米大統領 ロシアへの経済制裁など決定【各国・地域の対応は】

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、アメリカのバイデン大統領はロシア最大の金融機関の取り引き制限など、大規模な経済制裁を実施すると発表しました。
アメリカ軍の部隊をヨーロッパに追加で派遣することも決め、ロシアに対し断固たる姿勢で臨むと強調しました。

バイデン大統領は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて24日、ホワイトハウスで演説し「プーチン大統領は侵略者だ」などと、強く非難したうえで大規模な制裁を科すと発表しました。

具体的には、ロシアの政府系銀行で国内最大の「ズベルバンク」など5つの大手金融機関について、ドル建ての取り引き制限や、アメリカ国内の資産の凍結を行うと明らかにし、その結果、資産ベースで、ロシア国内の銀行の80%が制裁の対象になるとしています。

これらの大手金融機関は、ロシアの石油や天然ガスなどを扱う多くの企業に融資を行っているため、ロシア経済に幅広く打撃を与えるねらいです。

さらに、ロシアによる最先端技術へのアクセスを断つとして、アメリカからのハイテク製品の輸出規制を実施するとしています。

一方、軍事面の圧力としてバイデン政権は、NATO=北大西洋条約機構の加盟国の防衛態勢を強化するため、7000人規模のアメリカ軍の部隊をドイツに追加で派遣することを決めました。

部隊は数日中に出発し、必要に応じて、そのほかの地域に展開するということです。

バイデン大統領は演説で、アメリカ軍の部隊をNATOの加盟国ではないウクライナに派遣することはないと改めて明言しましたが、大規模な制裁や周辺地域への部隊の配置によって、ロシアに対し断固たる姿勢で臨むと強調した形です。

米 バイデン政権 対ロシア大規模制裁の内容は

アメリカのバイデン政権が24日発表した大規模な経済制裁の内容です。

まず、ロシアの政府系銀行で国内最大の「ズベルバンク」と、2位の「VTBバンク」を含む5つの大手金融機関について、ドル建ての取り引きを制限したりアメリカ国内の資産を凍結したりします。

制裁の対象はロシアの銀行の資産の80%になるとしています。

これらの大手金融機関は、ロシアの石油や天然ガス、それに鉱物資源を生産する多くの企業に融資などを行っているため、ロシア経済に幅広く打撃を与えるねらいです。

そして、ロシアによる最先端技術へのアクセスを断つとして、ハイテク製品の輸出規制を実施します。

防衛や航空産業に使われる処理能力の高い半導体やレーザー、センサーなどを、アメリカ企業などがロシアに輸出できないようにする措置で、ロシアのハイテク分野の輸入が50%以上減少すると見込んでいます。

このほか、ロシア最大のガス会社「ガスプロム」を含む国有企業など13社がアメリカの市場で新たな株式や社債の発行をできなくする規制の導入や、プーチン大統領の側近の家族らの資産の凍結を実施するとしています。

バイデン大統領は記者会見で「ロシア経済への資金と技術を制限し、ロシアの産業力を低下させる」と述べ、ヨーロッパや日本などと協力してロシアに対抗していく姿勢を強調しました。

ただ、大規模な制裁は、原油や天然ガス、穀物などの供給への懸念を高め、価格の上昇に拍車をかけたり、輸出規制によって世界のサプライチェーンに混乱を招いたりするおそれもあります。

このため、世界経済の大きな課題になっているインフレ圧力を高めることにつながらないか、注視する必要があります。

一方、ロシアに対する最も厳しい措置の一つとされる銀行間の国際的な決済ネットワークであるSWIFT=「国際銀行間通信協会」からロシアの銀行を排除する措置は、今回の制裁に含まれていません。

これについてバイデン大統領は「常に選択肢の一つだが、いまヨーロッパ各国はそれを望んでいない」と述べました。

また、記者から、制裁が抑止力になっていないのではないかと問われたバイデン大統領は「制裁が彼を止められるとは言っていない。制裁が効果を発揮するには時間がかかるが、ロシアを弱体化させることにつながる」と述べ、ロシアの侵攻を直ちに食い止めることを目指したものではないとしました。

また、バイデン大統領は現時点でプーチン大統領と会談する予定はないとしたうえで、25日にはNATO=北大西洋条約機構の首脳会議を開いて連帯を確認するとともに、今後の対応について協議するとしています。

EU首脳会議 ロシアに追加制裁で合意

ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻を受けて、EU=ヨーロッパ連合は緊急の首脳会議を開き、ロシアに対し、金融やエネルギーなどの分野で追加制裁を科すことで合意しました。

EUは24日、ロシアへの対応などを協議するためベルギーのブリュッセルで緊急の首脳会議を開きました。

首脳会議では、軍事侵攻を強く非難し、ロシアに対して直ちに軍事行動をやめるよう求めることで一致しました。

そして、金融やエネルギー、それに半導体をはじめ先端技術を使った製品の輸出などに関して、追加の制裁をロシアに科すことで合意し、今後速やかに手続きを進めるとしています。

会議のあとの記者会見でEUのフォンデアライエン委員長は「プーチン大統領は力でヨーロッパの地図を書きかえようとしているが、かならず失敗するだろう」と述べ、EUとしても強力な制裁を科すことでこれ以上の軍事侵攻を阻止したい考えを強調しました。

