【詳細】国際的決済網 SWIFTとは?ロシア排除の影響は?

アメリカとヨーロッパ各国などは、SWIFT(スウィフト)と呼ばれる国際的な決済ネットワークからロシアの特定の銀行を締め出す措置を実行することで合意したと発表しました。
国際的決済網のSWIFTとは何か?
ロシアの銀行を締め出すことによる影響は?
そして、専門家はどう見ているのか?

詳細をまとめました。

SWIFT 貿易などの決済や送金に使うシステム

SWIFTは、ベルギーに本部があるSWIFT=「国際銀行間通信協会」が運営する決済ネットワークです。

およそ200の国と地域の1万1000以上の金融機関が国をまたぐ貿易などの決済や送金に使うシステムで、1日当たり4200万件の送金情報を取り扱っています。

決済額は1日当たり5兆ドル、日本円でおよそ575兆円にのぼります。

SWIFTを利用できなくなると、その国の企業は、貿易の決済が困難になるため、アメリカはこれまでたびたび経済制裁にSWIFTからの除外を盛り込んできました。

締め出しでロシア経済に大きな打撃を与えるねらい

欧米各国は、このネットワークからロシアの銀行を締め出し、貿易の決済を困難にすることでロシア経済に大きな打撃を与えるねらいです。

2012年には欧米の経済制裁でイランがSWIFTから排除され、この年のイラン経済のGDP=国内総生産の成長率がマイナス7.4%になるなど、深刻な景気低迷に陥りました。

欧米各国の説明によりますと、今回の制裁には、ウクライナ情勢を受けてすでに制裁を科したロシアの銀行が含まれるとしていて、大手銀行などが対象になるとみられます。

また、制裁を確実に実施するためにロシアの中央銀行が外貨準備を活用するなどして効果を弱めることができなくなるよう規制するとしています。

ロシア排除で世界各国にも影響が

ただ、ロシアへの強い制裁によって、その影響が世界各国にも跳ね返ってくることが懸念されています。

市場では、すでに高止まりしている原油や天然ガスの価格がさらに上昇するおそれがあると指摘されているほか、ロシアから多くの天然ガスなどを輸入するヨーロッパの国にとっては、仮に輸入代金の決済が滞れば供給に影響が及びかねません。

アメリカの政府高官はこうした打撃をできるかぎり避けるための対応を検討し、数日以内に制裁を実施するとしていて、ヨーロッパ経済などへの影響を抑えつつ、ロシアに対して実効性を伴う形で強い圧力をかけられるのかが焦点になります。

一方、今回の制裁によってロシアが金融面でも中国との結び付きを強めて別のネットワークの構築を強化していくきっかけになるという警戒も出ています。

エネルギー価格への影響は?

アメリカのバイデン政権の高官は今回の措置が、ロシアとエネルギーに関わる取り引きをしている国々に影響を及ぼさないようにする必要があると述べていますが、決済が複雑で一部が石油や天然ガスの輸出入に関わるようだと資源の調達やエネルギー価格に影響が及ぶ可能性があります。

特にヨーロッパは石油の29%程度、天然ガスの34%程度をロシアからの輸入に依存しているだけに直接の影響が懸念されています。

さらに専門家は今後、ロシアが対抗措置としてヨーロッパ向けのパイプラインによる原油や天然ガスの供給を絞る手段に出た場合には原油価格や天然ガスの価格上昇に一段と拍車がかかる可能性を指摘しています。

ロシアにとっては石油や天然ガスの輸出は国の大きな収益源であり、取り引きができなくなれば経済的に大きな打撃になります。

ただ、今回の措置でヨーロッパなどへの影響を踏まえエネルギーの決済に使われる銀行を除外するようだとロシアへの影響は限定的なものになる可能性もあります。

さらに専門家は仮にロシアがヨーロッパなどに輸出できなくなったとしても一部を中国に輸出することで経済への打撃を小さくする策に出る可能性があると分析しています。

日本のエネルギー価格、調達への影響は?

