北京パラ ロシアとベラルーシの選手 個人でのみ出場認める IPC

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてIPC=国際パラリンピック委員会は、4日に開幕する北京パラリンピックにロシアと、その同盟関係にあるベラルーシの選手は中立的な立場の個人としてのみ出場を認めることを決めました。

IPCは2日に北京で理事会を開き、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いていることを受けて北京パラリンピックでのRPC=ロシアパラリンピック委員会と、ロシアと同盟関係にあるベラルーシの選手団の扱いなどについて話し合いました。

IPCは理事会後に声明を出し、4日に開幕する北京パラリンピックにRPCとベラルーシの選手は、中立的な立場の個人としてのみ出場を認めることを決めたと発表しました。

ロシアは過去の組織的なドーピングに対する制裁ですでに国としての出場が認められておらずRPCとしての参加となっていましたが、今回の決定では、RPCとベラルーシの選手はユニフォームのRPCのマークやベラルーシの国旗を隠し、パラリンピックの旗と歌のもとで競技を行うとしています。

またメダルランキングにはカウントされないということです。

この処分はIPCが管轄する10のパラ競技にも適用され、ロシアとベラルーシでは今後、世界選手権やワールドカップなどの大会を開かないことを決めました。

こうした決定についてIPCは「われわれの憲章と規則の範囲内で下すことができる最も厳しい処分だ」としています。

さらに、ことし中に臨時総会を開き、オリンピック休戦の順守を加盟の条件にするかどうかや、ロシアとベラルーシのパラリンピック委員会の資格停止または取り消しをするかどうか採決することにしています。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてIPCは先月24日、IOC=国際オリンピック委員会とともにオリンピックとパラリンピック期間中の休戦を求める決議に違反するとして強く非難していました。

IPC会長「組織の規則に違反はできない」

IPCのパーソンズ会長はロシアと、その同盟関係にあるベラルーシの選手に中立的な立場の個人として北京パラリンピックへの出場を認めたことについて「ウクライナの人たちのつらい気持ちは理解しているが、組織の規則に違反することはできない」と複雑な心境を吐露しました。
理事会後に会見したパーソンズ会長は「オリンピックとパラリンピックの期間中に休戦を求める国連の決議に違反していることに強い憤りを覚える。ウクライナの人たちの想像できないほどのつらい気持ちは理解できる」と述べて、ウクライナへの軍事侵攻を改めて非難したうえで、ウクライナの人たちに思いを寄せました。

そのうえで「RPCやベラルーシの選手を出場させないということは、IPCの憲章や規則に違反することになり、それはできない。今後、臨時総会を開きロシアとベラルーシのパラリンピック委員会の資格停止や取り消しについて議論していく」と説明し、今回の決定への理解を求めました。

RPCとベラルーシの選手にはメダルは授与されますが、国別のメダルランキングにはカウントされないということです。

パーソンズ会長はウクライナの選手たちに向け「ここまで人生をかけてきたパラリンピックで競技することをむだにしてほしくない。否定的な気持ちを持ってしまうかもしれないが怒りの気持ちをパフォーマンスにむけてほしい」とメッセージを送りました。
また会見では、ウクライナの新聞「キエフ・ポスト」のリー・リーニー記者が真っ先に質問に立ち、ロシアによる攻撃で命を失ったというウクライナのバイアスロン選手の写真を示しながら「彼はもう競技で競うことはできない。彼の両親になんと声をかけるのか」と問いました。

パーソンズ会長は「彼の家族の苦痛は想像することもできない。非人道的であり決して公平ではない。おぞましいことだ」と答えました。

そして「あなたの気持ちはよく分かるがロシアが法律を犯す行為をしていたとしてもわれわれはルールを破ることはしない。スポーツと政治を切り離して考えようとしている」と今回の決定への理解を求めました。

リーニーさんは会見のあと「IPCの決定は残念なものだった。彼らは法律の盾に隠れている。最も重要なことは今ウクライナで起こっている」と肩を落としていました。

それでも「代表選手が、ウクライナの人たちが楽しめるようなパフォーマンスを見せてくれることを願うだけだ」と話していました。

パラリンピック取材のウクライナ記者「出場を禁止すべき」

北京パラリンピックを取材しているウクライナのメディアの男性記者がNHKのインタビューに応じ「RPC=ロシアパラリンピック委員会とベラルーシの北京パラリンピックへの出場を禁止すべきだ」と訴えました。

この男性はカナダ人で10年以上ウクライナに住んでいて、首都キエフに拠点を置く新聞社「キエフ・ポスト」の記者として、北京オリンピックの開幕前から中国に入って取材を続けています。

