ウクライナ北東部から市民避難 米側はロシアの首都包囲を警戒

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、8日、ロシアとウクライナの合意に基づき、北東部の都市から市民の避難が行われました。
避難は9日も計画されていますが、アメリカ側は、ロシア軍は首都キエフを包囲するため部隊を前進させるなど、攻撃が激しさを増すおそれがあるとして、警戒を強めています。

ロシア軍がウクライナ各地で攻撃を続ける中、ロシア国防省は、首都キエフなど5つの都市で、8日、避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました。

このうち、北東部のスムイからウクライナ中部のポルタワに退避するルートでは、ウクライナの副首相によりますと、これまでにおよそ5000人が避難したということです。

ロシア側は、9日も市民の避難を計画しているとしていますが、ウクライナ側は、ロシア軍が停戦措置を守らずに砲撃を行うなど、多くのルートで安全が保たれていないと批判していて、避難が進むのか先行きは不透明です。

こうした中、アメリカ国防総省の高官は8日、ロシア軍は、キエフに向けて、主に3方向から部隊を前進させ、キエフを包囲しようとしていると指摘しました。

このうち、最も近づいている部隊がキエフの中心部から20キロ余りの位置にいるほか、北東部の都市スムイから前進している別の部隊は、およそ60キロの地点にいるとしています。

この高官は、「ロシア軍はキエフを複数の方向から包囲することで降伏に追い込もうとしている」と指摘し、攻撃が激しさを増すおそれがあるとして警戒を強めています。

米CIA長官 “プーチン大統領 側近に意見求めず誤った判断”

一方、アメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官は8日、議会下院の情報特別委員会で証言し、プーチン大統領について「深い個人的な信念に基づいてウクライナを支配しようと決断している。不満と野心が交じる中、長年、いらだちを感じていた。助言する側近たちの輪もどんどん小さくしていった」と述べ、NATO=北大西洋条約機構の拡大など、欧米への不満を募らせてきたプーチン大統領が、側近に幅広い意見を求めなくなったことなどが、誤った判断につながったという見方を明らかにしました。

またバーンズ長官は、ロシアに対する厳しい経済制裁について「プーチン大統領は怒っていると思う。市民の犠牲を顧みずウクライナ軍を押しつぶそうとするだろう」と述べ、ロシア軍が攻勢を強めることで市民の犠牲が一層増えることに強い懸念を示しました。

CIAのウィリアム・バーンズ長官は、ロシア語に堪能な元外交官で、バイデン政権の中でもロシアに詳しい高官として知られています。

2005年から2008年まで駐ロシア大使として務めたあと、オバマ政権で国務次官や、国務省のナンバーツーの副長官を歴任しました。

去年2月、指名承認のため出席した議会の公聴会では、ロシアについて、多くの点で、力は衰退しているものの、破壊的で強力な脅威であり続けているという認識を示していました。

米国防情報局長官 “ロシア軍の死者 2000~4000人か”

アメリカのベリエ国防情報局長官は8日、議会下院の情報特別委員会で証言し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍のこれまでの死者数について「信頼度は低いが、2000人から4000人に上るとみられる」と述べました。

情報機関のデータや公開情報を分析した結果だとしています。

ロシア国防省は、今月2日までにロシア軍の兵士498人が死亡したと発表しており、アメリカ政府の分析は、ロシア側の発表の4倍以上の死者が出ていると主張しています。

ロシアの中央銀行 市民の外貨での現金引き出しを制限

ロシアの中央銀行は9日、ロシア国内で外貨で現金を引き出す際、ことし9月までは1万ドル、日本円で115万円余りに制限すると発表しました。

上限を超えて引き出す場合はロシアの通貨ルーブルでの受け取りになるとしています。

また、この期間中、外貨の新たな販売も禁止するとしています。

ロシアでは、国際的な決済ネットワークからの締め出しといった各国の厳しい制裁によってルーブルが大きく値下がりしていて、経済の混乱は一段と広がっています。

医薬品の不足などが深刻に

ロシア軍による爆撃で、死者も出ている北西部の都市ジトーミルに住む女性がNHKの取材に応じ、ロシア軍による空爆や砲撃が行われる中、現地の人々の間で医薬品の不足などが深刻になっている状況を話しました。

オンラインで取材に応じたのは、北西部の都市ジトーミルでチェルノブイリ原発事故の被害者の医療支援などに取り組む団体の理事を務めるイェヴヘーニヤ・ドンチェヴァさんです。

ドンチェヴァさんによりますと、今月4日の朝には職場から100メートルほどの場所にある4階建ての学校が爆撃で半壊したということです。

ドンチェヴァさんは、「朝、自宅にいたら、すごい大きな音がしました。友人たちから連絡があり、学校に爆撃があったことがわかりました。職場の建物の窓ガラスも吹き飛んでいて、今は建物が封鎖されています」と話していました。

また今月7日の夜には、近郊にある石油の備蓄タンクが爆撃されて火災が発生し、今も煙が出ているということです。

現在、生活面で最も困っているのは医薬品の不足だということで、市内の病院が閉鎖され、救急の患者以外は自宅に帰されている状況だということです。

ドンチェヴァさんは、「糖尿病の知人はインスリンが手に入らず困っています。別の町に住む知人は甲状腺ホルモンの薬が手に入らず、ボランティアの救援センターに申請しても連絡がなかったので、薬があと4日分しかないという状態になって町を出て行きました。薬がなくなるかもしれない、あすは救急車が来なくなるかもしれないと思うと、それだけでパニックになります」と話していました。

現在、ドンチェヴァさんは、外出を最低限に抑えて自宅で生活していますが、精神的に大きな負担を感じているということで、「ニュースで悲惨な情景を見ると、あすはわが身と思い、非常に恐ろしくなります。みんな、もともとはとても社交的な人たちですが、今は誰もが押し黙っています。近所の人や友人とでさえも『大丈夫だった?』『生きているわ』というとても短いやり取りを交わすだけです。きょうを生き延びることができても、あすはどうなるか分かりません。世界の平和というのは、とてもとても壊れやすいということを皆さんにお伝えしたい」と話していました。