ウクライナに自衛隊保有の防弾チョッキなど提供 政府方針決定

政府は、ロシアから軍事侵攻を受けているウクライナ政府からの要請を踏まえ、防弾チョッキやヘルメット、それに防寒服や非常用の食料など、自衛隊が保有する物資などを提供する方針を決めました。松野官房長官は、防衛装備品の輸出を一定の条件のもとで認める「防衛装備移転三原則」の範囲内であり殺傷能力を持つ物資は提供しない考えを示しました。

政府は、4日午後1時すぎからおよそ15分間、総理大臣官邸でNSC=国家安全保障会議の閣僚会合を開き、岸田総理大臣や岸防衛大臣らが出席しました。

会合ではロシアから軍事侵攻を受けているウクライナ政府からの要請を踏まえ、防弾チョッキ、ヘルメット、防寒服、天幕、カメラのほか、衛生用品や非常用の食料、発電機といった自衛隊が保有する物資などを提供する方針を決めました。

輸送は自衛隊機などで行い、関係省庁で調整を急ぐことにしています。

自衛隊の防弾チョッキをほかの国に提供するのは初めてです。

ウクライナに提供することが検討されている防弾チョッキは、特殊な繊維や防弾プレートが使われていて、防衛省は拳銃の弾や砲弾の破片からも身を守ることができるとしています。

また、ヘルメットは自衛隊の中で「鉄帽」と呼ばれるもので、強化プラスチックでできています。
松野官房長官は記者会見で「国際社会の平和と安定を著しく損なう事態において、現在、国際社会はウクライナ支援のために結束し前例のない対応を行っている。ウクライナ政府からの要請を踏まえ、自衛隊法や『防衛装備移転三原則』の範囲内で、非殺傷の物資を提供する」と述べました。

また「防衛装備移転三原則」が「紛争当事国」への防衛装備品の提供を禁じていることについて、松野官房長官は「防衛装備移転三原則で移転を禁止している『紛争当事国』は、武力攻撃が発生し、国際の平和および安全を維持し、または回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国であり、ウクライナは該当しない」と述べました。

そのうえで松野官房長官は「今回、政府が提供を検討している装備品などは非殺傷のものとし、殺傷能力を持つ装備品を提供する考えはない」と述べました。

岸防衛相「人の命を守るもの 紛争拡大を助長するものではない」

ウクライナへの支援をめぐり防衛省は4日夕方、幹部会議を開き、岸防衛大臣は自衛隊に対し速やかに装備品などを提供・輸送できる態勢を整えるよう準備を指示しました。

会議のあと岸大臣は記者団に対し「今もウクライナの人々は敢然と立ち向かっており、国際社会もウクライナ支援のために結束し、前例のない対応を行っている。防衛省・自衛隊としても最大限の支援を行っていく」と述べました。

また今回の装備品の提供について、岸大臣は「ウクライナ人の命を守るものであり、国際的な紛争の拡大を助長するものではない」と述べました。

「防衛装備移転三原則」で方針変更

日本ではかつて「武器輸出三原則」のもと、武器の輸出は事実上、全面的に禁止されていましたが、2014年に閣議決定された「防衛装備移転三原則」によってその方針は大きく変わりました。

平和貢献や国際協力、それに日本の安全保障に役立つ場合にかぎり、厳格な審査のもと認められるようになったのです。

しかし「紛争当事国」への武器の提供は認められていません。

ただ「防衛装備移転三原則」では「紛争当事国」を「武力攻撃が発生し、国際平和や安全を維持、または回復するため国連安保理がとっている措置の対象国」と定義していてウクライナは措置の対象国ではないことから提供は可能です。

政府は、防弾チョッキやヘルメットが相手を傷つける装備品ではないことも踏まえ、判断したということです。

今回の決定について防衛省関係者の1人はNHKの取材に対し「武器の供与をめぐる歴史を考えれば、日本の防衛政策の大きな転換点になる」と話しています。