国際的決済網“SWIFT”からロシアの銀行締め出す制裁へ 米・欧

アメリカとヨーロッパ各国などは、SWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークからロシアの特定の銀行を締め出す措置を実行することで合意したと発表しました。ロシアの軍事侵攻に対して最も厳しい措置の1つとされる経済制裁に踏み切ることになります。

アメリカとヨーロッパ各国などは26日、共同声明を発表し、SWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークからロシアの特定の銀行を締め出す措置を実行することで合意したと発表しました。

SWIFTは世界各国の金融機関が国をまたぐ貿易などの決済や送金に使うシステムで、対象となるロシアの銀行を国際金融システムから切り離し、世界的に活動する力を低下させるとしています。

アメリカやヨーロッパ、日本などは、ロシアに対して金融やハイテク分野の経済制裁を決めていますが、最も厳しい措置の1つとされるSWIFTからの排除をめぐってはロシアからエネルギーを輸入するヨーロッパなどへの影響や、世界的なエネルギー価格の上昇への懸念から一部の国が慎重な姿勢を示していました。

しかし、ロシアの軍事侵攻が続く中、より強い対抗措置に踏み切る必要があるとの判断でまとまった形です。

各国は対象となるロシアの銀行を決定して数日以内に制裁を実施するとしていて、詳しい内容が焦点になります。

共同声明で各国は「ロシアを国際金融システムや経済からさらに孤立させる制裁を続けることを決意している」と強調し、今後さらなる措置を行う構えも示しました。

SWIFTとは? 除外は経済への大打撃も

SWIFT(国際銀行間通信協会)はベルギーに本部を置く非営利組織で、国際金融の送金を手がけています。世界の1万1000以上の金融機関が利用し、決済額は一日当たり5兆ドル(日本円で約575兆円)にのぼります。

SWIFTを利用できなくなると、その国の企業は貿易の決済が困難になるため、アメリカはこれまでたびたび経済制裁にSWIFTからの除外を盛り込んできました。

2012年に欧米がイランに対して実施した経済制裁ではイランがSWIFTから除外され、石油の輸出による収入が大幅に落ち込んだとされています。

ロシアに対して同様の制裁が実施された場合、ロシアの主要な輸出品である石油やガスなどの貿易で決済が難しくなり、ロシア経済は大打撃を受けるとみられます。

ただ、ドイツをはじめとするヨーロッパ各国は天然ガスの供給の3割以上をロシアに頼っていて、ロシアが制裁の報復として天然ガスの供給を絞る可能性もあり、ヨーロッパの国々も大きな影響が出るおそれがあります。

このため欧米はロシアに対する経済制裁にSWIFTからの除外を含めるかどうか、慎重に検討してきたものとみられます。

日本の金融機関への影響は

SWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークから、ロシアの特定の銀行が締め出された場合、日本の金融機関も制裁の対象となる銀行との取り引きができなくなります。

一方で「三菱UFJ銀行」「三井住友銀行」「みずほ銀行」のメガバンクはロシアに現地法人を持っていることからグループ内でロシアの銀行を介さずに行う送金などはできる見込みですが、今後、明らかにされる制裁の内容しだいで、どのような影響が出てくるのか、不透明な部分もあります。

また、今回の制裁を受けて、市場関係者の間では、株式市場をはじめとする金融市場の混乱につながるのではないかという警戒感が強まっています。

制裁を受けて資源国のロシアから、天然ガスや原油の供給が滞れば、すでに高止まりしている価格がさらに上昇するおそれがあり、その結果、欧米で物価が一段と上昇する可能性もあるからです。

すでにインフレ対応で金融引き締めを急いでいる欧米の金融政策に影響を与える可能性も指摘されています。

日本企業への影響は

国際的な決済ネットワークSWIFTからロシアの特定の銀行が締め出された場合、日本企業にとってはエネルギー価格への影響などが懸念されています。

アメリカのバイデン政権の高官は、今回の措置が、ロシアとエネルギーに関わる取り引きをしている国々に影響を及ぼさないようにする必要があると述べていますが、決済が複雑で一部が石油や天然ガスの輸出入に関わるようだと資源の調達やエネルギー価格に影響が及ぶ可能性があります。

2020年の貿易統計によると、日本は石油の4%程度、LNG=液化天然ガスの8%程度をロシアから輸入しています。

さらに、国際的な原油価格や天然ガスの価格が急騰した場合、日本のガソリン価格や電気・ガス料金など幅広く価格上昇の影響が懸念されます。

大手電力会社は発電所の燃料として天然ガスを大量に輸入しています。

原油や天然ガスの価格が上昇すると電気料金は高止まりすることになります。

すでに、大手電力会社10社のことし4月分の電気料金は、LNGや石炭などの輸入価格が大幅に上昇していることが要因で、比較できる過去5年間で最も高い水準となっています。

また、ロシアに進出している日本企業の間ではロシアの銀行を通じて行っている決済などへの影響も懸念されています。

このため、ロシアのどの銀行がSWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークから締め出されるのかなど制裁の詳しい内容が注目されています。

さらに、関係者の間では国際的に高まっているロシアへの批判が事業に及ぼす影響を懸念する見方も出ています。

ロシア国内で進めている事業がひいてはロシア、プーチン政権の利益につながるなどとして事業の継続に影響するのではないかという見方です。

外務省の海外進出日系企業拠点数調査によりますと、ロシアにはおととし10月時点で421の日本企業が進出しています。

ヨーロッパで慎重姿勢も 厳しい制裁求める声受け

SWIFTからロシアの銀行を締め出す措置をめぐっては、これまでヨーロッパ諸国の中に慎重な姿勢を示す国があり、議論が続いていました。

イギリスは各国が協調して実施する必要があると呼びかけていましたが、天然ガスなどの輸入でロシアに依存する国の中にはエネルギー調達への懸念から慎重な国も少なくありませんでした。

しかし、これまで慎重だったドイツは26日、ベアボック外相とハーベック経済・気候保護相が連名でツイッターに投稿し「ねらいを絞った機能的な制限が必要だ」として各国に歩調を合わせる姿勢を示しました。

またイタリアとハンガリーも賛同する姿勢に転じていました。

ロシアの一方的な軍事侵攻に対し国際社会でより厳しい制裁を求める声が広がる中、ドイツなどの国々が賛同に転じたことで欧米の合意につながったものとみられます。

米バイデン政権高官「プーチン大統領が戦争を選んだ結果」

アメリカのバイデン政権の高官はヨーロッパ各国などと、SWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークから、ロシアの特定の銀行を締め出す措置を実行することで合意したことを受けて、記者団に「プーチン大統領が戦争を選んだ結果だ」と述べました。

そして、SWIFTから締め出す対象となる銀行については「欧米がすでに制裁を科している銀行が最初に検討されるだろう」と述べました。

また、今回の措置が、ロシアとエネルギーに関わる取り引きをしている国々に影響を及ぼさないようにする必要があるとして「われわれはどの銀行を通じてエネルギー関連の大部分の取り引きが行われているかを知っており、そうしたところを選ばないこともできる」と述べました。

一方、この高官は、中国がロシアが被る影響を和らげるために支援することは考えにくいとの見方を示しました。