EUは、先月の時点で天然ガスの輸入の4割をロシアに依存しており、ロシアが制裁の対抗措置としてEUへのガスの輸出を制限する可能性もあるとみています。

このため今回の首脳会議では、エネルギーの分野も含め不測の事態への備えを進めるよう、EUの執行機関であるヨーロッパ委員会や各加盟国などに求めました。

英 ジョンソン首相 新たな対ロシア制裁措置発表

イギリスのジョンソン首相は、24日、ロシアに対する新たな制裁措置を発表しました。

それによりますと、すべてのロシアの銀行の資産の凍結を行う計画で、このうち、ロシアの政府系銀行で国内2位の「VTBバンク」の資産は即時凍結するとしています。

アメリカと協調した制裁で、ジョンソン首相はロシアの貿易のおよそ半分はアメリカドルやイギリスポンド建てで行われているため、これらの通貨による決済が難しくなると説明しています。

また、貿易の規制も強化し、通信機器や航空関連の部品など安全保障上、重要とされる製品について、軍事目的に転用できないようロシアへの輸出を禁止します。

このほか、プーチン政権と近い100を超える企業や実業家に対し、資産の凍結やイギリスへの渡航禁止の制裁を科すことや、ロシアのアエロフロート航空のイギリスへの発着を禁じることなども含まれています。

今回の発表には、銀行間の国際的な決済ネットワークであるSWIFT=「国際銀行間通信協会」からロシアの銀行を排除する経済制裁は含まれておらず、ジョンソン首相は、除外してはいないと説明したうえで「こうした手段を成功させるにはG7各国の結束が重要だ」と述べました。

独 ショルツ首相「これはプーチンの戦争」

ドイツのショルツ首相は、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、24日、国民に向けてテレビ演説を行いました。

この中でショルツ首相は、ウクライナの人々との連帯を強調したうえで「プーチン大統領はあらゆる警告や外交的解決に向けた努力に取り合わなかった。彼ひとりがこの戦争を決断し、全面的に責任を負う。これはプーチンの戦争だ」と述べ、プーチン大統領を厳しく非難しました。

そして「ウクライナへの攻撃を受け、われわれはさらに徹底した制裁を科す。ロシア経済にとって痛烈な打撃となるだろう」と警告しました。

さらに「われわれは決然と、結束して行動する。そこに自由な民主主義国家としての強さがある。プーチン大統領は勝利しないだろう」と述べ、各国と緊密に連携しながらロシアに対じしていく姿勢を強調しました。

台湾 行政院長「侵略行為を厳しく非難」

台湾の首相にあたる蘇貞昌 行政院長は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について報道陣の取材に答え「われわれはこのような侵略行為を厳しく非難するとともに、民主国家と歩調を合わせて制裁を加える」と述べました。

また、台湾外交部も「国際社会のロシアに対する経済制裁に参加する」と表明しました。

制裁の具体的な内容について王美花 経済部長は「各国と調整する」としていますが、台湾のメディアは、さきに半導体の輸出規制などを行う可能性があると伝えています。

南米 “非難” “配慮” “支持” 対応分かれる

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、南米ではコロンビアやアルゼンチンなど多くの国が懸念を示す一方で、ブラジルのボルソナロ大統領がロシアとの関係に配慮する姿勢を示すなど対応が分かれています。

このうちコロンビアやアルゼンチン、チリなど多くの南米の国では、ロシアの軍事侵攻を厳しく非難しています。

一方、ブラジルでは、ボルソナロ大統領がロシアの軍事侵攻を非難した副大統領に対し「この問題で発言する権利があるのは私だけだ」と注文をつけるなど、ロシアとの関係に配慮する姿勢も示しています。

さらに、ロシアの支援を受けて独裁を続けるベネズエラの外務省は24日、声明を発表し「アメリカが主導するNATOが停戦合意に違反したことは遺憾だ。ロシア国民に対する違法な制裁は認められない」などと述べ、ロシアを支持する姿勢を強調しました。

東南アジアの各国からも非難の声

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて東南アジアの各国は相次いでロシアを非難する立場を表明しています。

インドネシアはジョコ大統領が24日夜、ツイッターに投稿し、「戦争をやめよ。戦争は人類に悲惨な状況をもたらし、全世界を危険にさらす」と訴えて、ロシアによる軍事侵攻を強く非難しました。

インドネシアは近年、ウクライナと貿易や防衛分野の協力で関係を深めています。

一方で、外務省の報道官は24日の記者会見で、ロシアへの制裁に関しては慎重な姿勢を示しています。

また、カンボジアの国営メディアによりますと、フン・セン首相は24日、「プーチン大統領は、人道の名のもとにロシア軍を撤退させるべきだ。争いを直ちにやめなければならない」として武力ではなく、対話で解決するべきだと訴えました。

さらに、シンガポールも外務省の報道官が声明を発表し、「主権国家に対する正当な理由のない侵略を強く非難する。ウクライナの主権や独立、領土の一体性は尊重されなければならない」と強調しています。

東南アジア各国は、現地の大使館を通じてウクライナに滞在する自国民と連絡を取り、航空機を使った退避を検討するところも出てきています。

中国 報道官「みずからの方法で和解を促す」

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、民間人を含む死者も出ていることについて、中国外務省の汪文斌報道官は25日の記者会見で「ウクライナ問題の政治的解決の扉は完全に閉ざされてはいない。中国は引き続き、みずからの方法で話し合いによる和解を促し、外交による解決を推し進めるための努力を歓迎し奨励していく」と述べ、欧米などが制裁措置を強化するなか、あくまで話し合いによる解決を模索すべきだという姿勢を示しました。