の友人はキエフに残っており戦いに参加するかもしれない。そういう状況の中で自分ができることは何か、最大限の行動を続けていきたいです。このサイトをきっかけに支援の輪が広がるよう、これからも活動を続けていきたいです」