今回の措置によって国際的な原油価格や天然ガスの価格が急騰した場合、日本のガソリン価格や電気・ガス料金など幅広く価格上昇の影響が懸念されます。

大手電力会社は発電所の燃料として天然ガスを大量に輸入しています。

原油や天然ガスの価格が上昇すると電気料金は高止まりすることになります。

すでに、大手電力会社10社のことし4月分の電気料金はLNGや石炭などの輸入価格が大幅に上昇していることが要因で、比較できる過去5年間で最も高い水準となっています。

また、日本は石油の4%程度、LNG=液化天然ガスの8%程度をロシアから輸入しています。

LNGは三井物産と三菱商事が出資するサハリンでの石油・天然ガスプロジェクト「サハリン2」からの調達が主で、日本の電力会社やガス会社なども購入しています。

このうち、サハリンからのLNGを輸入している東京電力と中部電力が設立した火力発電事業者JERAは「現時点で開発事業者から調達に影響があるとの連絡は入っていない。今後の制裁内容について確認するとともに状況を注視したい」とコメントしています。

米バイデン政権高官「戦争を選んだ結果だ」

アメリカのバイデン政権の高官は、記者団に「プーチン大統領が戦争を選んだ結果だ」と述べました。

そして、SWIFTから締め出す対象となる銀行については「欧米がすでに制裁を科している銀行が最初に検討されるだろう」と述べました。

また、今回の措置が、ロシアとエネルギーに関わる取り引きをしている国々に影響を及ぼさないようにする必要があるとして「われわれはどの銀行を通じてエネルギー関連の大部分の取り引きが行われているかを知っており、そうしたところを選ばないこともできる」と述べました。

一方、この高官は、中国がロシアが被る影響を和らげるために支援することは考えにくいとの見方を示しました。

ドイツなどが慎重姿勢を転換

SWIFTからロシアの銀行を締め出す措置をめぐっては、これまで、ヨーロッパ諸国の中に慎重な姿勢を示す国があり、議論が続いていました。

イギリスは各国が協調して実施する必要があると呼びかけていましたが、天然ガスなどの輸入でロシアに依存する国の中にはエネルギー調達への懸念から慎重な国も少なくありませんでした。

しかし、これまで慎重だったドイツは26日、ベアボック外相とハーベック経済・気候保護相が連名でツイッターに投稿し、「狙いを絞った機能的な制限が必要だ」として、各国に歩調を合わせる姿勢を示しました。

また、イタリアとハンガリーも賛同する姿勢に転じていました。

ロシアの一方的な軍事侵攻に対し国際社会でより厳しい制裁を求める声が広がる中、ドイツなどの国々が賛同に転じたことで、欧米の合意につながったものとみられます。

専門家「ルーブル下落がねらいか?」

今回の制裁の狙いについて野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「欧米はロシアの通貨、ルーブルの下落を促しているのではないか。SWIFTからロシアの特定の銀行が締め出された場合、ルーブルを持っていても簡単にドルに替えられなくなり、ルーブルの信頼感や価値が下がることになります。ルーブルの下落はロシアの生活者にとっては、色んな輸入品の値段が相当上がり、生活にかなりダメージが及ぶ。その不満が反戦運動に繋がるなど、世論の大きなうねりとなって、最終的にはロシアの軍事的な行動を、抑えるという期待があるとみられる」と指摘しました。

「世界、日本のGDP押し下げられる影響も」

また、アメリカのバイデン政権の高官が今回の措置が、ロシアとエネルギーに関わる取り引きをしている国々に影響を及ぼさないようにする必要があると述べていることについては「すべての決済を止めてしまうとエネルギー価格の上昇などで、ブーメランのように欧米の経済に影響が及ぶため、現状では、ロシアの天然ガスのヨーロッパへの供給を止めないような措置にとどめられている。しかし、今後、ロシアの出方次第では、段階的に制裁を強化し、エネルギー価格にも影響が及ぶだろう」と指摘しました。

その上で、「エネルギー関連も含めて、ロシアのすべての銀行が最終的に制裁対象となれば、エネルギー価格の急騰や金融市場の混乱につながり、世界のGDP、日本のGDPも押し下げられる影響があると考えられる」と述べました。