男性は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いていることを受けて「IPC=国際パラリンピック委員会はRPCとベラルーシの大会への参加を禁止すべきだ」と訴えました。

そのうえで「もしRPCとベラルーシが今大会に出場できるという判断が下されたとしたら、それは悪夢であり、政治的な決定と言わざるをえないだろう。アスリートを含む多くの人々が死ぬか、死の危機にひんするかしている中で、侵略はパラリンピックから排除する理由にならないとIPCは考えるのか。もしそうなった場合、多くの国が出場を取りやめるのではないか。IPCにとって難しい判断ではないはずだ」と話しました。

ウクライナの記者で北京に入ってパラリンピックの取材をしているのは今のところこの男性だけだということで「家族や友人がウクライナにいて地下シェルターで生活をしているのに自分はここにいることに複雑な心境がある。一方で、ジャーナリストとしてアスリートたちの物語を聞き、ウクライナで起きていることに光を当てるニュースを責任を持って世界中に届けたいと思う」と話していました。

IOCとIPCの非難声明きっかけに除外の動き広がる

ロシアとベラルーシの選手をさまざまなスポーツで除外する動きが広がったのは、先月24日にIOC=国際オリンピック委員会とIPC=国際パラリンピック委員会がロシアを強く非難する声明を出したことがきっかけでした。

オリンピック・パラリンピックの期間の休戦を呼びかける国連決議、「オリンピック休戦」は北京オリンピックの7日前から4日に開幕する北京パラリンピックの閉会の7日後までが対象となっています。

IOCとIPCはロシアのウクライナへの軍事侵攻がこのオリンピック休戦に違反するとして24日にロシアに対する強い非難を表明しました。

さらに25日にはIOCがロシアとベラルーシで予定されている大会を中止することや、両国の国旗や国歌の使用を避けるよう、さらに踏み込んだ声明を国際競技連盟に対して出したほか、28日にもロシアとベラルーシの選手や役員を国際大会に招待したり参加させたりしないよう国際競技団体や大会主催者に勧告する声明を出しました。

こうした動きを受けてISU=国際スケート連盟がロシアとベラルーシの選手の国際大会への出場を認めないと発表したほか、国際スキー連盟も主催する大会での今シーズン終了まで参加を認めないと発表するなど両国を除外する動きが広がりました。

JPC会長「全面的に支持しているわけではない」

IPCがロシアと、その同盟関係にあるベラルーシの選手は中立的な立場の個人としてのみ出場を認めたことを受けて、JPC=日本パラリンピック委員会の森和之会長がコメントを出し「IPC理事会が現状、実現可能な最大の措置により両国に制裁を科したと理解しているが、今回の決定を全面的に支持しているわけではない。しかしながら、参加する日本選手団としてはIPCの決定を尊重せざるを得ず、決定に従うこととした」としています。

そして国連総会で採択されたオリンピックとパラリンピックの期間中の休戦を求める決議に触れ「これを踏みにじる今回のロシアのウクライナ侵略は極めて重大な問題で、とても容認できるものではない。JPCはロシアによる残虐な殺りく、人権侵害を強く非難し、直ちに停戦とロシア軍の撤退がなされること、そしてウクライナの平和が回復されることを願う」としています。

前回大会のメダル数は

ロシアは過去の組織的なドーピングに対する制裁で選手たちは北京パラリンピックにはRPC=ロシアパラリンピック委員会として参加し、今大会で実施されるアルペンスキーやアイスホッケーなど6つの競技すべてに出場することになっていました。

ロシアは前回のピョンチャン大会も組織的なドーピング問題で国としての参加を認められず、個人資格として出場したロシア出身の選手のNPAが獲得したメダルは、金メダルが8個でカナダと並んで2番目に多く、銀メダル10個、銅メダル6個の合わせて24個でした。

またベラルーシからはクロスカントリースキーとバイアスロンに12人の選手が出場する予定になっています。

ベラルーシは前回大会では金メダル4個、銀メダル4個、銅メダル4個の合わせて12個を獲得しています。

出場が認められなかったケースは

オリンピックやパラリンピックでは、これまで戦争や人権問題を理由に大会への出場が認められなかった国があります。

オリンピックでは、日本とドイツが第2次世界大戦の影響で1948年のロンドン大会に招待されませんでした。

南アフリカは、人種隔離政策がオリンピック憲章に違反したとして1960年のローマ大会を最後に出場できず、その10年後にはIOC=国際オリンピック委員会から追放され、1992年のバルセロナ大会から再び出場できるようになりました。

一方、パラリンピックでは、ロシアが組織的なドーピング問題を受け、2016年のリオデジャネイロ大会に出場できませんでした。