核物質施設に砲撃 攻勢強めるロシア 南部で市民が国旗掲げ抗議

ロシア軍は、ウクライナ東部のハリコフにある核物質を扱う研究施設を砲撃するなど、攻勢を強めています。
一方、ロシアが軍を進める南部では、市民がウクライナの国旗を掲げるなど、公然と抵抗姿勢を示し、衝突への懸念が強まっています。

ウクライナの原子力規制当局は6日、東部にある第2の都市ハリコフの国立物理技術研究所がロシア軍の砲撃を受けたと発表し「ロシアが再び、核に対するテロを行った」と強く非難しました。

今のところ、放射性物質が漏れ出すなどの深刻な被害は報告されておらず、変電所が破壊されたほか、実験装置の冷却システムのケーブルが損傷したとしています。

一方、ロシアが軍を進める南部では、街に残ったウクライナの市民がロシア軍に撤退を求め、抗議する動きもみられます。

すでにロシア軍が占領したとされるウクライナ南部の都市ヘルソンからおよそ60キロ離れたノバ・カホフカでは6日、およそ2000人の市民が街頭に繰り出し、ウクライナの国旗を掲げ、青と黄色の風船を飛ばしてロシア軍に抵抗する姿勢を公然と示しました。

地元メディアによりますと、ロシア軍は集まったデモ隊を解散させようと発砲し、5人がけがをしたということです。

また、ロシア軍が北と東の2方面から迫っている首都キエフでは、市民が侵攻に備えてバリケードを築いたり、銃を配ったりするなど、徹底抗戦の構えを見せていて、ロシア軍との衝突への懸念が強まっています。

砲撃受けた「国立物理技術研究所」とは

核物質を扱う国立物理技術研究所は、ウクライナを代表する研究拠点の一つで、核燃料サイクルや、核融合による発電の基礎研究「プラズマ物理学」、原子核物理学など複数の部門の研究が行われているということです。

「プラズマ物理学」の研究でこの施設の研究者と交流がある自然科学研究機構の増崎貴教授によりますと、今月5日時点で共同研究者の1人と連絡が取れ、郊外に避難したというメールが届いたということです。

増崎教授は「核物質があるかもしれない研究施設をねらってロシアが攻撃したのは理不尽でありえないことだ。設備を破壊された場合、研究を再び立ち上げるのは相当大変だと思う」と話していました。

ウクライナ国内の原発の状況 (現地時間 6日14時)

▽ザポリージャ原発
ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大のザポリージャ原発は、3月4日にロシア軍の攻撃を受けて掌握され、現在、軍の指揮下にあります。

ウクライナの原子力規制機関によりますと、6日現在、ザポリージャ原発は、6基ある原子炉のうち、2号機と4号機の2基が運転中だということで、敷地内の放射線量の変化はないということです。

ただ、ロシア軍が携帯電話やインターネットの通信網を遮断したため、平常時のルートが使えず、信頼できる情報が入手できない状態だとしています。

▽チェルノブイリ原発
一方、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原発も2月24日以降、ロシア軍に占拠されていて、原発の職員や作業員、警備員など200人以上が10日以上にわたって交代できていないほか、固定電話や携帯電話による通信ができていないとしています。

チェルノブイリ原発の周辺では、いまも高い放射線量が計測されていることから、半径30キロ以内が「立ち入り禁止区域」に指定されていますが、ウクライナの原子力規制機関によりますと、この区域の放射線量を測るシステムが機能していないということです。

また、立ち入り禁止区域内にある原発や関連施設の管理が十分できていないほか、空気中の放射性物質を観測するセンサーなどが故障しているということです。

このため、原発の状況については職員からの電子メールで入手した情報に基づいて確認していて、放射線量の値などは基準の範囲内だということです。

IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は声明を出し「原発を安全かつ確実に運用するためには、原発の職員が外部から圧力を受けない環境で運転を行わなければならない。いつ原発が危険にさらされるかわからない、このようなタイミングで原発との通信状況が悪化していることも非常に懸念している」として、ウクライナ国内にある原発の現状に強い懸念を示しています。

南ウクライナ原発 3基中 2基が運転中

日本原子力産業協会によりますと、南ウクライナ原子力発電所は、ウクライナ南部のニコラエフ州に立地し、原子炉が3基あります。

合わせて300万キロワット発電できるザポリージャ原発に次ぐ、国内2番目の規模の原発です。

ウクライナの原子力発電公社、エネルゴアトム社が運営していて、1号機、2号機、3号機の、いずれも出力は100万キロワットで、1980年代に営業運転を開始しました。

ウクライナの原子力規制機関によりますと、3月6日時点で、
▽1、2号機は98万キロワットの出力で運転中で、
▽3号機は電力網から切り離された状態で停止しているということです。

また、エネルゴアトム社のホームページによりますと、南ウクライナ原発は国内の総電力の10%以上をまかなっているということです。

南ウクライナ原発は、ザポリージャ原発と同じ旧ソビエトで開発された「VVER」と呼ばれるタイプで、ロシアや東ヨーロッパの国々で現在も稼働しているロシア型の「加圧水型」原発です。

