【専門家解説】ウクライナ軍事侵攻 ロシアのねらいは

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は各地で続き、首都キエフ近郊では、キエフへの侵攻を目指すロシア軍の戦車部隊とウクライナ軍による戦闘が続いているとみられます。今後の展開について、防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんの解説です。

“進撃スピード速く まもなくキエフ陥落となるかも”

兵頭さんは25日午後7時時点のウクライナでのロシアの軍事作戦の状況について「ロシア国防省は、24日に軍事侵攻を開始してからわずか3時間でウクライナの制空権を取ったと言っており、わずか1日でこれだけの軍事展開をするというのは、非常にスピードが速い。3方向から戦車などの地上部隊がウクライナ内部に迫っており、特に、ベラルーシから国境を越える形で南下し、部隊が首都キエフに近づいている。ウクライナ軍は徹底抗戦の構えを見せており、非常に緊迫した状態が続いている」と話しています。

そして「まもなくキエフが陥落するということになるのではないか。戦闘がさらに激化した場合はもう少しかかるかもしれないが時間の問題だろう。25日にチェルノブイリ原発を制圧したが、ロシアとしてはウクライナ全土を軍事的に掌握する必要があり、地上部隊を投入し続けるだろう」と指摘しました。

また、ロシア側の意図については、「アメリカメディアの報道ではゼレンスキー大統領や側近を拘束、または殺害する計画を持ってるのではないかと伝えられており、ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立するねらいがあるのではないか。その政権とロシアの間で中立条約を締結することでウクライナの非武装中立化を図り、それによってウクライナのNATO加盟を阻止するという、プーチン大統領の思惑が、ここ一日で見えてきたのではないか」と話しています。

さらに、ロシアに対する最も厳しい経済措置の1つとして注目されている、SWIFT=(スウィフト)「国際銀行間通信協会」からのロシアの銀行の排除について、兵頭さんは「SWIFTからロシアを除外するのは、欧米諸国の最大にして最後の切り札の経済制裁だ。今後、プーチン大統領の行動は、軍事的オペレーションから、ゼレンスキー政権の打倒という新たな政治工作にフェーズが移る可能性があり、欧米諸国としては最後の切り札をいま使うことはできないだろう」としたうえで「ヨーロッパ諸国をはじめ、ロシアにエネルギーを依存する国は、ロシアがSWIFTから除外されるとロシアとの貿易を断念することになるので非常に難しい判断になる。ロシアの動きを制するためには欧米諸国の結束、連帯が問われていくことになる」と話しています。

サイバー攻撃は「日本国内の企業も警戒を」

一方、サイバーセキュリティーの専門家は今後、ロシアからのサイバー攻撃が増えるおそれがあるとして、国内の企業などに警戒を呼びかけています。

NTTのチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストの松原実穂子さんはロシアからウクライナへのサイバー攻撃の増加だけでなく、各国が講じるロシアへの制裁への反発として日本も含めた欧米各国の金融機関などにサイバー攻撃が行われる可能性があり、警戒が必要だとしています。

松原さんは今のところ欧米や日本などへの大規模なサイバー攻撃の情報はないとしたうえで、「インターネットに国境はなく、広くサービスを提供している企業がサイバー攻撃を受ければサプライチェーンなどを通じてドミノ式に悪影響が世界全体に及ぶ可能性がある」と話しています。

そのうえで松原さんは日本の企業などが取るべき対策について「ロシアによるサイバー攻撃やウイルスの拡散はどこまで広がるか予測しづらい。コロナ禍で行政も企業もITへの依存が高まっているため社内システムなどにぜい弱性がないかを点検し、危機対応を見直す必要が高まっている」と話しています。