北京パラ ロシアとベラルーシの選手出場 一転して認めず IPC

IPC=国際パラリンピック委員会はあす開幕する北京パラリンピックに、RPC=ロシアパラリンピック委員会と、ベラルーシの選手の出場を一転して認めないことを決めました。

当初 “個人出場なら可”も各国の大会不参加意向相次ぎ決定覆す

IPCはロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、2日夜にRPCと、ロシアと同盟関係にあるベラルーシの選手について中立的な立場の個人として出場を認めました。

しかし、IPCによりますとこの決定に対し、多くの国からこのままなら出場を見送るという訴えが寄せられたことなどから、決定を覆してRPCとベラルーシの選手の北京パラリンピックへの参加を認めないことを決めました。
IPCのパーソンズ会長は3日に発表した声明の中で「選手の安全と安心を確保することは、われわれにとって最も重要だが、選手村の状況は悪化して手に負えなくなっている。パラリンピックを成功させることがわれわれの義務であり、すべての参加者の安全を守るため、ロシアとベラルーシのパラリンピック委員会からの選手の出場を拒否することを決定した」と説明しています。

そのうえで「オリンピック休戦を破った政府の行動で、83人の選手が直接的な影響を受ける。この選手たちは各国政府の行動の犠牲者だ。しかし、もしRPCとベラルーシが北京に残れば各国はおそらく撤退し、本来の大会を行うことができないだろう」として、今回の決定への理解を求めました。

ウクライナパラリンピック委会長「参加できたことは奇跡」

ウクライナの選手団は2日北京に到着し、ウクライナパラリンピック委員会のワレーリイ・シシュケービチ会長らが3日午後、北京のメインメディアセンターで記者会見しました。

車いすで登壇したシシュケービチ会長はまず、「お集まりいただきありがとう。みなさんに注目してもらうことはウクライナの人々にとってとても重要だ」と挨拶し、「パラリンピックに参加できたことは奇跡だ」と北京に無事に到着できたことを喜びました。

そして、IPCがRPCとベラルーシの選手の大会への出場を一転して認めないと決めたことについて「IPCの理事会の決定はすばらしい。戦争に対する公平な決定が下された。多くのパラリンピック委員会がともに戦うと言ってくれ、地球上のあらゆるところでわれわれを支持し戦争に反対してくれたことにありがとうと言いたい。平和のために戦い戦争を止めるという希望のもとにこの北京に集える」と話し、IPCの決定に感謝の意を示しました。

また「このパラリンピックの舞台には戦争で障害者になりパラリンピアンになった選手もいる。ロシアとベラルーシは、その舞台を戦争に利用しようとしている。自国の兵士を洗脳し正しいことのようにウクライナ人を殺している。生き続けたいと願う子どもたちを殺している。最も恐ろしいことだ」とロシアを厳しく非難しました。そして、「みなさんの平和と健康を願う。連帯して立ち向かおう」と呼びかけました。

北京パラリンピックにウクライナからは20人の選手がクロスカントリースキーとバイアスロンに出場する予定で、バイアスロンは開会式翌日のあさってから、クロスカントリースキーは6日から競技が始まります。

専門家「排除はパラリンピックの価値を守るために必要なこと」

パラスポーツと社会の関わりについて研究している日本福祉大学の藤田紀昭教授は、今回の決定について「平和であること、差別がない社会というものが、スポーツが成り立つ上での土台となる。その平和な土台があってこその大会だ」と話しました。

そのうえで「パラリンピックでは共生社会や多様性を認める社会を目指しているが、ロシアの軍事侵攻は力による現状変更で、多様性を認めないことだ。IPCがロシアのパラリンピックへの参加を認めると、そうした姿勢を認めると捉えられる可能性がある。きのうからきょうにかけて大きな転換となったが、ロシア、ベラルーシを排除することは今回において、パラリンピックの価値を守るために必要なことだ」と話しました。

そして「スポーツが危機的状況に置かれていることを認識して、パラリンピックやオリンピックがどうあるべきか、平和を維持することがどのぐらい重要なのか、私たちも考える機会だ」と話しました。

クロスカントリースキー 新田佳浩「平和な解決望みたい」

クロスカントリースキーの日本のエース、新田佳浩選手は「やってきた努力が無駄になってしまうと言ったらおかしいが、そのためにやってきた選手もいるのでそこに関しては残念です。結果という側面に関しては選手が出ない方が順位が上がる可能性が高い。ただ、そのためにやってきた4年間の努力がこういった場で発揮できない。自分たちがコントロールできない部分に関してはちょっと残念だなと思う。1人でも多くの人が幸せで平和な解決を選手としては望みたい」と話していました。

JPC会長「決定を強く支持」

JPC=日本パラリンピック委員会の森和之会長は「日本パラリンピック委員会はIPCの決定を強く支持いたします」というコメントを出しました。

RPCとベラルーシ 出場できない選手は83人

IPCがRPCとベラルーシの選手の出場を一転して認めないことを決めたことで83人の選手が北京パラリンピックに出場できなくなります。

RPCから出場を予定していたのは、クロスカントリースキーとバイアスロンの34人、アイスホッケーの17人、アルペンスキーの9人、スノーボードの6人、カーリングの5人の合わせて71人です。

ロシアは前回のピョンチャン大会も組織的なドーピング問題で国としての参加を認められませんでしたが、ロシア出身の選手は個人資格として出場し、クロスカントリースキーとバイアスロンで合わせて7個の金メダルを獲得するなど冬のパラスポーツの強豪として知られています。

RPCのバイアスロンのコーチはメディアに対して「選手たちはすぐに私の部屋に来て抱き合って涙を流した。今はただ痛みしかない。私たちは誠実に競技に取り組んできた。やましいことは1つもない。政治抜きのスポーツということばはもうずいぶん昔に機能しなくなった」と話しました。

そして「中には引退を考えている選手もいるし、若い選手でもこの先、続けていくのが大変な人もいる。時期が悪かったとは思うが競技を頑張って続けようと話している」と話しました。

また、ベラルーシからはクロスカントリースキーとバイアスロンに12人の選手が出場する予定でした。
ベラルーシは、前回大会、クロスカントリースキーとバイアスロンで金メダル4個を獲得しました。

海外メディアは

北京パラリンピックの取材に訪れている海外メディアからはさまざまな思いが聞かれました。

ウクライナと国境を接するスロバキアのネットメディアの男性記者は「ロシアとベラルーシの選手たちは実際に戦争に行っているわけではないので、IPCは非常に厳しい決断をしたと思う。ただ、今のウクライナの状況を見ると私は戦争に反対なので、この結果には納得する」と話していました。

その上で「パラリンピックが平和に行われることを願っている。特に選手の安全を。こういう状況になるのは最後になってほしい」と話していました。

アメリカのラジオ局のプロデューサーの女性はIPCの決定の是非については「私の意見は言いたくない」とした上で「選手にとってここまで来たのに競技に出られないのは非常にむなしいことだ。しかし今の状況を見ていると、あの決断は理解できる」と話していました。

一方で、異例な状況での開催となることについて「早く競技が始まって、パラリンピックの素晴らしさをわかってほしいし、そちらに集中していきたい」と話していました。