「加圧水型」は、原子炉内部の水を高温にして高い圧力を加えて、別の配管を流れる水に熱を伝えて蒸気を作り、タービンを回して発電します。

日本国内では、福島第一原発事故後に策定された新しい規制基準の審査に合格して、これまでに10基が再稼働していますが、これらはすべて「加圧水型」の原発です。

ロシア型とは蒸気を作る装置の位置や燃料集合体の形状などが異なりますが、基本的な構造に大きな違いはありません。

ウクライナ国立科学アカデミーが反論

ロシアの複数の国営メディアがウクライナの核兵器製造に関する疑惑を報じていることについて、ウクライナ国立科学アカデミーは6日、声明を発表し「われわれの関連の研究機関において、そしてウクライナ全土において、核兵器の開発を目的としたいかなる計画も実施されたことはなく、現在も実施していない」と反論しました。

そのうえで「こうした情報を流すことでロシアが原子力発電所の掌握とウクライナへの攻撃を正当化しようとしている」として、核兵器製造に関する報道はロシアが拡散している数多くの偽情報の1つだと非難しました。

松野官房長官「原発攻撃は決して許されない暴挙」

松野官房長官は午前の記者会見で「ザポリージャ原子力発電所に対する攻撃は決して許されない暴挙で、強く非難する。また、現地時間の6日、ハリコフにある原子力関連施設への攻撃の発表も承知しており、強く懸念している」と述べました。

また、ウクライナ在留の日本人について「生命や身体に被害が及んだとの情報には接しておらず、今月5日時点で確認されている在留邦人はおよそ90人だ」と述べました。

一方、自国の領空内でロシアの航空機の飛行を禁止する制裁措置について、政府内での検討状況を問われ「ロシア国籍機の領空内飛行を禁止する措置を含むさらなる措置は、今後の状況を踏まえつつ、G7をはじめとする国際社会と連携して適切に取り組んでいく」と述べました。

避難民の受け入れ「水際対策とは別に考えるべき」

また「ウクライナから第三国に避難された方々のわが国への受け入れについては、ウクライナの人々との連帯をさらに示すべく進めていく。まずは親族や知人が日本にいる方々の受け入れを想定しているが、それにとどまらず人道的な観点から対応していく」と述べました。

そのうえで「ウクライナからの避難民の受け入れは、基本的に水際対策とは別に考えるべきだ」と述べ、新型コロナの水際対策とは別枠で受け入れる考えを示しました。

また、ロシアから帰国する日本人についても別枠で受け入れる考えを示しました。

世界各地で抗議の声続く

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対して、6日も世界各地で抗議の声があげられました。

このうち、アメリカの首都ワシントンでは、ホワイトハウスの前にウクライナの国旗を掲げたり、民族衣装を身につけたりしたウクライナ系の人たち、およそ数百人が集まり、軍事侵攻を続けるロシアに対する抗議とウクライナへの支援の拡大を訴えるデモが行われました。

東部ペンシルベニア州から参加した男性は「ウクライナとともにあることを示そうと参加した。ロシアからの原油の購入は、ウクライナを攻撃する武器の資金源となるおそれがあるので、アメリカなど国際社会は停止してほしい」と話していました。

また、イギリスのロンドンでは多くの人たちが「戦争をやめろ」とか「ロシア軍は出ていけ」などと書かれたプラカードを持ったり、「ウクライナとともに立ち上がろう」とシュプレヒコールをあげたりして抗議の意思を示しました。

参加した女性は「どんな方法でもよいから、ウクライナの人たちが強く生きられるように、西側諸国に支援を訴えたい」と話していました。

また、ロシアとのつながりが深い中央アジアのカザフスタンでも、最大都市、アルマトイで、およそ2000人がウクライナの国旗や青色と黄色の風船を手に持って「ウクライナに平和を」などと抗議の声を上げました。

専門家「攻撃する理由が理解できず 非常に驚き」

ウクライナ第2の都市、東部のハリコフにある国立物理技術研究所の核物質を扱う施設がロシア軍の砲撃を受けたことについて、原子力エネルギーの専門家は「原子力発電所とは異なり、研究所にある設備はエネルギー出力が低く、攻撃する理由が理解できず非常に驚いている」と述べ、攻撃のねらいが不可解だと指摘しました。

京都大学複合原子力科学研究所の三澤毅教授はハリコフにある国立物理技術研究所が砲撃を受けたことについて「燃料が破損した場合、放射性物質が外部に放出される可能性があるが一般の原発とは異なり、研究所にある設備の出力はおよそ200キロワットと低く放射性物質の量も少ないので広範囲に影響が及ぶ可能性は低いのではないか」と指摘しました。

また、研究所にある核燃料の核兵器への転用については「核分裂を起こしやすいウラン235の割合が小さい『低濃縮ウラン』が使われていて核兵器への転用リスクは低く、こうした施設を攻撃する理由が理解できず、非常に驚いている」と述べ、攻撃のねらいが不可解だと述べました。

そのうえで、三澤教授は「このような事態が起こらない社会が築かれてこそ研究施設が成り立つと改めて感じた。一刻も早く元の平和な状態に戻ってほしい」と話していました。